覗き魔の末路
一歩一歩歩を進める華蓮。何を考えているやら、やたらと楽しそうに罠まで迫っていく。
蒼井はその姿に思わず生唾を呑んだ。華蓮は誰しもが認める可愛い女の子だ。綺麗でサラサラな髪に、悪くないそれどころか良い性格。身長も高すきず低すぎず。嘗てはイジメの対象となる引き金だった眼帯も今はチャームポイントとして主人を輝かせている。
そんな美人のパンチラ、いや……推測するにその何段階か上のものをこれから拝もうというのだ。自然と頬が緩み、鼓動が速くなってくる。
「やべぇ……」
気が付いたら、蒼井は鼻血を垂らしていた。想像するだけでこれだ。現物の破壊力はどれほどなのか、予想も出来ない。
もはや完全に覗き魔と化しているが、あくまで目的はパンツの持ち主探しである。写真にでも収めてしまおうかと、あと一歩で危険な扉を開いてしまいそうになるが、下唇を噛み締めながら必死に我慢する。
(俺は……俺は変態じゃないんだぁ!)
いいや変態だ。この場に誰か居合わせたのなら間違いなくそういっただろう。鼻息を荒くしてレンズを覗き込む蒼井は、内心6割ほど現状を楽しんでいた。
震える。楽しみによる武者震い――やっぱり俺も男なんだな、と苦笑いしながらもその瞬間は逃さない。逃すつもりもない!
華蓮が1歩踏み出す。掛かった――!!
そのパラダイスのような光景を網膜に焼き付けようと、蒼井は最大まで目を見開いた――
――
――――
――――――
「蒼井、私のパンツを知らないか?」
不意に後ろから飛んできた言葉に蒼井は心臓が飛び出してしまいそうな感覚に襲われた。
まるで、言葉という槍に心臓を貫かれたような、そんな感覚に蝕まれた。
「こ、恋有夜!?」
思わず声が裏返る。
そこには、もう見慣れてしまったが、華蓮とは別のタイプの美人――恋有夜が立っていた。
普段なら背後から誰かが忍び寄る気配など、簡単に気が付けただろうが……今回は確実に失敗した。華蓮のパンツに、その中身に興味向けすぎたがために、蒼井は気が付けなかったのだ。
「……ん?」
しかし、そんな自分に対し情けないなどと自己嫌悪に陥っている場合ではない。今、恋有夜は何といった?
「パンツ、なくなったのか?」
「ああ」
「純白の、素朴で可愛らしいやつか」
「言うな。私でも照れる」
「イメージにあわねぇな」
「黒でも穿けばよかったか?」
……蒼井は一瞬固まった後に、こう叫んだ。
「Nooooooooooooっ!! それじゃあ俺は何の関係もない女の子のスカートを3枚も捲っちまったのかぁああぁ!!」
地面に何度も顔を打ち付け始める蒼井。結局、全員関係なかったとなると、たまっていた罪悪感が一気に襲いかかってくる。今すぐ土下座したい。でも真実を告白するわけにもいかない。どうしようかと困惑する元不良の後ろに、更に3つの声が突き刺さる。
「「「あなたの仕業……?」」」
間接的とはいえ、蒼井にスカートを捲られた3人娘が彼をまるでゴミでも見るかのような眼で見下している。 この後で蒼井はヒドい罰を3人から言い渡されるのだが、それに関して言えることは1つ。
覗きなんてやっちゃいけない。