彼のスーツ
あらためて、部屋を観察すると、左右の本箱の壁と直交する正面の壁は、オープンクローゼットになっていて男性用の衣服がかかっている。クローゼットを構成する前方と後方の2列のハンガーラックの手前の列のハンガーには、見慣れた彼のスーツやシャツがかかっていて、奥の列のハンガーには長めのコート類がかかっている。服のデザインや種類から、手前が夏服で奥が冬服であることが推察できた。各スーツの胸ポケットには、スーツの色とマッチしたポケットチーフが入れてある。
よく見ると、オープンクローゼットの奥の壁は障子になっていて、今は開閉が困難になっているが、茶室として使用されていた時はその障子を開けると外の景色が見えるようになっていたと思われる。
目を移して正面の壁と対抗するアーチ状の入り口側の壁を見ると、そこには姿見の鏡と、たくさんの小物入れの引き出しのある戸棚があった。戸棚の横には、回転式のネクタイスタンドが置いてあり、そのスタンドには無数のネクタイが吊り下げられていた。デートのときによく見かけた有名ブランドのネクタイもあった。お洒落な彼の姿が心に浮かんだ。
彼は毎日この部屋で着替えて、姿見の鏡で服装をチェックして外出したのだろうか。書籍のことよりも、在りし日の彼の日常を垣間見ることになり、胸が熱くなった。
ここは、茶室の中の図書館。
時が遡ると共に、空間が歪んだ気がした。
茶室の中で、懐かしい想い出が交差した。




