超能力者の地位と名誉
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華蓮に喝を入れられてから、直ぐにとまではいかなかったが蒼井は元気を取り戻していった。
くよくよする位なら、少しでも多く修行してリベンジする。 そう考えるようになったのだ。
実際、黒桜の素振りも、超能力――蒼雷の練習も、かなり充実した毎日の一部となりつつある。
「ん、かなりマシになってきたじゃないか」
自宅での素振り中、目を閉じて黒桜が空を切る音に耳を傾けていた恋有夜が徐に、片目だけを開いてそう言ってくれた。
「毎日振ってりゃあな」
その言葉はとても嬉しかったが、照れくさくて言葉が何も出てこない。シンプルで、無骨で、投げやりな、自分でも呆れるくらいズボラな返事だったが、しかしそれでも恋有夜は小さく笑顔を作り頷いてくれた。
「お前は元々が強い。とは言え、不良の喧嘩戦法が効くほど超能力者は弱くない」
そして、その表情から笑顔が消えたのと同時に、蒼井は再び気を引き締めた。
「分かってる。いつ桔梗みたいな超能力者が現れるか分からない、そのための練習だ」
「ああ、何せお前はそれでいて筋がいい。超能力のトップ級能力まで開花させているんだ。悪く言えば目立ち過ぎ、いつ名を上げたい超能力者が襲ってくるか分からんぞ?」
超能力者は力が全て。例えばテレビ番組でも、スプーンを曲げられる超能力と念力で車をスクラップに出来る超能力者が居れば、番組は後者に声を掛けるだろう。力が強い――能力が上なら超能力者はドンドン有名になれる、限られた筋の超能力者の存在を知る人間から、信頼と仕事を勝ち取れる。故に、ビルが焼け落ちるくらいの火災を諸ともせずに、自然の天候である雷すら能力に反映させる派手で強力な蒼井は、倒すことで地位と名誉を上げる最高の標的なのである。
桔梗はそれを狙っての襲撃でないことが、前回の決着の際の言動から推察出来るが、似たように襲ってくる輩がいないとも限らない。
「まあ、あれだ。桔梗はともかく超能力者はその存在が限られた筋以外に露呈するのを恐ろしく嫌う。また大切な人が巻き込まれるなんてことは、心配しなくていいさ」
「ああ」
黒桜の柄を一度強く握るが、直ぐに安心して手から力を抜く。そう、自分のせいで華蓮達が怪我をするのは嫌だ。そのことを心配せずに済むのなら、蒼井としても気が楽だ。
「つまりな、戦いが嫌なら華蓮と結婚でもして1日中べったりしているといい、敵も襲ってこれないぞ?」
くすりと人懐っこい笑みを浮かべながら、恋有夜が言う。尚も重要な話を続けると思って、恋有夜の目を真剣に見ていた所でとんでもないことを言われてしまった。
「なっ! なんで白鳳なんだよ! てか別に戦いは……したいってわけじゃないけど」
「ははは、悪い悪い。しかし戸惑い過ぎだぞ蒼井。……したくはなくても楽しみか?」
元々喧嘩の鬼神と呼ばれた蒼井だ。少なからず、戦いに対して血はたぎっている。そして、この時2人はある事実にも気が付いている。
「なら玄関に言ってこい。さっそく名を上げにきた奴がいるみたいだぞ?」
そう、玄関に誰か……得体の知れない誰かがいる。
「おう!」
意気込みを恋有夜に伝えるように、大きな声で返事をすれば蒼井は玄関へと歩を進めた。