蒼き雷
江木常高校校長室。ここは他校の校長室とは違い、喫煙可能となっており、そのためか健全な高校生2人に多少の害を与え、1人の元不良には吸いたい苛立ちを再発させる。
しかし、そんな校長室の主は不思議と嫌われていない。
寧ろ生徒には大人気、廊下で女子の「かわいいよね~」などという言葉が響けば、それが校長のことを指すものだということもザラだ。
そして、この学校の他教師も決して嫌っているわけではない。
職場で煙草さえ吹かさなければ、今や教師陣の憧れの的だろう。
「んで、お前等遅刻が悪いことだって知ってる」
そんな校長に叱られる、華蓮、恋有夜、蒼井。
「すいません」
まず深々と頭を下げたのは華蓮だ。
学年でいちにを争う優等生は、軽々しい物言いの校長にさえ、しっかりと頭を垂れるが、彼女の周りはそうではない。
腕組みをする恋有夜、そして反省の色を見せない蒼井。
仕方なく校長から口を開く。
「白鳳、お前は謝らなくていいぞ。
蒼井、恋有夜、お前等は何をやったか分かってるのか?」
名前で呼ばれることに特別味も感じない、慣れた。肩をすくめて返事をする。
「「遅刻」」
「ハズレ」
「は?」と、声を漏らしたのは蒼井の口だ。
「先ほどの発言から考えるに、それがハズレならば日本語的におかしいぞ?」
恋有夜も不満を口にする。
「いいか、特に蒼井! お前なぁ……彼女いない歴イコール年齢の俺の前で女抱き締めるのは重罪だぞ!?」
「ふむ」顎に手を当て、恋有夜が何かを納得した。
「見てたのか?」
しかし、蒼井には何も納得するところはない。寧ろ、なぜ校長がそんなことを知っているのか、気になって気になって仕方がない。
「防犯カメラ」
「あ゛」
固まった、口を開けたまま。
そして赤面する。
恥ずかしい……。
「お前バカか? あんなに堂々と設置されてる防犯カメラに気づいてないとか」
蒼井は真っ赤になって動かない。
校長が隣を見れば、華蓮も同じ状態だ。
「はぁ、ったくお前らは。不純異性交遊も」
―――突如、校長の言葉を遮って音が響き渡った。
校長室の窓が派手な音をたてて崩れる。
そこから黒い衣を纏った影が飛び出した。
喧嘩慣れした蒼井の対応は速い。本当に今まで顔を真っ赤にして固まっていたのか疑問に思ってしまうほどにスムーズな動きだ。
影は2つ、蒼井を狙って飛びかかって来たのだろうが、状況は余り良くない。
片方の影の着地地点には、今度は突然の出来事に固まってしまった華蓮がいる。
「ったく、いきなり何なんだか」
我流にしては綺麗な型を取ると、跳躍。
華蓮側の影に回し蹴りを放つと、そのまま体の捻りを利用して反対の影も同時に殴り飛ばす。
「ふぅ、テメェら……何もんだ?」
着地早々、真っ黒な衣服を全身に纏った男に蒼井が問いを放つ。
華蓮などにかける声とは違い、激しい怒気が感じられる。
男達が立ち上がる。どうやら蒼井の問いに答える気はないらしい。
「仕方ねえ、ちょっくら痛ぇぞ!」
受け身も取らないところを見ると、喧嘩の腕なら自分が上だろう。そう判断して低い姿勢からのパンチを放つ。
そのつもりだった。
「ぐがぁ!?」
「蒼井!!」
突如として蒼井の体が地面に倒れ込んだ。
何か見えない圧力に、抑えつけられている。
いや、何かではない。蒼井はこの力を知っている。
「超、能……力」
圧力が一層強くなる。内臓が潰れたのか、口から血が滲み出てくる。
意識が途切れ――
「蒼井! 跳ね返せ! お前の方が力は遥かに上だ!!」
声が響いた。
恋有夜だ。
俺のことを言ってる。
そうか、俺は強いんだ。
思い出せ。
やってみれば、弾き返すのは簡単だった。今一度、蒼井の体に雷が走る。
「そうだ、蒼井。それが超能力の最高峰にして、お前の力」
蒼井の口がつり上がる。
「「蒼き雷!!」」