心療内科の先生
「それは、良かったですね。会社の同僚の方と休日の日に、仲良く観光されているのですね。」
マホガニーの色彩のソファーが向かい合わせに置かれたいつもの診察室で、担当医の先生が詩に優しく話しかけてくれた。
前回、通院はもう不要だと言われたが、海外旅行のことで心療内科の先生に確認しておこうと思い、今日予約しておいたのだ。松野さんや両親に海外旅行の話しをすると、絶対に心療内科の先生には聞いたのかと問われるに決まっている。
「症状が出ているときは、正直、海外旅行はお薦め出来ないのですが、湖嶋さんの場合は仕事に復帰して3月間、何も問題なく過ごされていますし、今度の海外旅行もその仲良しのお友達と行く訳ですし、あまり問題はないと思いますよ。」
先生は、そう言ってくれた。だけど、菜美ちゃんとずっと一緒にいる訳ではないので、詩は正直にそのことを伝えてみた。
「ずっと友達と一緒ではなくて、単独で行動する日もあるのですが、それでもよろしいでしょうか。」
ここは誤魔化しても仕方ない。私も本当のことが知りたい。
「もちろん、絶対に大丈夫とは私には言えませんが、今の湖嶋さんは何か人生に目的が出来たように見受けられます。そうですよね?」
先生は鋭い。貸金庫のこと、真理のファイルのことは一切話していないのに、どうしてわかるのだろう。心療内科の先生って、心が読めるのだろうか。
詩が軽く頷くと、先生が笑顔で続けて話してくれた。
「そのことがある限り、大丈夫だと思います。今回の海外旅行もその目的のためですよね?」
「は、はい。そうなんです。どうしても、行きたいところがあって。先生は、どうしてわかるのですか。」
詩は、先生の目を見ながら思い切って尋ねてみた。
すると、詩の顔をじっと見ながら、先生は答えてくれた。
「とても、明るい表情をしていますから。きっと、良い未来が見えているのだと思います。ただ、気分が悪くなったときは、決して無理しないでくださいね。念のために、お薬を出しておきますから、万一のときはこれを服用してくださいね。」
もう、先生は何もかもお見通しのようだ。その後の会話では、海外旅行に行くことを前提に、海外保険に入っておくこと、現地の病院をチェックしておくことなどのアドバイスもしてもらった。
そして最後に、何か困ったことがあったら、ここに連絡してくださいと先生個人のメールアドレスと電話番号が記載された名刺を貰った。ここまでしてくれるなんて、なんて優しい先生なんだろう。心がじんとした。
これまでいろいろあったけど、きっと私って人に恵まれている。詩はそう思った。今日も先生に会いに来て本当に良かった。ありがとう、先生。ここまで来れたのは、先生のおかげだ。本当に感謝しています。詩は心からそう思った。




