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Pomegranate I  作者: Uta Katagi
第3章

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北川さん

 時間前に、職場の会社が入っている都会のビルに到着し、一階のフロアの共用受付で社名と人事の北川さんと約束をしていることを告げる。そう、今日は職場にいく訳ではなく、来客用のフロアの会議室で人事の北川さんとの打ち合わせだ。このビルのテナントになっている他の会社の営業部門の方々がこのフロアをよく利用している。

 

 普段は入らない場所なので、まるで新入社員のように辺りを見渡していると、受付の担当者が予約されていた会議室の場所を親切に案内してくれた。会議室に入るとその壁には、誰の作品かは知らないが美しい港湾風景を描いた風景画が飾られていた。


 やがて、北川さんが会議室に独りで入ってきた。

 「すみません、お待たせして申し訳ないです。」

 「とんでもないです。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。」

 ベテランの人事らしく、私が時間前に到着したのにも関わらず、向こうから先にお詫びの言葉を発する北川さんに、多大な迷惑をかけているこちらの方が恐縮してしまう。


 会合では、しばらく実家に帰っていたことや現在の生活などについての近況報告に加えて、診療内科の先生が復帰について好意的であることを詳しく話した。


 「それは本当に良かったです!お元気になって来られたようで、私もとても嬉しいです。」

 復帰に向けて前向きな話をすると、最初は心配そうな顔をしていた北川さんの表情も和み、今は心から喜んでいてくれることが伝わってきた。


 ただ、こちらから彼のことには触れたくなかったし、相手も聞いてくることはなかった。そこは個人情報に関わる話だし、休職の要因にもなったことなので、人事も質問してこないことにしているのだろうなと詩は思った。


 「では、しばらくは今後も経過観察を継続して頂いて、職場は来月1日からのご復帰ということにしておきますね。もし、具合が悪くなったら、遠慮なく連絡してくださいね。」


 「はい、お願いします。本当に親切にして頂いて助かります。」

 「いえいえ、大変なことがあったのですから。でも、体調が回復されて本当によかったですよ。」

 「ありがとうございます。ご配慮に感謝します。」


 今後の復帰に向けての手続のことをやりとりした後、最後に何か質問ありますか?と聞かれたので、職場の上司や同僚はどうしていますかと、おそるおそる聞いてみた。


 今日まで定期的に人事に状況を報告する程度のやりとりはしていたが、迷惑をかけている職場の人には直接、連絡しづらくて、少し疎遠になっていた。ただ、復帰に向けての話しになると、実際は、私のことをどう思っているのかが心配になってきた。


 その不安を遮るかのように、北川さんがこう伝えてくれた。職場全員が私のことを本当に心配していて、早く良くなって帰ってくることを心待ちにしているとのこと。私の座席も毎日、掃除して綺麗にしてくれているらしい。職場からの連絡が少なくなったのは、人事の方から本人に復帰を催促するような話はプレッシャーになるからあまりしないようにと伝えているからとのことだった。


 実際、私の上司の松野さんが、頻繁に北川さんのところに来て、同僚に私の回復に向けての経過を個人情報に配慮しながら、伝えていてくれていたらしい。


 人事のお話しなので、少し誇張はあるだろうけど、そう聞いて素直に嬉しかった。自分の居場所がまだあるとわかった瞬間だった。復帰したら職場のみんなに迷惑をかけたことを謝ろうと心から思った。


 その後、北川さんが準備してくれていた復帰に向けての手続書類に必要事項を記載するなど、人事関係のやりとりを終えて、会社を後にした。


 ふー、久しぶりの会社だった。短時間の打ち合わせだったけれど、社会復帰に向けて目途がたったことで、晴れやかな気分になった。


 帰り道、大通りに抜ける交差点に出る。いっちゃんが昔サプライズで迎えに来た交差点だ。ここにいる訳がないと分かっていても彼を探してしまう。


 少し前だったら、この場所に来て想い出すだけで大泣きするところだったが、今日は大丈夫だった。今はどこかで彼を感じることができていた。暖冬の季節の優しい風が、詩の髪を撫でた。


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