どうでもいい
最長2週間とかいって、大分経ってしまいました。
これからもまだまだ投稿が安定しないと思いますが、どうかよろしくお願いします。
あれから――桔梗との勝負から3日が経った。
蒼井は未だに立ち直れず、虚空を見つめるばかりである。落胆しているのは周囲の華蓮や恋有夜も分かってはいるのだが、その理由は本人が話したがらないために理解できていない。慰めようのない蒼井をみて、彼女らも情けなく思うばかりだ。
ため息がまた1つ蒼井の口から漏れて出た。幸せが逃げるぞ、などと冗談も言えない。ひたすらに右手を握っては開き握っては開きする蒼井は、そんな冗談に耳を貸してくれるとも思えないのだ。
「えと、どうしましょう」
華蓮は放課後、教室の隅でそうやって落ち込んでいる蒼井を見るのに耐えられなくなったのか、静かに見守ることをやめ、恋有夜に相談してみた。が、恋有夜も首を横に振るだけ。彼女も答えは持ち合わせていなかった。
「あいつは、私達の知らないところで何故か傷ついた」
助けようがない、仕方ないんだ。恋有夜は自分にでも言い聞かせるようにその場を後にした。
きっと彼女は自分より辛い。学校だけでなく家に帰ってもあんな状態の蒼井と共にいなければならないのだから……。そう考えると、華蓮はまるで2人分の感情を背負っているようなプレッシャーに襲われた。目頭が熱くなり、自分でも知らず知らずに涙を堪えているのが分かる。
ここ数日で、随分と仲良くなった大切な友人と愛しい人。その両名が辛い思いをしていると思うと、自分も同じように辛い。
「助けて」
華蓮は、そう呟いていた。呟かざるを得なかった。
神様助けて、と。
しかし何も起こらない。これが現実、誰も何もしてはくれない。一度生唾を飲み込んで、華蓮は蒼井の方へと歩を進めた。これからの行動で、蒼井に嫌われても構わない。大切な人の気持ちを少しでも楽に出来るのなら、どんな罰も喜んで受けよう。
華蓮は蒼井の直ぐ目の前まで、力強く床を踏みつけ近付くと、その生気の欠けた目をした蒼井の左頬に全力でビンタを放った。
生まれてから今まで、暴力を振るったことのなかった華蓮だ。ビンタしてから痛くし過ぎたのではないかと心配にはなってしまったが、腑抜け切った蒼井の瞳に、生気を取り戻させることは出来たようだ。
「意気地なし!」
ようやく、3日ぶりに虚空ではなく自分を見つめてくれた蒼井にめい一杯の渇を入れてやる。
そう、今の蒼井は華蓮の目にも無様に写った。こんな蒼井はやめて欲しい。きっと恋有夜も同じ気持ちだ。だったら、嫌われてでも私がそれに気づいて貰う――!
それが華蓮の考え方だった。現に、蒼井は目から涙を流している。どうやら彼は、熱くなる目頭に耐えられず決壊してしまったようだ。
「白鳳」
「蒼井さんに、どこで何があったかは分かりません。聞きもしません。ですけど、1つ言わせて下さい。今の蒼井さんはカッコ悪いです! いつもの、いつもの私が大好きな蒼井さんに戻って下さい!!」
頬を漫画か何かのように真っ赤に染め上げ、華蓮は全力で叫んだ。今日は慣れないことばかりしてしまう日だ。
「わ、悪い……ちょっとつい、な」
だが、気持ちはしっかりと蒼井にまで届いたようだ。蒼井は生気の戻った瞳で、華蓮を見詰める。
「ありがとう、ちょっと元気が出た。白鳳に嫌な思いさせて悪かったな」
意外にもあっさり、蒼井は立ち直ったようだ。それだけ華蓮のビンタは効いたのだろうか。
「いいえ、どういたしまして」
どうでもいいか。
また、いつもみたいに戻れるなら……。
どうでもいいや。