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Pomegranate I  作者: Uta Katagi
第2章

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共有フォルダ

 そういえば、彼が、卒業後に大学のアカウントがなくなったら、お互いが個人で持っているメールアドレスをアカウントにして大事な情報をネット上で共有化するのも良いねという話をしたことがあった。そのとき、私が彼に伝えたのが、便箋に記載されていた私の個人のメールアドレスだった。


 実際に、彼が社会人としてドイツに出張した際、ネット上の共有フォルダに彼が撮影した現地の写真を掲載してきた。私は彼からメールで連絡がある度に、そのネット上の共有フォルダを楽しく閲覧した。彼の帰国後は、定期的に国内でデートが出来るので、ネット上のフォルダを使う機会もなくなったが、今回はあらためて、そのしくみを使って私に何かを伝えようとしているのだと思った。そうであれば、便箋に記載されている私のメールアドレスは、共有フォルダを提供しているネットのプロバイダーが私を認証するためのアカウントだ。


 そこまで考えが纏まった後、沸騰したお湯を、紅茶のティーパックを入れたティーサーバになみなみと注ぎ、久しぶりに彼の共有フォルダにアクセスしていた懐かしいノートパソコンを立ち上げた。私のメールアドレスをネット上のアカウントに設定したパソコンだ。予想が正しければ、このパソコンで彼と繋がるはずだ。


 昨年の冬、自宅に引き籠って以来、パソコンで何か作業することなど考えたことがなかった。特に、パソコンで何かを調べてみる必要性など何もなかった。埃っぽいキーボードの隅の電源ボタンを押すと、しばらく更新もしていなかったせいか、パソコンが起動するのに時間がかかった。


 急いでも仕方ないので、カップの中のヨーグルトをスプーンで掬いながら、モニター画面を眺めて起動を待つ。ノートパソコンのメーカ名だけが表示され、起動中であることを示す青い円状のアイコンが回っている。


 しばらくして、ようやくパソコンのログイン画面が出てきた。個人情報を守るために、パソコンの起動時にパスワードを設定しているが、久しぶりなのでうろ覚えだった。昔、設定したはずのパスワードを入力してみるが、最初はエラーになった。あ、確か、去年パスワードを変更したんだなと思い、再び記憶を辿りながら、候補になるパスワードを一文字づつゆっくりと入力し、リターンキーを押すと、今度は無事にパソコンが立ち上がった。


 ただ、デスクトップの背景になっている壁紙は、昨年のハロウィン仕様のままだった。小さなパソコン上の画面の世界でも、あらためて、時が止まっていたことを感じた。


 カップに残った紅茶を毎日服用している錠剤と共に飲み干して、パソコンをインターネットに接続した。そして、便箋に書いてあった長いurl.を一文字づつ間違えずに入力した。期待と不安の入り混じる感情の中、全ての入力を終えてリターンキーを押すと、そのサイトに保存されているフォルダが画面に現れた。やっと、彼と繋がった!


 予想通り、ネット上で情報を共有化できるクラウドサービスのアドレスだった。彼からは一切、知らされていなかったけれど、この事態に備えて、私をフォルダの共有者に設定しておいたのだろう。普通は、共有フォルダを設定した際に通知メールを送信するのだが、あえて通知しない設定にしておいたのだろう。通知がなければ見ることもないから、誰にも知られることなくメッセージを遺すことができる。これが、彼が言う最悪を想定したときのリスク対策なんだろう。感服するしかない。


 画面に表示されたフォルダの名称は、”For Uta”となっている。一生をかけてみせたいもの、とても膨大なものかも知れない。もしかしたら、画像や動画もあるかも知れない。そうなると、もはや手紙には書けるものではないので、この共有フォルダを通じて伝えることにしたのだろう。中身のデータ量が膨大なことを示すかのように、そのフォルダのアイコンは圧縮フォルダを示す表示になっていた。


 圧縮フォルダとは、データ量が大きい文書などのファイルを一つに纏めて小さくして保管してあるフォルダだ。わかりやすく例えるとするのなら、衣類などを袋に入れてからその袋の中の空気を抜いて圧縮するしくみと同じだ。この方法によって、よりたくさんの衣類が小さな袋に圧縮される。取り出すときは、圧縮袋に空気を入れれば、衣類が元に戻る。


 それと同じように、パソコン上のファイルを纏めて一つのフォルダに入れて圧縮すればデータ量が小さくなる。ファイルを見たいときは、その圧縮されたフォルダをパソコン上で解凍すれば、ファイルが元に戻る。


 ここまでは、予想通りだった。さあ、いよいよ、彼が遺したファイルを見てみよう。そう思い、パソコンの画面の中で、私宛になっている”For Uta”の圧縮フォルダをクリックしてみた。解凍されて中身のファイルが展開されるはずだ。


 ところが、画面の表示はそうはならなかった。画面にはパスワードを要求する欄が掲載された。え?また、パスワードを要求してくる。セキュリティのために、このフォルダにもパスワードロックがかかっているんだ。そういえば、気になっていたのだが、フォルダのアイコンには小さな鍵のマークが付いていた。彼と繋がったことが嬉しくて、あまり気にしていなかったのだが、確かにフォルダにパスワードがかかっていることを示すマークだった。


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