善良不良
皆様、新年あけましておめでとうございます。
何かと物入りな年末年始、更新が遅くなり、大変申し訳ございません。
これからも全力で頑張っていく所存ですので、どうか今年も宜しくお願い致します。
我に返った蒼井は、目を瞬かせた。
その手に握られた日本刀。それは黒く、長く、美しささえも持ち手に感じさせた。だがしかし、そんなことなど二の次。今、蒼井は憤怒しているのだ、それも、恐ろしいほどに。
質量があれば、弾かれはしない。それは先程の凄まじい速さのサイコキネシスに対し、蒼井の蹴りが桔梗を捉えたことで、証拠付けられた。
蒼井は自らの『怒り』という感情に身を任せ、低い姿勢から地をかけた。
その姿は獣のように。
その姿は雄々しく。
だが、その姿は悲しかった。
復讐の憤怒に突き動かされる、今の彼にとって、桔梗は憎むべき相手であり、何より獣の如き速さで走れるのも、そのお陰といって、間違いはない。
だが、なぜ怒っているのか? それは自らの雷が桔梗に跳ね返され、華蓮達を傷つけたからだ。では、なぜ、蒼井は弾き返されることを知っていて雷槍を作ったのか。 それは、「これなら大丈夫だろう」とタカを括っていたからだ。
そして、蒼井はそんな自分の“甘さ”にすら巨大な憎悪を感じ、結果、自らのマイナス点を、敵への怒りとともにぶちまける形となってしまったのだ。
故に、敵討ちのような義理堅さと、八つ当たりが同時に混じり合い、その見た目は、余りにも――痛々しい。
―――
手負いの獅子、巨大な日本刀の刃を同じく、巨大な鎌の持ち手で受け止めながら、桔梗は目の前の男にこそ相応しい言葉を見つけ出した。
先の雷など、比べものにならない。そんな高威力、大重量の攻撃が繰り返されて、早くも手が痺れ始めている。
これは不味いと、鎌を横凪に払いながら、後退する。が、それでも蒼井は距離を詰めてくる。
振り切って直ぐには動かせない大鎌の弱点、そこをつかれた。
今から鎌を振っても、先に日本刀の刃が自らの額を貫いてしまうだろう。
「チィ」
一度舌打ちをすると、桔梗は鎌を手放し、再度後退する。
武器を捨てた分、身軽にはなったが、しかし心許なくなった。
尚も、蒼井は刀を振るう。振るい続ける。
1つ、2つ、完璧に避けていた筈の桔梗の顔に、傷がついていく。これでは、いずれ殺されてしまう。
(次は、上からか――)
刀の振るわれた音で、真上からの攻撃を察知した桔梗だが、その視界に日本刀は見当たらない。
(ナニ? まさか!!)
蒼井は、獣のように八つ当たりを行う彼は、桔梗の予想を激しく上回って速かった。
桔梗が見上げる頃には、日本刀は最早そこになく、桔梗の心臓へと風を切っていた。
(よもやここまで……)
桔梗は死を覚悟した。
……
…………
………………
……………………
―――
「ぬぅ?」
衝撃に備え、目を瞑った桔梗は呆然としていた。
いつまで経っても、心臓を貫く筈の黒い刃が訪れない。
そのことに疑問を感じ、即座に目を開けた桔梗は、もう一度呆然とした。
「お主、なぜ?」
「なにしてる、どいてくれ」
そこには
「嫌です。退きません」
「どけよ……白鳳ォ!」
桔梗と蒼井の間に、それも桔梗を庇うが如く、両手を広げ、蒼井を睨む華蓮が立っていたのだから。