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井78 トロイメライ


衣巫(いふ)?大丈夫?」


医務室のベッドに寝かされた天埜衣巫(あまの いふ)の顔を覗き込みながら、

パンドラプロダクション社長、雨宮世奈(あめみや せな)は、おかめのお面からはみ出した栗色に近い髪を優しく撫でていた。


ライブ中、ほとんどトランス状態だった衣巫には、弦の切れていない新しいギターをすぐに用意し、衣装チェンジ後のものと同じ白いワンピースを元通りに着せてから、ベッドに寝かせていた。


「あ、あれ?雨宮さ…ん?」衣巫の目がうっすらと(ひら)く。「あれ?……ライブは?…どうなったんですか……?」衣巫が体を起こそうとするのを、世奈がそっと押し返し、彼女をもう一度ベッドに寝かせる。


「大丈夫よ。終わったわ。あなた、素晴らしかったわよ。」

「……良かったあ……」


「でもね……、私達スタッフの逆光の切り替えの演出のせいで、光過敏性発作を起こしたオーディエンス達が救急車で運ばれる事態になってしまったの。」「え……本当ですか?」

「ごめんなさいね。それだけじゃなく、あなたもライブ後に意識を失ってしまったみたいで……。この分じゃパンプロの年末ライブは、開催が難しそうね……。」と世奈は言うと、立ち上がって水を汲みにいった。


……そういえば、わたし、ライブの途中からあんまり記憶がないような……。でも、3曲を歌い切ったのは確かなはず。だって……身体が……記憶している……。衣巫は、ふと気になって掛布団の中で、自分のエンジェリックギターを確かめてみて、……気のせいか……とスカートの裾をもぞもぞと戻した。


「パンドリータさん達は……その……大丈夫だったんですか?」衣巫がゆっくりと半身を起こしながら尋ねる。

「まだ寝てなさいよ。」と言いながら世奈が水を手に戻ってくる。

「…あなた、紅茶もほどほどにね。何でも飲み過ぎは体に良くないわよ?」「はい。」

「……まあ、パンドリータ達の方は……大丈夫だと思うわ。あなたのステージを見られて満足でしょうから。」

……それに救急車に運ばれた以外の全員に着替えとホテルを用意したからね……。うちの売れっ子アイドル天埜衣巫は、ライブすればするほどお金がかかる、ほとんど慈善事業みたいなものよ!……まあ、でも今回はさすがに口止め料はいらないでしょうよ……、逆に観客席の様子を撮影したドローン映像を使って彼女達をゆすれるくらい……当然そんなことはしないけどね……。でも、今回のライブ映像も100%お蔵入りね。て言うか単純所持だけで、私、逮捕されたりしない?……大丈夫かしら……。


「衣巫ちゃん?お疲れ!」


振り付け師兼ダンサーの三上クリスティーヌが入ってくる。


「あ、クリスティーヌさん!あの……わたしの今日のライブの出来……どうでした?!」

「バッチリよ!百点満点!今回ばかりはアナタのダンス技術に、文字通り畏怖(いふ)したわ!アナタ、ホントに何でも出来ちゃうのね!歌う時に1段階声が高くなるのも好きよ!おかめのお顔にキスしてもいいかしら!」「ダメよ!ダメに決まってるでしょ」と言って、世奈がクリスティーヌを引き離す。


クスクスと笑っていた衣巫だったが、急に真面目な声になって「……年末のライブ、中止になりそうなんですか?」と言う。


「う~ん。残念ながらそうなりそうね……」とクリスティーヌが答える。「あれだけ救急車が出動しちゃうとね……。」「……ひな先輩はどうなるんですか?」「ひな先輩?ああ、ひみこね、」と世奈が答える。「他の子達はともかく……、ひみこは久々のアイドル活動だったものね。……悪いことしちゃったかしら…。」


「そんな……わたしのライブのせいで……。」「別に衣巫ちゃんのせいじゃないわよ。」「そうよ?あなたは気にしなくていいの。とにかく今日は1日お疲れ様!……ゆっくりお休みなさい。少なくとも今日1日は、ネットの感想なんかは見ないこと!」「は~い」

衣巫はそう答えると、また急に眠気が襲ってくるのを感じた。……ふわあああ、眠い。先輩には今度、とびきり美味しい紅茶をご馳走してあげよう……。

でも、ライブって疲れるわあ……。そう考えてみるとツアーとかやってるアーティストって凄いのね……。わたしにはまだ……、とても……、無理かも……。と考えて天埜衣巫(あまの いふ)は、おかめのお面をつけたまま再び深い眠りにつくのだった。


**************


~とある使徒さんのネットでの感想まとめ~


『 天埜衣巫セカンドライブ行ってきました。私は100使徒ですが、何か質問ありますか?ファーストの質問も受け付けます。』

『質問です。救急車が何台も出動したそうですが、光過敏性発作の噂は本当なんでしょうか?私も光に弱いので、元々強いライトとかがあるライブやコンサートに行くのが怖いんです。でも3rd(サード)ライブにはぜぇっったい参戦したいんです!衣巫ちゃんLOVE』

『はい。お答えします。今回はサードの予定は発表されなかったけど、次回は着替え持参必須です。光はそんなに気になりませんでした。どちらかと言うと演出的にびちょびちょになります。サードは一般抽選もあるでしょうから、お互いに頑張りましょう!生の衣巫ちゃんはヤバいですよお。』

『ありがとうございます。イルカショーみたいに水をかけられるんでしょうか?真冬なのに、それは救急車が出ますね(笑)』


『質問です。衣巫さまの生歌(なまうた)、どうでしたか?こんなこと言うと叩かれそうですが、やっぱりCDとかって調整されてるものじゃないですか?…完璧な衣巫さまが、音を外すところを見たくないと言うか…。ごめんなさい!気を悪くしたらすみません!どうだったでしょうか??衣巫教信者』

『はい。お答えします。心配無用です。衣巫ちゃんのボーカルは神半分、天使半分、この世のものではないです。疑うくらいなら、あなたは一生CDを聞いていてください。「仮面を被っているから、本当は歌っていないのでは?」という、一部ネットの声もありますが……、憐れです……。ファースト時の「if&then」とセカンドのとCDの「if&then」は、全てが別と言っていいほど、ボーカルのアレンジが変化していました。衣巫ちゃんはまさに天才です。ライブ音源が発売されるのを楽しみに待ちましょう。ありのままの衣巫ちゃんに修正が必要だとしたら……それは、不純な私達が彼女の美をありのままに見る資格がないから、そうされたまでです。不愉快なのでこれくらいにします。』

『怒らないでください(涙)。私も衣巫さまが大好きなんです。申し訳ございませんでした。』


『質問失礼致します。ファーストの質問です。衣巫ちゃんのおかめのお面ですが、初めて見た時、どう感じましたか?今でこそ、あのおかめは美の象徴みたいな感じですが、最初はびっくりしませんでしたか?本音の感想、よろしくお願いいたします!あと、衣巫ちゃんの素顔について、何か思うところがあれば教えてください!衣巫ちゃんにハート』

『はい。お答えします。そうですね。おかめのお面については正直、私も最初は驚きました。…でも言って開始10秒くらいまでですかね。一気に世界観に引き込まれました。

…衣巫ちゃんの素顔については、100使徒内でも、話題にしない派とする派にわかれていますね。私は衣巫ちゃんの素顔を想像してもいいかな、と思っている派です。何と言うか…お面越しの美少女オーラ、凄いですよね。色んな二次創作で、顔に火傷(やけど)の痕がある美少女とか、口割け女、とかありましたけど、ああいうのは私、ちょっと嫌ですね。まあ、創作としてはわかるんですけど……、衣巫ちゃんの美しさって、少し違いますよね?いったいどんなご尊顔なんでしょうね。もし、何年か後に素顔が明かされるとして、そうするとあれじゃないですか?今の(▪▪)衣巫ちゃん(▪▪▪▪▪)の、この年齢での顔は見れないわけじゃないですか?それが凄くもったいないと言うか、何と言うか……私達はどう足掻いても衣巫ちゃんの全てを知ることは出来ないんだなあ……なんて思うと、寂しくなりますけど……それが生きるってことなんでしょうかね。何にせよ今後の展開が楽しみですね!』

『ありがとうございます。私は衣巫ちゃんの素顔がおかめでもいける口です!衣巫ちゃんは存在自体が美少女ですよね!』


『質問失礼します。セカンドで初披露された二曲、「プリンセスリンネ」と「いきるちかい」ですが、まだ上がっていないので、内容を私達は想像するしかないのですが、どんな曲だったのか教えてください!まだ歌詞とかは言ってはいけないと思うので、雰囲気とかだけでもいいです。お願いします!衣巫ちゃんスキスキ』

『はい。お答えします。まず「プリンセスリンネ」ですが、小悪魔衣巫ちゃん?て感じでしょうか。ああ、やっぱりアイドルってお姫様なんだなあって納得できる感じです。噂になっていた光の演出が入ったのはこの曲の途中でした。サビの部分で結構怖い言葉も入るので、そのイメージで暗転、転生で点灯、を繰り返す演出だったんだと思います。ノリのいい曲で、凄く盛り上がりました。舞台の後ろが大きなスクリーンになっていて、そこに舞い散る羽の映像が流れたりしていました。衣巫ちゃんはピンクのドレスでハイキックをしたりして、とてもカッコ良かったです!

ところで三曲目の「いきるちかい」ですが……。これは……この地上のものではなかった、とだけ言っておきましょう……。衣巫ちゃんは本物の天使になって、私達の想像を遥かに越えるやり方で、美しさ、幼さ、純潔さ、限りある命、生あるもの全てへの賛辞、優しさ、悲しみ……そのありとあらゆる感情を持った、「女の子の可愛らしさ」そのもののような姿を見せてくれました。

ごめんなさい、正直、曲の詳細については覚えていません。ただ圧倒的バフォーマンスでした。あの衣巫ちゃんの衣装は、……歴史的に見ても今までこういうことについて、誰もちゃんと言葉にしてこなかったと思うんですけど……、ある種、女の子の夢が詰まってました。

変身願望の中にある、変身そのものの過程、と言うか……。よく引き合いに出されるディーヴァなんかもそうですけど…変身中の演出そのものに憧れを持つことがいけないことのような、まるで語ってはいけないことのような側面があると思うんですよ……。今回の衣巫ちゃんのステージの演出は、そこを切り取って私達に見せてくれたんではないかと思っています。まあ、詳細は控えますけど……。

とにかく、この「いきるちかい」はまだ生々しすぎて冷静には語れません。以上です!』

『ありがとうございました、トロイメライさん。とてもわかりやすい解説でした。また何かあったらお願いいたします。』


『これからも100使徒トロイメライ、天埜衣巫ちゃん情報を発信していきたいと思います。今後とも宜しくお願いいたします!』

次回、『ベーゼ・ベーゼ』

質問、感想、どしどし受け付けてます!

この連載、面白くないですか??(涙)

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