END1.ビッグバン
「なあ、アルドワ」
「何ですか、カベマさん」
「例えばさあ、俺が世界創ることできる? カベマ1号、2号世界みたいな」
「ええ、出来ますよ。まあアルドワ0号と銘打ってますが、この世界は私のではなくあらゆる神々の世界なんですよね。だからカベマ0号世界とも言い換えられますし」
「あ、そうなんだ」
しかし、その話は今の話の本筋と少しズレているような気もする。
「つまりデトロス0号世界でもあり、ユースカ0号世界でもあるんだろ、本質的には」
「ええ、そういうことです。で、先程の話に戻しますが、この世界は全ての世界の原点であり基準点です。私はここでママドワ様に産んでもらって、今は世界の創造主という役割を与えられ、あらゆる世界を創造してきました。カベマさんのいたアルドワ193号世界は、私が193番目に創造した世界で、実は結構自信作なんです。特にカベマさんのいた地球という星を追うのは面白い。ここまで発展した星はなかなかなかったですよ。一番優秀な星ともいえるかもしれません」
「いやいや、そういって。あの宇宙にももっと色々地球並に発達した星あったんでしょ? 宇宙ってめちゃくちゃ広いんだから、地球だけが特別とはとても」
「ええ、その考え方は良いですね。広い見識のある考え方です。しかし、他の星に生命が産まれることは割とよくあります。が、その生命が次に生命を産み、繁殖し進化していくのは非常に難しい。地球みたいなのは奇跡の中の奇跡みたいな、砂漠の砂粒、海の一滴くらいの確率なんです」
途方もないスケールの話にカベマは少し頭が疲れる。しかし、こういう話は異様に知的好奇心が掻き立てられる。幼少期に抱いていた不思議な高揚感、フィクションで観たような原始的神感を想起する。この異様な、不思議なワクワク、ロマンのようなものは何なのだろうか。カベマはこの世界に来てから、しばしばというかしょっちゅうこのような堪らない気分に愛撫される。
「カベマさんにも世界は創造できます。デトロスさんにもユースカさんにも出来ます。というよりも、私やここにいる他の神がやっている不思議なことは、全部世界を利用したものです。そして世界というものは平等であり、この世界の神ならば誰でも等しく覚え高められるものです」
「具体的にどの世界使えば創れる?」
「まず創造世界。次に構築世界、構造世界。後は思考世界、発想世界。さらには修正世界、可変世界。と大雑把にここら辺の世界の習得、鍛錬が必要になります。カベマさんは創作などに携わったことがありますか?」
「ああ、カクヨムでエロ小説書いてたけど。ヒロインがひたすらおしっこ漏らす奴」
「カクヨムは小説投稿サイトの一つですね。そこでもレベルの上下、優劣はありますよね」
「ああ、俺はヘタクソだったけど、上手い人はやたら上手いな。もうプロじゃねえか‼ みたいな人も結構いたし」
「世界もその小説みたいなものだと思って下さい。思考力が高い人ほど精巧な世界が創れます。デトロスさんは幼稚で破壊的なバトル系の世界が多く、ユースカさんは妖怪とか不良とかの要素が強いアングラかつバイオレンスな世界が多いです」
つまりアルドワはめちゃくちゃ思考力が高いということだろう。恐らくこの世界随一と言えるほどに。しかし、そう言われるとカベマは世界創造にはあまり向いていないかもしれない。先程も言ったように、単調なエロ小説くらいしか書いたことがないのだから。
「あ、そうだ。デトロスの友達で鳥山明先生とか高橋和希先生とかいたけど、あの人達ならドラゴンボールとか遊戯王みたいな作品を創れるんじゃね? クリエイターの上澄みだしさあ」
「はい、その通りです。現に鳥山さんはドラゴンボールの世界を創っており、高橋さんは遊戯王の世界を創っております」
「うわあ、行きてえ。遊びてえ」
カベマはUSJ的なノリで遊びに行こうとしている。そこでアルドワは少し噴き出す。
「何だよ」
「いえいえ、カベマさんって結構子供っぽくて可愛いですよね」
「アルドワって何歳?」
「……」
「アルドワって何歳?」
「いや、数字を出すのは可能ですが、私が口に出さなくても賢いカベマさんなら逆算して何となく想定つくんじゃないですか?」
カベマがいたのがアルドワ193号世界。そこでビッグバンが起き、宇宙というものが出来たのが138億年前と言われている。つまりアルドワは少なくとも138億歳以上上なのは確実であり、193番目に創ったといったり自信作といっていたことを考えると、創るまでに結構時間が掛かったのではないだろうか。ここからは勘だが、500億歳は超えていると思う。1000億歳以上でも特におかしくない。
「2025億歳?」
「え? は? どこでその数字を⁉」
「え? 当たり?」
カベマがここに来た時の西暦が2025年だったから何となくそういってみただけだったのだが、いやこんなの勘でも当たらないよな普通。
「おばさんは嫌いですか?」
そういって涙ぐむアルドワだが、おばさんという次元ではないような気がする。しかしそれをうら若き、いや若くはないが女性のアルドワにそのまま告げるのは酷というものだろう。別に年齢をいくら重ねていようと、この世界では特に何も問題ないだろう。皺くちゃになる訳でも腰が曲がる訳でもない。アルドワは二十代の美女、いや十代の美少女といっても問題ない容姿なのだから。
「いや、まあアルドワは可愛いだろ」
「えー? 餓鬼に可愛いとか言われたくないんですけどーww」
「何か最近分かってきたけど、アンタも結構良い性格してるよな」
「カベマさんも1000億年くらい生きたら良い男になるかもですねーww」
いやあ、何かいきなり憎たらしくなってきた。いや、琴線に触れてしまったのだろう。コンプレックスだったのだろう。今までは世界の創造主という立場からか、異世界転生ものの水先案内女神様みたいな立ち位置をキープしていたが、これがアルドワという女性の本質なのだろう。いや、てことは
「デトロスやユースカも億歳超えてんの?」
「いや、超えてなかったら何なんですか? 私は世界の創造主として永らく活躍してきたから2025億歳ですが、デトロスさんやユースカさんなんてどう見てもまだまだ未熟な子供じゃないですか。いやデトロスさんなんて昨日産まれたのか? と言いたくなるくらい幼稚ですし」
何かアルドワの闇というか、この世界の暗黒部分みたいなものが少し見えてくる回だった。アルドワってデトロスのこと嫌いなのか? いや、実際アルドワからしたらデトロスみたいなのはウザいか。あんな幼稚で奔放な子供の中の子供みたいなのは。
「鳥山さんとか高橋さんも最近死んだばっかじゃないですか。しかも享年60くらいでしょ? 餓鬼じゃないですか、人間の寿命ってゴミみたいですよねー」
いやあ、アルドワの悪態はスケールが大きすぎる。カベマの、というか星野カビ丸の年齢も100を超えていたが、まあ2025億歳から見たらゴミの範疇だよな。誤差ですらないような超僅差だよな。