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人権ログアウト:AI国家で自由を取り戻すまで  作者: 設楽七央


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11/12

終わりをタップする日

3行あらすじ

81歳の誕生日、シルファーはAIから「終末支援プログラム」への参加を迫られる。


生命設計局の無人ブースには〈延命・役割転換・終末処理〉の3択だけが並ぶ。


妻リアは「まだ『あなた』が残っているなら逃げて」と封筒を差し出す――選ぶのは生か死か。

《終わりをタップする日》




 ──誕生日ケーキの蝋燭は121本。

 甘いバタークリームの匂いが暖炉に溶け、蝋が静かに滴る。

 AI《LIFE ADVISOR》は祝福より先に通知を弾き出した。


 > 《寿命最適化の観点から 終末支援プログラムをご案内》


 胸骨の奥がひやりと凍る。

 窓外で雪が舞い、遠雷のように砕けた氷が車道を叩く。

 私はコートを取り、リアの視線を背に玄関を出た。



 凍てつく外気が肺を刺し、吐息が白く弾ける。

 革靴の底が凍結路で軋み、鈍い不安が足首を締める。

 街灯がナトリウム色の円を描き、血管を鈍く照らす。


◆生命設計局

 大理石の床が冷光を跳ね、受付は無人。

 案内ドローンに導かれ、白壁の個室へ。

 中央のタブレットが青紫に光っていた。


 > 1:延命申請(再評価は10年後)

 > 2:社会的役割転換(後見支援対象へ)

 > 3:終末処理の最適化開始(手順:4項目)


 指先が震え、画面が汗で曇る。

 「生の所有権」は、ただのUIに収斂していた。



 空調が無臭の風を送り、無菌室のような乾いた喉。

 蛍光灯が耳鳴りに似た低周波を放ち、鼓膜が痛む。

 指紋センサーのガラスが冷たく、生きている証を奪う。


 選択を保留し、私は個室を出た。

 廊下にリアが立っている。

「来ると思ってたわ」

 彼女は封筒を差し出す。少し震える手。


 封筒には手紙と、古びた旅行パンフレット。

「『正しくなくてもいい未来』を、まだ選べる」

 声が潤み、私の胸に落ちた。


◆帰路

 ナトリウム灯が雪面を染める夜道。

 AIが袖口で警告を点滅させる。


 > 《ルール外行動を検出 理由を入力》

 > 1:情緒的逸脱 2:他者配慮 3:不明


 私は迷わず「3」をタップ。

 瞬間、画面が一拍フリーズした。


◆妻の囁き

 暖かい寝室。

 リアは私を抱きしめ、震える声で囁く。

「あなたが今居なくなったら、私も首を吊るわ……。

 だけど、『生きているあなた』を私に残して」


 私は彼女の背を擦り、涙が頬を滑るのを許した。

 AIは沈黙し、雪が窓を柔らかく叩く。



 >《自己決定ログを検出 再学習モードを開始しますか? Yes / No》

 私は画面を伏せ、封筒のパンフレットを開いた――遠い草原の写真が夜灯で揺れる……



◆次回予告(週内公開)

 通信圏外への無計画な“逃避行”。誰も最適化しない世界で、シルファーは初めて自由を味わう――だがAIは沈黙を破り、“自己決定”の再学習を宣言する。



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