武器と気持ち
前回の近況報告にも書いた通り、更新が暫く不規則になります。 すいません。
蒼く、そして強く発光する刀は何故名前が“黒”桜か。
振るう主は何を思うか……
勝ちたい。
勝ちたい。
勝ちたい。
それは、武器の名などではない。
この状況で蒼井が渇望するのは勝利の一文字だけだ。
蒼色の雷が桔梗の大鎌とぶつかり合い、花火のように綺麗な、しかしノコギリの歯のように荒々しい火花が周囲に撒き散らされる。踏ん張る蒼井と桔梗、だがこの鍔迫り合い、なかなかに桔梗が不利に見えてしまう。なぜなら、それは蒼井の蒼雷に対して桔梗は何も鎌に纏わせていない。“超能力を纏った刃”と“何も纏っていない刃”ではそう見えてしまうのも無理はないだろう。現に飛び散る火花の大半も蒼井によるものだ。
この勝負、桔梗が押し負けてしまうのか――
案の定、数瞬の内に桔梗は力で押され始めてくる。踏ん張った脚はそのまま土を抉りかかとに土の山を作っていく。
腕も震え始める。
「う、ぐぬ!」
「勝った!!」
蒼井は黒桜に渾身の力を込めて振り切る。筋肉に恐ろしいほどの負担がかかり、痛み――激痛すら覚えるが、桔梗を吹き飛ばしてやった。
どんどんと蒼井から桔梗は遠ざかっていく。
「はは、は! ……?」
しかし、蒼井は勝利に酔うことが出来なかった。吹っ飛ばれる桔梗に違和感を感じたから。何かが、奇妙だ。
今まで、蒼井が殴り飛ばしてきた奴らは全員決まって“悲壮感”に打ちひしがれていた。悔しく地面を叩く者、泣き出す者、様々であるが心に悲しさが潜んでいたのは確かだった。
だが、なぜ自分から遠ざかっていく桔梗は澄ました顔でいる――?
「あ、あっ!」
答えは、背中に走る鈍い痛みと同時に見つかった。何かに叩きつけたような痛み。後ろからの衝撃に、口から何かが込み上げてきそうな感触。
分かった。
これは。
この状況は……
吹っ飛ばれていたのは……
「――俺だ」
樹木を背にして座り込む蒼井。焦点が合わないというほどではないが、些かぼやけてしまっている目には地面に突き刺さる黒桜が見える。
――敗北だ。
―――
糸が切れた人形のように座り込む蒼井。その目は敗北の為か虚ろで、何を見詰めているのか、見えているのかさえ伺いしれない。
「何故負けたか、分かるか?」
桔梗がゆっくり、静かに歩みよってくる。落ち着きが感じられるその歩調から戦闘は終了し、向こうにも戦いを続行する意志がないことが分かる。
しかし、直ぐに痛い言葉を放たれると蒼井は閉口するしかなかった。
「分かるかと聞いている」
何も言葉を発しない蒼井に憤りを感じたのか、桔梗は蒼井の真横に、歩み寄る過程で拾い上げた黒桜を突き刺す。
蒼井は、それにただ純粋に驚いたのだろう大きく目を見開くが、直ぐにまた虚ろな目をして……
「分からねぇ」
短く答えた。
「貴様は愚かだ」
それに桔梗も溜め息1つ。黒桜を引っこ抜き、無言で蒼井の前に刀身を晒す。
酷いひび割れだ。
「あの鍔迫り合い――力では貴様が勝っていた。だがしかし、貴様は勝つことにばかり意識がいって力の加え方を誤った。得物をこの様な状態にし、自ら吹っ飛ばれたのだ」
「こんな奴とわざわざ決着を付けにきたと思うと心底落胆する」最後にそう告げて、桔梗はそよ風と共に消えた。
そして、誰もいない木漏れ日の中で蒼井は1人自らの不甲斐なさに泣いた。
時に、こんな小説でも読んで下さってる方にささやかながら一言添えさせて下さい。
ご愛読ありがとうございます。