定食屋さん
ここは、復帰したときに来た定食屋さんだ。
松野さんに少しお話しがあるので、お時間ありますかとメールしたところ、今日のお昼の時間が空いているので、一緒に外で食べましょうという話になった。ずいぶんと暖かくなってきたので、上着は職場に置いて、七分袖のシャツで会社からお店まで歩いた。歩道に等間隔に植えられている街路樹の新緑の香りがこの季節らしい。
人気の店なので、前に来た時と同じように店頭で待っていると、やがて「松野様2名様」と呼ばれて、奥のテーブル席に案内された。今日も近隣の会社のサラリーマン達でにぎわっている。本日の日替わり定食は季節の刺身定食で美味しそうだったが、今日はおろしかつ定食の気分だったのでそれを注文した。松野さんは、私はエビが好きだからと言って、店員にエビフライ定食を頼んだ。
座った途端、メニューに書いてある料理の話題になったが、今日は詩の方から声をかけたので、早速、本題を切り出した。
「実は、先日、人事の北川さんにも話したことなのですが、もうずいぶんと体調もよくなってきたので、そろそろ、以前と同じように仕事していきたいなと思っていますが、どうでしょうか。」
「あ、ありがとう。実は私も同じことを思っていたの。最近、仕事も増えて、派遣の佐藤さんにも来て貰っているけど、まだまだ手が足りないとことがあって。湖嶋さんが回復したらお願いしたいなと丁度、思っていたところなのよ。」
と満面の笑みを浮かべて松野さんが話してくれた。
「復帰して以来、みんなに気を遣ってもらっているのが、私も心苦しくて。なので、残業とかも大丈夫なので、あらためてよろしくお願いします。」
「湖嶋さん、本当に良かったわ。こちらこそ、よろしくお願いします。実は話があるっていうから、会社を辞めるとかだったらどうしようと思って心配していたのよ。」
笑顔の理由を知って、そんな心配をかけていたのかと申し訳なく思って、詩は即座にその心配事を否定した。
「こんなによくして貰っていて、それは絶対にないです。」
「でも、体調のこともあるから無理しないでね。湖嶋さんは頑張り屋さんだから。もうすぐしたら、ゴールデンウィークだから休み明けに仕事の調整させて貰うことで、いいかな?」
「はい、もちろんです。」
本題の話しが纏まった頃、手際の良い店員さんが注文した料理を配膳用の黒塗りのお盆に乗せて持ってきてくれた。
「湖嶋さん、食べよう。」
「はい、頂きます。」
こうして、詩の職場復帰は順調に進んでいった。
残された問題は暗唱番号の謎解きだ。今日の話しで連休明けには仕事が本格化するから、出来ればゴールデンウィークの間に謎を解明しておきたいと詩は思った。
貸金庫の中には何が入っているのだろう。何かはわからないけれど、きっと、そこに詩が追い求めているものがあると信じている。後もう少し、彼が遺した貸金庫に向けて手を伸ばしてみようと思った。




