推理する変態不良
今まで蒼井は様々な試練を乗り越えてきた。ある時は多勢に無勢、孤軍奮闘の喧嘩もしたし、自分の数倍筋力のある相手とも喧嘩した。レディースの女番長とも喧嘩した。今時珍しい特攻服をきたリーゼントとも喧嘩した。熊とも喧嘩した。
最後の1つに限り嘘ではあるが、1人で10人を相手にしたのは事実であり、顔に複数の痣、傷、腫れなどをつくりながら勝利をなんとか掴み取った。
筋骨隆々とした男には、敗北した。今思い出すだけで折られた肋が痛み出すが、その敗北したという、蒼井には珍しい行為がより真実味を出している。
女番長からは、逃げた。よっぽど憎かったりでもしない限り女なんて殴れない。男女差別云々よか、まず男として殴るのは気が引けた。しばらく追い掛け回されて、次の日には筋肉痛だった気がする。因みにその後華連に心意気を褒められたような気もする。
特攻服のリーゼントは……
「……弱かったな」
目を細めて思い出す。あれは弱かった、あれは試練にゃ入らないと続けて呟き記憶を辿る。
リーゼントを右ストレートで破壊した途端泣き出したことしか覚えていない。
と、アップダウンが激しいが兎に角様々な試練を乗り越えたのだ。 しかし、こんなのは初めてだ。
今手元には誰のものか分からない女性物のパンツ……、前代未聞の事態だ。クラスの女子に変態と騒がれるだけで済むだろうか? これは、逮捕されてしまうのではないだろうか?
とても怖い。
蒼井は自分が知らぬ間に貧乏揺すりを始めていたことに気がつく。いや、これは貧乏揺すりではなく震えだ。
恐怖、それも強い相手と喧嘩する時のものとは違う、今まで感じたことのない未知の恐怖。蒼井は直感的にノートにペンを走らせた。
(このクラスの女子は16人、その中でこんなパンツを穿いていそうな女子は出席番号3番と12番と21番)
そんなことをメモし始める。しかし、「パンツ。3番、12番、21番」などと書き込む様子は、他人に見られたら尚更変態と思われることであろう。本人は夢中で気付いていないが、見られたらもうこの学校に来ることは出来なくなるだろう。
だが、蒼井は必死だ。更に情報を整理する。
(3番、石弓と12番……あんまり考えたくねぇけど白鳳か。そして21番の根宮)
3人とも誰しもが認める、温厚な性格で可愛らしいタイプの女の子だ。これだけ可愛らしい子なら、あれだけ女の子らしい純白のパンツを穿いていてもおかしくはない。
この3人を主軸に置き、推理を進めていくのがまず無難だと蒼井は思った。
だが、ここからどのように推理を進めるか。まさか1人1人に「今パンツ穿いてる?」と聞くわけにもいかない。仮に穿いていなかったとして素直に「穿いてないよ~」なんて答えてくれるわけがない。
蒼井は心底困惑する。
(スカートを捲る、いや……上履きに小さな穴を開けてカメラを忍び込ますか)
もう考えていることがただの痴漢だ。
このままでは女子高生のパンツに興味津々の、変態になってしまっている。
はっと我に返り、蒼井は、思う。
(俺は、今回の事件で自分を捨てることになるかもしれない)
蒼井の思考はどんどんドツボにハマっていく。