金色の鎌――桔梗
「で、お前ら何?」
左手を挙げて、呆れたように聞く。
彼なりの余裕の誇示であろう。女性の前でカッコ付けたいだけなのかも知れないが、それもそれで年相応の行動、良しであろう。
「…………」
一方で、ようやく目を覚ました男達も華蓮や恋有夜の目を気にしているのだろうか。蒼井がミスをおかすのは、同い年の華蓮から見れば、単なるお茶目に近い行為。蒼井は蒼井で顔から湯気が出そうになるだろうが、決して関係に大きな溝をつくるものではない。
一方で、男達は華蓮よりも年上だ。関係こそ特にないが、年下の、自分よりか超能力者歴の遙かに浅い新参者に、足蹴にされた挙げ句、やはり年下の少女にその醜態を見られてしまったのだ。ある種、大きな辱めに匹敵する。
ゆえに、これ以上恥の上塗りをしないためにも、口を割ることはしない。
「だんまり? よくないぜ」
蒼井が肩をすくめて、再度声を放り投げる。
「…………」
しかし、それでも男は吐く気がない。
一体どんな精神的状況下にあるのか、それは分からないが、今男の中で唯一のプライドがそれである気さえしてくる。
「はぁ、なるほどね。オーライオーライ」
溜め息。だんだんと、蒼井の行動が“余裕の表し”から“煩わしさの表し”に変わってくるのが分かる。
そろそろ暴力による拷問でも始まるだろうか?
恐怖と覚悟を一度に固め、生唾を飲み込んだ瞬間、男には希望の光が指した気さえした。
「ところで、これくらい答えてくれ。
この鎌なに?」
蒼井がそういって男に見せたのは、自らの背中。蒼い雷が防具としても働いてくれたのか、傷こそないが、この鎌は。
この金色の鎌は。
「――桔梗様!」
男がそう叫んだ直後だった。
蒼井の首に、巨大な鎌があてがわれた。
そのまま鎌を引けば、蒼井の命は×××――鎌は引かれた。
「ちっ!」
蒼い雷の防具を最大限に発動、利用することで、鎌の刃に向かってでも平気で前転出来る。
それで、辛うじて回避できた。
すかさず振り向くが、鎌の持ち主――男の叫んだ“桔梗”という名の人間の姿は見えない。
代わりにその瞳に映ったのは、蒼井の腕に刺さったのと同じ、小型の鎌が2つ。
「うおらぁ!」
蒼い雷を左手に纏わせ、上から下へと思い切り振り下ろす。
すると、雷は鞭のようなうねりをもって鎌をはじき落とす。
相手の正体が掴めない、ピンチのような展開だが、テンションは最高潮だ。
超能力――蒼い雷をモノにしつつある自分に、蒼井は胸の高鳴りを確かに覚えた。
そして鎌の弾け飛んだ先、そこに人影を見つけた。
ミ ツ ケ タ
青色の着物を纏った、脱色気味の長い金髪をもつ男――桔梗。
金色の鎌を構え、無言で佇む桔梗に
「いいねぇ、ヤリ甲斐がありそうだッ!」
蒼井は、闘争本能を剥き出した。
右腕に雷を集結させ、桔梗に殴りかかる。
「けえぇぇぇええい!!」
しかし、その一撃は、鎌の恐ろしいリーチを誇る横凪の攻撃に遮られ、届かない。
「じゃあ、これならどうだ!?」
右腕の雷を、桔梗目掛けて発射する。
先端の鋭く尖った雷が、叩き落とさんと振るわれる鎌の猛攻を、的確に回避しながら進んでいく。
鮮血が舞う。
「がッ!!」
目を大きく見開く。
痛い。
怖い。
見えない。
傷を追ったのは、蒼井だった。