神様という存在
週末は、雨だった。外に出るのはおっくうなので、届いた収納ケースにリビングに取り出した書籍を分類して入れていくだけの時間を過ごした。収納ケースには、中身を意味する研究所番号を記載したラベルをパソコンで作成して印刷し、その前面に貼り付けておいた。
FI/1、FI/3、FI/4、FI/5、FI/6のラベルを見て、研究所で働いたことはないが、どこかにある研究所の資料のようだと思った。他の人が見ても、中に何が入っているのかはわからない。私といっちゃんだけの秘密の資料だ。それにしても、既に6個あった収納ケースの半分以上が書籍でいっぱいになった。膨大な資料だ。振り返ると、人間が読んで理解できる量ではない気がした。
その時、昔、いっちゃんの車の中で、おしゃべりした会話をふと想い出した。
『神様って、意外と身近な存在なんだと思う。』
『え、どういうこと。神様って雲の上の存在なんだよ。』
『うん。でもギリシャ神話に出てくる神様なんて、結構、わがままで人間ぽいよ。恋もするし、欲もあるし。』
『でも、人間に出来ないことをいっぱいできるよ。』
『確かにそうだけど。ところで、ゼウスって知ってる?』
『うん。名前くらいは知ってる。会ったことはないけど。』
『はは、普通は会わないよ。』
詩が茶化すといっちゃんは笑顔を浮かべながら、本論を話してくれた。
『ゼウスって全知全能なんだって。だから最高神に位置づけられてる。』
『ほらやっぱり、神様は凄いじゃない。』
『でも、そこで気付いたんだ。』
『何を?』
『ゼウスは全てを知っているから最高神。ということは、たくさんのことを知れば知るほど、神様に近づけるということなんだと思う。』
『・・・』
『人間でもたくさんのことを知っている人を物知りとか言うよね。特に特定分野の専門家を先生とか博士って呼ぶし。』
『そうだけど、先生や博士と神様は違うよ。』
『うん、違うよ。同じレベルの人が他に存在する場合は、博士や先生。同じレベルの人が他にいないくらいにたくさんの知識を持つ人は神様。』
『確かに、圧倒的な知識を持って人に出来ないことが出来る人は神様に見えるかもね。』
『そう、そういうこと。きっと、昔からそうなんだよ。』
『いっちゃんは神様になりたいの?』
ここで、いっちゃんは間を置いた。そして、私の眼を覗き込みながら笑顔でこう答えた。
『僕が獲得したいのは、詩ちゃんを幸せにする能力。』
彼のジャケットの襟には、流れ星のブローチが光っていた。彼なら不可能なことはないかも知れない。願いを叶えてくれるかも。
リビングに積まれていた最後の一冊を収納ケースに入れて蓋を閉じた。いつもより時間の流れが緩やかな週末の一日だった。




