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政界の誘い、そしてシスコの魔王

3行あらすじ

祝賀パーティー翌朝、AIは『政界進出』ルートを最適タスクとして再提示。


初登壇した臨時公聴会でアンドレイは軍事技術の旗手シュトラウスと激突、「人間かAIか」の火花が散る。


上院補欠選へ出馬するか、裏方に徹するか──決断の猶予は48時間。


《政界の誘い、そしてシスコの魔王》



 ──シャンパングラスの残り香がまだ喉に残る夜明け。

 窓を開けると、早朝の冷気が頬を刺し、遠くで排気ファンが低く唸る。

 《LIFE ADVISOR》は眠らない。

 > 《婚姻契約 承認完了》

 > 《政界進出タスクを最優先に切り替えます》


 胸の鼓動はジョギング後のように速い。

 鏡に映る自分の目が、かすかに光を帯びている。

 リアは隣室で書類を片づけながら小さく咳払いした。

 「ねえ、あなたを待つ議席は空いてるわ。どう動く?」

 昨日のパーティーで過去のクライアントが政治家になっていて、やたら誘われたのだ。



 コーヒー豆が弾ける香ばしさが鼻腔をくすぐる。

 マグカップの熱が掌にじわりと移って……妙に心地よい。

 遠くの救急サイレンが薄く尾を引き、胸に不安を落としたが彼女が微笑んでいる。

 爽やかに。


 私はゆっくり息を吐く。「議場に立つと決めよう」

 声帯が震え、言葉が空気を押し出す振動を全身で感じた。


◆臨時公聴会—初登壇

 大理石の回廊を踏む靴底が、乾いた反響音を返す。

 議場の空調は低温設定、薄荷のような冷気が肺を洗った。

 観客席を埋める人波のざわめきが、潮騒のように寄せては返す。


 「新任参考人、アンドレイ・シルファー!」

 アナウンスが割れるように響き、背筋が粟立つ。

 壇上に立つ私を、鋭い視線が射抜いた。

 ──アレキサンダー・シュトラウス。

 海軍中佐、次世代空母計画の象徴。シリアルアントルプレナーでもあり、メリーランド号で来た一族、そして、シスコの魔王。


 彼の制服が金糸を反射し、目にチカチカ光点が残る。

「AIに国家を預ける? どのAIに? ライフアドバイザー社のか? はっ……」

 シュトラウスの蔑笑が低く重く、胸骨を叩くベース音のようだ。


 私は呼気を整え、AIが映すプロンプトを視界左隅で確認。

 > 【返答案:人命最適化指標/兵站短縮率/費用対効果】

「すでに私のAIが米軍で標準装備になっている。たかが民間のタスク管理アプリが入る余地はない」

 自分の声が、氷面を走る亀裂のように静かな破裂音を立てた。


 議場の照明が熱を帯び、額に一滴、汗が滑る。

 匂い立つ金属とホコリが、緊張の味を際立てる。


◆衝突の余韻

 公聴会後の廊下。

 シュトラウスは足を止め、振り返ることなく言った。

「戦争を知らぬAIに、国など守れん」

 足早に去る革靴の踵音が、銅鑼のように響き残った。


 私は手すりを握る。レールの冷たさが皮膚を締め付ける。

 リアからバイブ通話。

「生中継、評判は五分五分よ。でもインパクトは十分」

 彼女の声に、オレンジピールの甘酸っぱさを連想した。


◆AIの次タスク

 > 《上院補欠選 出馬可否 決定期限: 48:00:00》

 > 《想定勝率 63%→71%(最新世論反映)》

 ディスプレイにカウントダウン。

 指先の脈が早鐘を打つ。



 夜風がカーテンを揺らし、紙の資料をさらさらと擦る。

 アロマディフューザーのラベンダーが眠気を誘うが、瞼は冴える。

 背中に貼った冷却シートから薄荷の涼感が骨まで染み込む。


 リアがダイニングに現れ、二つの封筒を卓上に置く。

 「婚姻証明の原本と、選挙管理委員会の届け出用紙」

 彼女の指先が封筒を軽く弾き、紙が乾いた音を立て跳ねた。

 「あなたの『最適』は、どっち?」

 私は笑みを作り、心臓の鼓動が耳の裏で銅鑼のように響くのを聴いた。



 > 《出馬を承認——Yes / No》

 > 残り47:59:07、私はペンを持った──インクの匂いが濃く立ちのぼる。



次回予告

 選択の刻限は迫る。出馬を決めた瞬間、AIが用意する『勝利シナリオ』と『感情削減プラン』が発動する――だが、人間らしさは維持できるのか?



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