絶対的な真実
「私ね、このファイルを貸金庫から取り出して以来、ほぼ毎日レポートを読んでいるからね。」
詩は更に続けた。
「このレポート集が興味深いのは、世界の神話も同じことを伝えているって書いてあるの。」
「え、神話?」
巫女の経験を持つ芽依ちゃんの顔がぴくんと上がり、可愛いポニーテールが少し揺れた。
「そう、そもそも神話とは、絶対的な真実として伝えられている原古の伝承なんだって。だから、真理の解明に役立つらしく、レポート集には世界中の神話の内容がたくさん報告されていたの。」
「神話は絶対的な真実… そんなこと今まで考えたことなかったけど、古の時代から語り継がれているって、そう考えられているってことだもんね。そして、その神話が伝えていることが、現代科学と一致するなんて確かに面白いね。」
「うん、そうなの。神話には、宇宙の始まりを伝えている宇宙起源神話というのがあって、四大文明の宇宙起源神話の内容に共通性があるんだって。」
「四大文明って、あの人類最古の文明でしょ。中国、エジプト、メソポタミアとインダス文明だったっけ。」
詩が詳しく説明しなくても、芽依ちゃんが補足してくれるので、とても話しやすい。
「表現の仕方は違うけど、最初はみんな混とんから生じていると伝えているらしいの。混沌って、何もきまりや定まったものがない混乱した状態、つまり制約がない状態。さっきの科学の話しと一緒。」
「え、そうなんだ。そう言えば、日本書紀の冒頭も天地が別れる前は、混沌とした状態だったという出だしだった。」
さすが芽依ちゃん、巫女のときに神官の人から聞いたのだろうか。
「特に、中国の漢民族の盤古神話は、その混沌を破裂させて天と地が創造されたと伝えているし、エジプト神話でも混沌を支配する掟を破って世界が創造されたと伝えているの。この様子って、まさにビッグバーンを表しているかもしれないってレポートには書いてあった。」
ここで、急に芽依ちゃんが黙り込んでしまった。
「芽依ちゃん、どうしたの?」
思わず、詩が尋ねると、芽依ちゃんが静かなトーンで口を開いた。
「詩ちゃん、真理の書って新しい神話なのかも。世界中の神話や、現代科学の全ての知識を集めた未来に向けた人類の新しい神話。出だしは、この世界の始まりになっているし。神話だから、あえて書式は詩の形式にしているんじゃないかな。」
芽依ちゃんの深い洞察力には感服する。そう言われてみれば、そうかもしれない。謎めいた四行詩の書式の意味もわかる。
ここで、詩は隣の席に置いていたバッグから一枚の紙を取り出した。
「これが、真理の書の出だしの詩なの。」
湖をわたる風がそよぐ。
オークの木の葉で光がゆれる。
遠い時代の記憶にのせて
エルフたちの歌声が聞こえる。
芽依ちゃんが息を呑んだのがわかった。




