表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/43

恋水(なみだ)

「あ~……」


「仕方ないだろう、お前が勝手にやったんだ」


エプロンを付けて夕食に使った皿洗い。

いつも通りの作業なのに、いつも以上にダルい。

これじゃ医者いけねえよ……どうすんだ? 変な機械とか頭にはめられたら。


最近怪我した左手の小指に、洗剤が少々染みるが、今の彼にはそれより痛い現実があった。

アーシア、超能力、マンションからダイブした男……どれも非現実的過ぎて、誰にも相談出来そうにない。

恋有夜も、相談にこそのってはくれるだろうが、女の子にしては雑な性格だ。蒼井の求める、俗にいう“まともな”回答は期待できない。


(……あれ、結局まともな回答くれそうなヤツ知り合いにいたか?)


煙草大好きな変態、不良、不良、不良……


(俺の知り合いで常識人って白鳳しかいねえじゃん!?)


校長の吸う、煙草の煙が、くしゃみで四散した……気がする。


―――


一方で白鳳華蓮は、一向に面白くない。

恋有夜恋有夜と、想い人が別の女に夢中ならそれも当然か。

来る日も来る日も頬を膨らませていれば、嫉妬の1つも覚えてしまう。


今も、ノートのページに「蒼井」とギッシリ書き込んだところ………………蒼井の周りから“真の”常識人が消えて瞬間だった。


「明日、話し掛けてみようかな」


内気な華蓮には、大きな決断だった。

これで、何か変わるといいな。

そう決心して、華蓮はベッドに入った。


何も、変わっていないと信じて疑わない蒼井が、この“華蓮を悲しませている”という変化に気がつくまでもう少し――。



―――


休日登校。


「だから、なんでこんなクソ暑い日に限って学ラン強制登校なんだよ!」


「仕方ないだろ」


隣で涼しげに笑う恋有夜と対象的に、蒼井は汗ダラダラだ。


「お前は言いよな、スカートなら涼しいだろ?」


「なら穿くか?」


「いや、いい」


どうやら、蒼井はどう頑張っても恋有夜に一手先をとられるらしい。別に、これで「スカートが短いと言うのか……」と慌てふためく恋有夜が見たかったわけではないが、なにやら惜しい気分だ。



―――


そして、同じ休日登校日。白鳳華蓮は珍しくご機嫌。

電話で校長からこう聞いたのだ「蒼井と華蓮以外に声をかけていない」と。

これなら、久し振りにたくさん蒼井と話すことが出来る。

この間貸した本、きっと蒼井のペースならもう読破しているだろう。どんな感想が聴けるのか楽しみだ。

明るい笑顔で、制服に袖を通すと、華蓮は駆け足で外に飛び出した。



が、結果は違った。


「どうして……」


その隻眼には、蒼井の他にもう1人。恋有夜だ。

どうして……どうしてどうしてどうしてどうしてどうして――!!


「白……鳳?」


心配げに声をかける蒼井だが、その声は恐らく届いていない。

「なんで、恋有夜さんがいるんですか?」


絞り出したようなかすれた声で、漸く華蓮は言葉を紡いだ。


「む、蒼井に連絡があったからな。

花咲家に居候させて貰っている身として、手伝いに来ただけだ」


居候……同棲マデシテルノ?


華蓮の中で何かが壊れた。

眼帯をつけていない方の瞳からポロポロと涙が零れる。


「おい、マジでどうしたんだよ!?」


差し伸べた蒼井の腕を、華蓮の白い腕が弾き飛ばした。と、次の瞬間には、蒼井と反対の方向に駆け出していた。


なんで、なんで、なんで!


今の華蓮には、冷静な思考など無しに等しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ