仲良しこよし
数日と言っておきながら長くなってしまい申し訳ありません。
さらに多忙ゆえ、挿し絵も書くことができませんでした。本当にすいません。
「私、なにやってるんだろう」
体育館裏にポツンと設置されたベンチに腰をかけ、左目の涙を拭う。
この頃の高校生ならば、余り持ち歩かないハンカチを使った行動だ。
普段ならば上品さと美しさを際立たせるそれは、今では逆に儚さを演出してしまっている。
ここにきて、華蓮は少し落ち着いた。
そして、話し合いの場をもつか、我慢するか、そのどちらかを行うことは出来なかったのだろうかと、思わず溜め息を吐いた。
昔、この眼帯は大人気だった。……皮肉だ。明確に言うと、“いじめっ子に”大人気だった。
弱いもの、才能以外で特別なもの、余りみない、抵抗してこないもの、その、いじめるに適した全てのカテゴリーを満たした華蓮を、いじめっ子が見逃す筈がない。
右目が変、最初はそう言われただけだった。よく言われる、何も感じなかった。
眼帯の裏、ミセテミロ。
嫌だった。友達になら見せたかもしれないが、そんなことを言う子達に見せるのは、まるで自分の中の清潔感を乱すような行為な気がして、頑なに抵抗した覚えがある。
気持ち悪い目。
光を失う原因となった傷跡は、殆ど綺麗に消え失せているが、普通なのに見えないというのは、いじめっ子に気持ち悪いと感じさせたらしい。
その後もチマチマと、このマメさを勉強にあてれば、彼らはどれだけいい高校に行けたのだろうか、とつい考えてしまうほど、いじめっ子は華蓮を追いやった。
華蓮自身、弱いがために抵抗を殆どしなかったのも問題……いや。
イジメは最低だ。自身より下で、都合がよければ女だろうが年下だろうが対象にする。
挙げ句、抵抗しないほうが悪い、などとほざけるのは如何なる発想の賜物か。
だがしかし、良いこともある。
イジメとは、あからさまの悪だ。
世の中にある鏡は何を映す? 答えは反対だ。
ならば、あからさまの正義もある。
あからさまの正義を行使する相手は誰だ。答えはあからさまの悪だ。
あからさまの正義に目覚め、本能ではなく思考で動く蒼井に、これほどまでの、正義を行使する対象はなかった。
ただただイジメられて、枯れていった華蓮の心に、蒼井という光は眩しかった。
「あのとき、嬉しかったな~」
先程とは、別の涙がポロポロとこぼれてくる。
「なのに、どうして」
華蓮の怒りの矛先は、次第に、蒼井から自分自身へと変わりつつあった。
なんで、恩人である蒼井にあんなことをしてしまったのだろう。
私は最低だ。
「そう自分を下にみるな」
後ろから声が響く。華蓮は蒼井の登場を期待したが、それは違った。
ベンチに腰掛けたこちらを見下ろしているのは、恋有夜だった。
「だって」
「蒼井が好きか」
何か言わないと、口を開いた華蓮は、言葉を遮られ、さらには恋有夜の発言によって、黙り込んでしまった。
そんな華蓮に恋有夜は、やれやれと溜め息を1つ吐くと
「別に答えなくてもいいが、もし好きならそんなにイジイジしないことだ」
華蓮のいきなり何を言い出すのだ、と言いたげな瞳を直視し、恋有夜はその言葉の意図を華蓮に伝える。
「アイツはきっとそういうのが嫌いだ」
そうか。
華蓮は素直にそう思った。
別に恋有夜の発言が、そう思わせるのではない。
別にこのイジイジから抜け出したい華蓮自身が強引に意識したわけでもない。
蒼井の意識ある正義感は、自然とそういうイジイジを嫌う方向性にある。
簡略化して言ってしまえば、ただ純粋にひたすらに、蒼井という男はそんなイジイジを嫌う人間なのだ。
「さらに言えば、私は蒼井を恋愛対象として見ていない。これから見ることもない」
華蓮は心の奥底がピクンと跳ねる感触を感じた。
こんな形で少量とはいえ、喜びが込み上げてくるのはよくないことだと理解しつつ、華蓮は喜んでいた。
だがしかし
「やっぱり……」
「蒼井の中で一番になりたいか」
ここまで、容易く見抜かれると自分がどこまで単純なのか、心配になってしまう。
「まあ、今は余り考えなくて良いかもしれない。
少なくとも、大事に思わなければ、あいつもそこまでしないだろう」
恋有夜の言葉の後、すぐに蒼井が体育館裏へと顔を出した。
どこを探していたのか、思わず尋ねたくなってしまうほど、草葉や埃が付着していた。
確かに、このボロボロ加減は、自分が蒼井に大切に思われている証拠なのかもしれない。
謝りたい、手を弾いたことを。
謝りたい、我が儘な自分自身を。
でも、今は――
「漸く見つけ……」「蒼井さん!!」
その胸に思い切り抱き付きたい。
抱き付いた――。