敗北
活動方向にも書いた通り、執筆が遅れてしまい本当に申し訳ございません!
「テンメェ……」
「貴方! やめなさい!」
シャルデンの制止も聞かず、亥真は蒼井へと拳を振りかざした。
が、ここで蒼井は驚いた。普段なら“あの程度”のことしか出来ない輩が刃を向くこと、それ自体に驚愕するのだが、今回は違う。
(驚くほど読めるぜ!)
右フックを回避し、左膝蹴りもなんなく避ける。アーシア――超能力者の集団。もっと強い連中の集まりかと思ったが、まさかこんな子供のような“素人格闘”しかできないとは……蒼井の驚愕はそこに向いていた。
次にくる左ストレートをサイドステップで回避して、渾身の右ストレートを叩き込む! そこからは蒼井のターンだ。衝撃で倒れた亥真をひたすらに殴り続ける。 すると、5発目くらいから手に違和感を感じ始める。
(こいつ、硬いな)
違う。蒼井の手のひらが痛むのは亥真が硬いからではない。
「よう、お前が楽しそうに殴ってんのはバーのカウンターだぜ?」
急に後ろから声が聞こえてくる。
その言葉に振り向くと……………………………………………………亥真が居た。
そして、彼が述べていることも真実。
蒼井の両拳は血だらけ。木製のバーカウンターをぶち壊していた。
「俺様の能力は幻視の泉。一般に言われる、幻覚さ。こんなことが出来ちまうから楽しいよな……超能力はよ!」
次の瞬間、蒼井の背中に強い衝撃が走った。
「が!」
自ら作ったバーカウンターの穴に、顔面から突っ込む。
学園一整った美顔は一瞬でボロボロだ。次は蒼井が虐げられる。悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!
「まあ、だから投げたんだけどな」
しかし、それでも蒼井は笑みを崩さなかった。目を大きく見開いた亥真。その眼前に迫るのは――バーカウンターの鋭利な木片。蹴った拍子に飛んできたのではない。余りの速さの気が付かなかっただけで、蹴られる前に蒼井が放った代物だ。故に寸分狂わず、吸い込まれる様に亥真の目、その下に命中した。
目を狙わなかった辺り、実に彼らしい。
「汚ねぇ……って罵るかい」
「いや、ただ今のブチ切れた!!」
もう一度、今度は自らの頭上に足を構えた亥真は、一目瞭然、踵落としを放つ気であったのだろうが、その攻撃をシャルデンが片手で制した。
「……止めなさい」
静かに一言言って、自らの手に収まったナイフを見せる。
それだけで、あれだけ騒ぎ荒れていた亥真が黙る。 シャルデンの真の実力が鑑みれる一瞬だった。
―――
「失礼しました。内の下っぱが」
シャルデンが手のひらを蒼井の傷へ翳すと、あっさりと傷は治った。それだけで、自らの内にあったイライラさえ消え失せてしまうのだから不思議だ。
「お前はどの程度なんだ?」
ふと、先程のシャルデンに対する亥真の反応が気になり、蒼井は彼女の実力について問うてみた。
「貴方はまだ部外者、お教えできません」
「……そうか」
教えてくれないことを前提できいていたため、そこまでのショックはない筈だが、やはり声のトーンは下がってしまう。
「しかし」
「ん」
「亥真はアーシアの最低ランク。アーシアのレベルは把握しておいて下さい」
蒼井は驚きに声を隠せなかった。最低ランクに負けた。
今まで、誰にも負けたことのなかった自分が……
蒼井は自分自身の中で何かが壊れたような気がして、歯を食いしばりながら、涙を流した。