手紙
電車の窓に流れる風景がモノクロに見える。昼夜の区別もわからないくらい泣いた。しばらくは心配する両親の暮らす地方の実家で過ごした。現在は勤務地のある都会のアパートに戻ったが、会社には依然として休職の届けを出している。
「詩ちゃん、ごめんね」、何度も何度も涙声で、彼の両親は謝ってくれたけど、誰のせいでもない。悪いのは彼の方だ。人のことはわかるクセに自分のことは想定外だったみたいだ。ずっと一緒にいると言ったのに、嘘つきだ。紡いだ心の生地の半分を引き千切られたみたいに、その傷跡が今も疼いている。
お通夜のとき、彼の両親から死因を聞いたが、結局の原因はよくわからない。医師がいうには急性心不全。自宅で発作を起こして倒れ、家族が見つけたときは手遅れだったとのこと。事件性はないので、詳しい調査が行われることはなく、それ以上のことはわからない。
今日、外出することになったのは、彼の遺品の中に、私宛の手紙が見つかったからだ。きちんと封がしているらしく、中身はわからない。ただ、彼の両親から電話があったときは、正直、戸惑った。どんな言葉が書かれていても、死んでしまっては意味がない。今更、優しい言葉なんか聞かない方が良いに決まっている。
だけど、彼のことだ。もしかしたら、こうなることを想定して、何かのメッセージを遺したのかも知れない。そう思うと、その手紙が見たくなった。それに、今まで良くしてもらった彼の両親に要りませんというのも憚られるし、郵便で送ってくださいとも言い出せずに、結局、取りに行くことにした。




