黒桜
「サイコ……キネシス」
腹に突き刺さる蒼い雷を視野に入れながらも、そう呟く桔梗を蒼井は確かに睨みつけた。
が、果たしてその目は“睨む”に値する厳しさを持っていたか否か。
確かに、蒼雷は桔梗を捉えた。が、恐らく桔梗の言うとおり、サイコキネシスによる反撃を受けたのだろう。蒼雷は起動をかえ、蒼井の腹部を貫いていた。
雷の鋭く尖った先端で、穴を開けられた傷口が熱い。蒼雷のもつ尋常ではない熱が肉を焼く。
「痛ってえ」
苦痛に顔を歪めるが、その場で悶える時間はない。
尚も腹部に突き刺さり「バチバチ」と鳴く蒼雷を能力解除すると、足元に蒼雷を再発動、それを地面に打ちつける反作用で高く跳躍する。
天井に張り付くと同時に、蒼井の瞳に映ったのは数瞬前まで自分のいた位置に鎌を振り下ろす桔梗の姿だった。
「ちぃっ……」
獲物を狩り逃して、些か面白くないであろう桔梗。しかし舌打ちからも余り怒りが感じ取れない。
喧嘩に多少慣れている蒼井は、あえて天井からの反撃を止めた。
あれは、冷静過ぎる相手だ。
ここで考えなしに反撃すれば、鎌の一撃に巻き込まれ、致命傷を負うに違いない。
桔梗のもつ鎌のリーチより、遥かに余裕ある距離に着地すると考えを巡らせる。
雷を弾き返すサイコキネシス、蒼雷の鎧がそれに対してどう作用するか分からないが、どうであれ、あれだけ巨大な鎌が相手なら効果は薄いだろう。
ならば、別の使い方はないか……、雷で武器を構成してみるか。いや、雷は弾かれたのだ。変に殺傷能力の高い武器をつくってまた跳ね返ってきたら。
長い、弾かれない武器が理想的だ。
思考はそこで断ち切られてしまった。
桔梗が縦に、振るう鎌。得物が大きい割に思ったよりか動きが速い。 これだけ速いということは――まさか、と跳躍してみる。
蒼井の勘は確かに冴えていた。
跳躍したその靴の底を、鎌が掠めていった。
「危ねえな、脚がぶっ飛ぶところだったろうが!」
だが、流石に一撃振り切ってすぐは動ける筈がない。
反撃と、跳んだ状態から桔梗の顔面に蹴りを放つ。
「ぐぬっ」
決して鋭くはない、あくまで牽制までに放った蹴りだが、それは確かに桔梗の顔面を捉えた。
――――イケる!
そう確信した蒼井は、雷で槍を形成。桔梗がサイコキネシスを発動する前に、それを突き刺そうと前に押し出す。
「笑止――」
しかし、蒼井の予想以上に桔梗は速かった。蒼雷で作られた槍は砕け散り、大小様々な破片が、“華蓮達”に降り注ぐ。
「うおっ!」/「きゃあ!」
“華蓮達”に、だ。
蒼井の目は確かにみた。自分の雷で血を流す少女を。自分の雷で傷を負う男を。
その瞬間、蒼井の中で何かが弾けた。
「てめェ……」
桔梗が憎らしい。
憎い憎い憎い!
意識せずとも、両手に雷が収束されていくのが分かる。
許容オーバー、腕が火傷しそうに熱い。
雷が、日本刀の形を象る。 いや駄目だ、雷では弾かれる。
雷が……鉄になる。実体になる。
本物になる。
気がつけば、その手にはしかと日本刀が握られていた。
「蒼刀、覚醒――黒桜!!」
そして高らかに叫んでいた。
この憎しみが、蒼井の引き金を確かに引いた。