恋の行方は解らずも、一時は共有するココロ
抱き付いて、思い切り泣いて
蒼井は優しく抱き締めてくれて
その腕の中にすっぽりとおさまるのが何とも気持ちよくて
安心した。
これで恋有夜さえいなければ、華蓮はもっと気兼ねなく甘えただろうが、あれだけ自分を励ましてくれた恋有夜を邪魔者扱いなどできない。
華蓮はそんな気持ちを強引に押し殺して、今できる範囲で蒼井に甘えた。
何分が何時間にも感じられる、とても得難い時間。
これが好きだと、改めて感じ、それを満喫したころに、漸く華蓮は蒼井の開放に応じた。
長らく、腕に包まれていたせいで顔に当たる風がやや冷たく感じる。
「白鳳……「ごめんなさい」
蒼井の表情は、敢えて見ないことにした。きっと急な謝罪に慌て、驚くような表情なのだろうが、逆にそれが怖かった。
それだけ、容易に想像のつく表情だ。
もし、顔を上げてその顔に怒りが溢れきっていたら、それはそれだけの“怒”の存在を意味する。
つまり、蒼井の怒りが怖いのだ。
……どうか、私を嫌わないで
そして、その“怒”の延長線上。――“嫌う”“嫌われる”という行為が、更なる恐怖を仰ぐ。
もし、ここで蒼井に突き放されたなら、手首にカッターの刃を立ててしまってもいいかもしれない。
しかし、だからと言って、あれだけの酷い仕打ちだ。
怒っていない筈もない。
蒼井の言葉が、怖い――。
―――
一方で蒼井は華蓮の予想に違わず、顔を驚愕で染めていた。
思い込みが強い彼女だ。恐らく、自分の手を強引に叩いたことに負い目を感じているであろうことは容易く想像がつく。
しかし、それこそが逆にどうすればいいか解らなくなる理由でもある。
華蓮はそれだけ真面目なのだ。
つまり、いかに本心といえど「別に気にしちゃいない」こういった発言は解決に繋がらないということだ。
さて
どうしたものか
「ん~……俺も女にこんなことさせたかないが」
「はい?」
恐る恐る華蓮が顔を上げる。
その上目使いに少々赤面しながらも、めい一杯の笑顔で言葉を続けた。
「ちょっと傷ついちまったからな~、缶コーヒー1本奢ってくれたら許す」
「……はい!」
華蓮もそれに納得し、笑顔で答えてくれた。
蒼井の中にも流れる胸の温もり――喜び。
きっと、華蓮も今感じている。
こうやってお互いの喜びを、分かち合いながら共有できたら気持ちいいんじゃないかと、不良らしくなく、彼は真剣にそう思う。
それほど今の笑顔は嬉しく、温かかった。
―――
「んで、俺のところにゃいつ来るんだよお熱い2人は?」
モニター越しに悪態をつく男――校長。
教育上宜しくないと、半ば強制でくわえさせられた電子タバコの煙を吐いて、ついでとばかりに溜め息も吐き出す。
「った~く、あんまししないでもらいたいね、防犯カメラがついてる場所でこ~いうことは」
ばつが悪そうに後頭部をかきむしると、いそいそと校長室を後にする。
一刻も早く、蒼井をひっぱたくために。