プランの練り直し
「詩ちゃん、ダメだって!」
最近、ネットで購入したというドット柄のシャツブラウスが似合っている菜美ちゃんが、いつもの会社の休憩室で二人になったときに話しかけてきた。
「何が?」
詩が聞くと、先日のヨーロッパ旅行の計画を松野さんに話したらしい。そうすると、今年は忙しいので同じ部署から二人同時に一週間の休暇は難しいとのことで、夏休みはお互いにずらして取得して欲しいとのこと。確かに少し懸念はしていたが、業務上、ダメと言われるとは詩も思っていなかった。
「せっかく、詩ちゃんとパリに行こうと思ってたのにな。あーあ、残念だな。諦めようかな。」
そう言って、両手を頭の後ろに組んで、唇をつんととがらせた菜美ちゃんが、アニメのキャラクターみたいで可愛いかったが、ヨーロッパに行く気満々になっていた詩は、そのことよりも先に今の気持ちが口に出た。
「え、私はドイツに行きたかったのに!どうしてだめなの!」
いつになく珍しく私が大きな声を出したので、菜美ちゃんは少し意外だったみたいだった。しかも、先週と違って、行きたい場所も明示している。
「絶対に行きたい。何とかならないものかな。」
菜美ちゃんが言い出した旅行なのに、今はなぜか私の方が強引に進めようとしている。菜美ちゃんと話し合って、もう一度、松野さんに泣きつこうか、それとも美紀先輩を説得して松野さんに進言して貰おうかとか、いろいろと策を練ったが、どれも難しく思えた。
人間って面白いものだ。何か障害があって考えていたことが出来ないとなると、欲が出てくる。恋愛も障害があればあるほど燃えるって、昔誰かが言っていた。
そのとき、少し間を置いて、菜美ちゃんがこう提案してきた。
「じゃあ、二人が時間差でヨーロッパに行って、現地で週末を一緒に過ごすっていうのはどう?例えば、パリで待ち合わせするってパリジャンヌみたいでお洒落じゃない?」
「え、どういうこと?」
詩は思わず聞き返した。つまり、菜美ちゃんの提案はこうだった。
まず、二人が週をずらして夏休みを取得する。そして、先に夏休みを取った方が先にヨーロッパに行き、その人が行きたいところを観光する。そして、その週末に別の一人が遅れてヨーロッパに行き、二人は現地で合流する。例えば、パリで待ち合わせて、フランスで週末を過ごす。先に来た人は翌週に帰国するけど、残りの一人は現地にそのまま滞在し、その人が行きたいところを観光するというプランだ。
なるほど、これなら松野さんの要請にも合致するし、それぞれが行きたいところにも全部行ける。共通して行きたい場所のパリも二人で観光できる。そもそも彼との想い出の場所に、菜美ちゃんに付いて来て貰うのは少し気が引けると思っていた。ただ、別行動するとなると、菜美ちゃんは英語が出来るから良いけど、私は独りだと少し不安だなと詩は思った。
そう察したのか、菜美ちゃんが私の顔を見てこういった。
「私が先に行って現地の空港で詩ちゃんを出迎えて、ホテルまで案内するから大丈夫。その後も現地の移動に必要なチケットとか、手配しとくわ。ね、それならいいでしょ。」
ここまで言ってくれる菜美ちゃんの提案を詩は断る理由を思いつかなかった。
「うん、わかった。そのプランで行ってみましょう。」
「やった!では、もう一度、松野さんに話しにいくね。」
休憩室に来たときの顔つきとは一変した顔つきで、菜美ちゃんが明るく弾んだ声で、上司の松野さんと調整することを伝えてくれた。
『もしかして、可愛い使者って菜美ちゃんのこと?まさかな。』
詩がそんな疑問を持つほど、最近、菜美ちゃんにはお世話になっている。




