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蒼井の見学

「……は?」


先ほどまでのシリアスなムードはどこへやら。完全に蒼井は間抜けた声を漏らしてみせた。

ようこそ、彼女は確かにそう言った。つまり、自分はアーシアという組織に誘われた、いや、入団したという認識で良いのだろうか。というか、彼女の言語が日本語ならば、そうでなければおかしい。


「拒否権は」


恐る恐る尋ねてみる。先ほどまでのイライラも完全に冷めてしまい、無駄に声は裏返りながら震えている。

内心、何故ここまで震えているか、それが疑問でしょうがない。


「十分にあります。しかし、私の話を聞く限りで拒否されてはアーシア内での私の信用に関わります。 一度の見学を強く希望します」


なんなんだよこいつ。話の内容だけで話し方がコロコロ変わる。勿論、先程の人をおちょくる喋り方よりか遥かに好きではあるが、それでも些か、このコロコロと変わる喋り方に一生慣れないだろう感覚が蒼井を襲った。


「あ、ああ、見学ね。了解了解」


違和感と気持ち悪さに挟まれながら、蒼井はアーシアへの道筋を案内された。



―――


学生は当たり前、一般人さえ立ち入らない……いや、立ち入れないほどの混沌さを漂わせる酒場が、まさにそこだった。

明るいネオンの“アーシア”という文字は、もう見てしまったなら忘れない。

来た道さえまだ良く分からない蒼井だが、このインパクトのせいで「道が分からなくてもまたここに来ることが出来る」と本気で錯覚しかけたほどだ。

きっと、個性的な面々が集まっているのだろう。黒衣の女が扉を開ける際、思わず息をのんでしまった。


「ん? シャルデン、新人かい」


初めに声をかけてきたのは金髪を腰まで伸ばし、右側の一部だけを三つ編みにした青年だった。

服装も髪に合わせて、黄色の上着を羽織っている。

そして、何より彼の呟いた単語は重要だ。 どうやら自分をここに導いた彼女はシャルデンというらしい。


「ええ、まだ見学ですけど」


「ふ~ん。そうかい」


シャルデンが短く返すと、男は蒼井を品定めするような目つきで見据え、やがてニコリと無邪気に笑って手を差し伸べた。


「俺、(はな) 亥真(いしん)よろしくね」


「ガキだな」


蒼井は亥真の良心的な態度に対して反発的だった。 寧ろ、亥真の上着の袖を思い切り、引っ張りあげてみせる。


「いてぇ!」


直後、亥真が声を上げて、手を強引に引き戻した。


「袖の中に画鋲隠して、握る瞬間に手のひらに出す。下らない技だな」


それを蒼井は見下すように笑ってみせた。

亥真に睨まれているが、それでも、いや、だからこそ楽しそうに笑みを浮かべた。

そして近くのグラスを落として割ると、当たりは急に静まり返った。

次の台詞は痺れるようにこう言うもんだと決まっている。 特に蒼井は亥真の嫌がらせで気分を悪くした分本気で言うつもりなのだろう。

彼の彼流の決め台詞を。


「俺にこすい手使ってんじゃねえぞ?

俺が気に食わねえなら正々堂々かかってこいよ!」



その瞬間、蒼井が空気の中心を支配した。

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