井93
《前回までのあらすじ》
「つまりね。第一チャクラから放出された生命エネルギーをそこに溜めた後、再び口から取り入れて循環させるのよ。そうすることで、あなた達の身体の中心を通るコスモストリームが滞ることなく流れるようになり、それを何度か繰り返していく中で、あなた達は、本当の意味で自分をコントロールすることが出来るようになるの……。」
この平行宇宙に調和をもたらそうとする、ヒーラー、水守らいかの言葉に従い、
お互いのコスモストリームを交換し合う、2人の美少女戦士達。
しかし2人の間には、重大な情報伝達ミスがあり、互いの命を危険に晒していることに気が付いていなかったのだ!!
……秘密のお茶会、後編スタートです。
「……やっぱり飲まなきゃダメ……?」
如月ひみこは、少し涙目になりながら、天埜衣巫に尋ねた。
「え?飲まなきゃダメってどういう意味ですか?」と、おかめのくびのアリスが、不思議そうに首を傾げる。
「あ、いや、その、………なんか綺麗な色だし、飲むのもったいないかなあ~、なんて……ゴホゴホ…」と、オーバーに咳き込む振りをしたひみこは、その拍子にずれてしまったカチューシャを少し後ろに直した。
「ところで、イヴ?…そもそも、あなたはこれの………、味見はしたの?」
「ええ、もちろん!美味しかったですよ?マスカットみたいなフルーティーな香りの中に、ちょっと大人っぽい渋みがありましたね。それでいて何だかすっきりとした後味なんです。甘味と酸味、そして渋みがほどよく混じわっていて……、
……わたしはすごく飲みやすいな、と思いました。」
………なんか、美味しそうね……。
まあ、でも、よく考えてみたら……、ほとんどの人は誰も、あれを飲んだことがないはずだから……
どうして不味いと判断出来るのかしら……?
そう考えると不思議よね。なんで、こんなに飲みたくないのか……。
現にイヴは美味しいと言っているわけだし。
まあ一般的に言ってさ…、普通はさ…、あの特徴的な臭いがあるものだからね……誰も飲もうとは考えないんだけど……。
……この天埜衣巫が入れたものは、なぜか花のような、果実のような…深い芳醇な薫りがするし……。
これは……飲んでも大丈夫なんじゃない……?
『いえいえ、騙されてはいけません!』
ひみこの頭上、右斜め上に、天使の輪を頭に冠した、白スク水の天使のひみちゃんがポンッと現れ、
先端がハートの形をした杖を振りながら、『貴女が今考えたことは、穢れなき少女を欺く数々の嘘と同じです……オーガニック、海洋深層水、マイナスイオン、水素水、無農薬、反ワクチン、昆虫食、陰陽療法、エトセトラ、エトセトラ、ケセラセラ………。」と囁いた。
………危ない危ない……、危うく騙されて飲むところだったわ、天使のひみちゃんありがとう。
『待って!』
今度はひみこの頭上、左斜め上に、黒ブルマにブカブカの体操着を着た、ポニーテールの悪魔、きサらぎひみタンがボフンと現れて、『今、そいつが言ったような迷信は、全てが科学の源、またはきっかけになるようなものなのよ!』と叫ぶ。
『迷信を簡単に退けていいの?……貴女、錬金術って知ってる?
錬金術はね、多くの学問の始祖になった、立派な人類の歴史なのよ?金を作ろうとする過程で、化学や医学などの発展に貢献したの。』
白スク水の天使のひみちゃんが、上半身にある2つのさくらんぼの種の形を、若干飛び出させて、(グラビアを見る男子達の顔を赤面させながら)『そんなこと知っています。』と言い返した。『……ただそれは、科学の台頭と共に、迷信の部分が滅んでいった、というだけなのではないですか?……それは、言ってみれば勘違いが正されていった、というだけ。悪魔ひみタンの言葉に耳を傾けてはなりません。
えせ科学により、どれだけの人間が命を落としていったことか……。水銀を不死の薬だと思って飲んだ人は、漏れなく死んでいったわ。」背中の羽を震わせて飛ぶ、天使のひみちゃんが、ひみこの耳元で囁く。
黒ブルマのひみタンは、はちまきをカチューシャの位置にアレンジしつつ、背中の黒い羽を振動させながら、空中で体操座りの姿勢になり、ブカブカの体操着に膝を収納すると、
(無垢な男子達の目に、まるで下に何も履いていないように誤認させながら)『あら、白スク水のひみちゃんは知らないのかしら?
核分裂を利用して、水銀に中性子線を当てれば、原子核崩壊によって金を作れるという研究から始まって、……今では大型ハドロン衝突型加速器を使って、金を作成することに成功してるのよ?』と言って、『あなたね、白スク水はプールに入ると全部透けるわよ?』と言うと、オホホホと手の甲を裏側にして、頬にあてがいながら笑った。
白スク水の天使のひみちゃんは、顔を真っ赤にして、『サポーター履いてるもん!』と手をブンブン振り回して、ポカポカと悪魔のひみタンの頭を杖で叩いた。『あなたこそ、ブルマなんて、ほとんどパ●ツで外歩いてるのと同じじゃん!』と言って『魔族は魔族でも、マゾの露出魔属性じゃない!』と、うまいことを言った。
……ちょっとちょっとちょっと……、話が逸れてるんですけど。と、ひみこは、プ~ンと羽音を立てて飛ぶ2匹の肌色の虫を、手のひらで払いのけ、
……レン金だか、レンチンだか知らないけど、結局どういうこと??
と、再び、おかめのお面を被った天埜衣巫と目を合わせ、手の中にあるティーカップに視線を落とした。
「イヴ?」
「はい?なんでしょう。」
「前にも聞いたと思うけど……、雑菌とかは大丈夫なんでしょうね?……わ、わたしの方は、そこらへんなんもしてないわよ?」とひみこは言った。
「もう、心配性ですね?……わたしのは大丈夫です。あ、じゃあちょっとそっちのポット貸してください。」そう言うと衣巫は、ひみこのティーポットを掴み、「一度、煮沸しましょうか?」と言ってコンロの方へ持っていった。そして、小指を立てながら蓋を開け、一度カップに注いだ分も中に戻す。
その一瞬、衣巫は、(う?)と微かに異臭を感じ、すぐに蓋を閉めた。
その様子を見ていたひみこは、
……まずい、時間が経つとさすがに、内容物が変質してきて、199X年アンゴルモ二ア大王が降臨してきてもおかしくない………アーメン、ノストラダムス……世界の終わり……。と背中に汗をかき始めていた。
……それに比べて、イヴのこれは良い薫りが持続するわね……。何故かしら……?もしや、天埜衣巫の方がより健康で、より……美少女だから……?!
いや、そんなことない……!天埜衣巫の方が美少女だなんて、断じて私は認めない!
沸騰したポットからは、……徐々に……異様な匂いが……、コポコポと吹き上がってきて、
衣巫は椅子の上でピンと背を伸ばした姿勢のまま、微かに首を傾げ、そちらの方をじっと見ていた。
「先輩……?」
「な、なによ……」
「あれ、……本当に毒とか入れてませんよね……?」
「ど、毒ではないけど、……毒と言えば毒かと………。」
「どういうことですか?」そう言いながら、すぐに衣巫はハッとして、椅子を蹴るようにして立ち上がった。
「……まさか、先輩?水守らいかさんに言われたまま、一番チャクラをそのまま、出したのでは……?!」
………はい。その通りです。……てことは二番茶の方が良かったってこと?最初のやつは、さすがに濃過ぎた??でも、あなたも一番茶って言ってなかった?
「先輩?……今は12月ですよ?もしかして春摘みの一番茶を使ったんじゃないですか?も~う、先輩ったら!ホント、ドジッコ♡
おしごと♡が忙しいのは分かりますけど……、そんなに古いの出しちゃダメじゃないですか?も~ぉ、水くさいですよ?いい茶葉が手に入らなかったのなら、そう言ってくれれば良かったのに……」衣巫はそう言うと、ポットの火を止めた。
………古いとか、……臭いとかって……、あんた……、私をディスってるって言うか…、もはや悪口……。
衣巫は軽やかに、鈴の鳴るような声で「あんまり時間が経つと、ひどい時は虫が湧きますからね。飲んだらお腹こわしちゃいますよ。
……もったいないですけど……、これ、そこの、はしっこ♡で捨てちゃいますね?先輩??聞いてますかっ?!……なんですか?その憔悴♡しきった顔は……。じゃ、ひな先輩。先輩にお出しいただいたやつ、もう多分、賞味期限切れだから流しちゃいますね。買った分は後でべんしょう♡しますから……。」トポトポトポ………………。
天埜衣巫……。私とあんたって……そんな歳違う?……せいぜい3歳差くらいでしょ………。そりゃさ、私は普段から、大人のレディオーラが、だだ漏れしていますよ……?だ、だからってさ……、賞味期限切れのおばさん扱いは、酷くない………?
……な、なによ!あんたの方が、毛だってボウボウ(?)なおばさんのくせに!!………う、う、うらやましい(涙)……。
「……さあてと。」
そう呟くと衣巫は、石鹸で綺麗に洗った手をタオルで拭いて、
ひみこの待つテーブルに戻ってきた。
「じゃ、気を取り直してお茶会の続きをしましょうか。」
「…………。」
え?まだするんですか………。
「ああ、わたし、もう喉がカラカラ。」
「…………。」
「ひな先輩?わたし、先にいただいていいですか?」
言い終わらないうちに、衣巫は、ひみこに出していたダージリンティーのカップを自分に引き寄せ、「……これ、正直どちらかと言うと、やっぱり、ちょっと渋いんですよね……」と言って、テヘっと恥ずかしそうに肩を竦め、
近くにあったミルクポットを手に取ると、それを中にとろおり…と注ぎ入れながら、新しく出したストローでくるくると掻き回し始めた。
そして、「いただきます。」と言うと、カップを顔の下までを持ち上げ、おかめのお面と顎の間にある、僅かな隙間にストローを差し込み……、
……ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅ………と中身を吸い上げていった……。
それを見ていた如月ひみこの脳裏に、
一瞬だけ、……陶器の御手洗いに…ストローを突っ込んで中身を吸い上げている少女の映像がよぎり……
椅子に座ったまま、ひみこは
警戒レベル5相当の避難勧告が間に合わず、
白いテーブルクロスに下呂温泉、湯ヶ峰火山の噴火、火砕流を引き起こしながら、衣巫の悲鳴を聞いているのだった………。
皆さん、三連休楽しんでますか?
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