虚無の理論
「四つの面は、東西南北の方角で表される面なの。それぞれの面には意味深な四行詩が記載されていて、現在は北の面をその参考文献になっているレポートからやっと解析し終えたところよ。」
「方角で表される面… 東の面とか西の面とか?それで、北の面って何だったの?」
予想通りの質問だ。ここから、詩は事前に内容をわかりやすく整理したメモを見ながら説明した。
「北の面は、虚無なんだって。レポート集の5番目のレポートに虚無の理論というのがあって、全ては虚無から始まったらしいの。私も、最初は宗教みたいな話だと思ったけど、科学的に正しい仮説だとレポートには書いてあった。つまり、物がたくさんあればあるほど、そこにある物は制約を受けるけど、反対に物がなくなれば制約もなくなり、そこでは全てのことが可能になるらしいの。」
「制約って?」
菜美ちゃんが突っ込んできた。
「レポートには、物の動きなどを支配している物理法則とか科学の理論とかって書いてあった。」
研究発表している研究者のような立場で、詩が回答した。
「なるほどね。ニュートンが、りんごが樹から落ちるのを見て、地球がりんごを引っ張っていることを見つけたというような法則の話しのことだよね。」
芽依ちゃんは、理数系も得意だったみたいで、やはり頭が良い。詩も不確かで自信を持っていない技術的な事項についても、そのポイントを理解しているみたいだ。
「うん。レポートにも、地上から離れた宇宙に行くと、地球の重力から解放されて無重力になるように、何もない世界には既存の物理法則が適用されなくなるんだって。」
「そうだね、物がなくなっているからね。」
菜美ちゃんが頷いているので、詩は続けた。
「そう考えてみると、何もない虚無の状態って、何かを縛り付けるものが何も存在しないから、どんなことでも可能になるらしいの。例えば、宇宙って何もないところで突然ビッグバーンという大爆発から誕生したと科学者はいうけど、ではその爆発はどうして起こったのか今も誰もわからない。」
「私も小さい頃、宇宙の始まりってどうなっているのか学校の先生に聞いたけど、教えてくれなかった。」
芽依ちゃんって、そんなことを先生に聞いていたんだ。物識りなのがよくわかる。
「だけど、最初は何もなかったからこそ、今だと考えられないようなことが起こり得て、その無数の可能性の一つがビッグバーンという爆発だっただけで、その世界に私たちがいるだけなのかも知れないのだって。他にも可能性はいっぱいあっただろうけど、その世界には私たちはいないから考えても仕方がないらしい。きっと、ビッグバーンに至るまでは混とんとした時代が長く続いていたのかも知れないとレポートには書いてあった。」
「なんか、詩ちゃん、研究者みたいで凄い。」
難しいことをすらすらと話す詩の姿に、芽依ちゃんは驚いていた。私も未だにはっきりとは理解していないが、レポート集に書いてあったことを何度も復習して説明しただけだ。




