井51 ひみこの特別配信?!
ハロー!ぱ邪馬台国の数少ないファンの皆さん?
元みんなのアイドル、如月ひみこでーす!
はい、早速質問かな?えーっと。カウントダウンライブに天埜衣巫が出るのかって?そんなの私が知るわけないでしょ。
……て、言うのは冗談、冗談。もーう、みんな、い、ぢ、わ、る、な、ん、だ、か、ら?
アイドルの情報は秘密が多いの!正直、カウントダウンライブに誰が参加するかは、私も知らないんだあ。
ごめんね、埴輪くん達?
うふっ?でもね、ひみこが予想するにぃ、
イヴちゃんは、単独でクリスマスイヴにセカンドライブするかもね?ほら、イヴだけに?
『さむい』『またイヴのネタで再生数稼ぎか』『おやじギャグ』『へんぺーそく』……はいはい、悪うございましたね?……あんたら、私のことをいじって、バカにして悦に入っているつもりらしいですけどね?あんた達なんて、どうせ彼女もいないまま、子供部屋で年取った、半妖怪の半妖精さん達なんでしょ?
……なにを言われても、私の穢れなき心は、ちぃ~っとも傷付かないんだから!(……ぐすん。)
『落ち込まないで!』『頑張れひみこ』
「はい、《くまのピーさん》、いつもありがとね?」
『かわいいよ』『いつもお肌すべすべ』
「はい、《いいよお?》さんに、《チョビット》さん、ありがとー!」
『毎週楽しみにしてます』『今日のパジャマ、サイコー』
「ピンクレッドさん、キティガーさん、うれしいな!応援ありがとね!」
……いったいここは何エーカーの森よ?版権切れたからって、あんた達、やりたい放題しすぎじゃない??夢の国から怒られるわよ?
「さてと、っと!今日は、前にみんなに出していた宿題の結果を発表しま~す!」
「じゃあ、みんな、お待ちかねのコーナー、いっくよ~!
『いく~』『いく~』『いく~』
せーのっ!
ひみつのひみこのまじでまじかるなんとかかんとかぱんどらぱんちらなぜなぜ質問箱~!」
「やだっ、今日のひみこ、滑舌ばつぐん、神がかってない?よぉ~し!もういっちょいってみよー!
みんな大好き未然形からいきます!
まじく、まじから、まじく、まじかり、まじき、まじけれ、
まじでまじめなまじの活用形でした~!」
はあはあ………。どう?ひみこの高校生レベルの古文の知識、思い知った?……もう、子供っぽいとは言わせないわ……。
おほん……。
「では、発表しまーす。え~っと、お題は、ひみこが超能力者だとしたら、どんなパワーを持っているか?でしたね?」
……ぇーと、なんでこんなネタになったんだっけ?今さらだけど、意味がわからないわ……。ノリって怖い………。
「はい、ペンネーム、
《クリスト・ファッ〇・ロビン》さん。……黄色いクマ関連、まだ続くのかしら?え~っと、ひみこが使える超能力は……、
『参考書の赤い暗記シートを透視する能力。』
…って、ぶわっはっはっは!面白い!それ、なんの役に立つのよ??
座布団3枚!
じゃあ、あなたには、ひみつのひみこチャンネル特製『貼ったら剥がれる弱粘着ひみこちゃんシール』を送りま~す!て、それも、ちーっとも役に立たないやないかーい!貼ってはがせるシールだろうが!ダハハハハ……」
えーと、『さむい』『おやじギャグ』『一周回ってつまらない』『痛々しい』『えせ関西弁やめろ』『生えてないくせに』
やめて……、ひみこ泣いちゃうから……うえ~ん。
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あ”あ”~~~、づがでだぁよぉぉ………。
(※ここからは小説投稿サイトの方のみの特別配信となります。)
てか、視聴者数どんどん減ってるんですけど……。ひみこ、こんなに頑張ってるのに……。
もうこれは、ぱ邪馬台国改め、
すくすく水魏志倭人伝!で、いくしかないかしら?
このアイデア、随分長いこと温めてきたけど、問題は、まだ私が全然すくすく育ってないことなのよね……。
牛乳とチーズ、嫌いだし…。
もう少し、これは温め続けることにしましょう。うわ、なんか、温めた牛乳を連想しちゃったわ。おぇぇぇぇぇ……。
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ふと、ひみこは思い付いて、唐突にネグリジェ式の黄緑色のパジャマを、お腹の方から捲り上げ、
腕を上げて、巾着袋のように頭を覆うと、
……じたばたと脚を蹴ってレースの付いたピエロのようなズボンを脱ぎ捨てた。
そうね……、いっそ天埜衣巫戦法にあやかって……。
あれよあれよという間に、生まれたままの姿になった、ひみこは、自分の身体を見下ろして、
……生まれてきてごめんなさい……。とちょっと思ってから、
白いタンスから出してきた、フリフリのレース付きの大きめのハンカチを、頭からドロボーのほっかむりのように被った。
顔の前に伸ばしてきたハンカチの角を、鼻の下でキュッと結ぶ。薄いサテン生地の中央が丁度鼻のところに来て、洗剤の匂いが、ひみこの鼻腔をくすぐった。
……このままじゃ、完全に変質者ね……。鏡に映った自分の姿を見て、ひみこは、おかめに対抗して、ひょっとこのように唇を尖らせてみながら、長い髪を肩側にふわりと掻き上げて思った。
あ、そうだそうだ!そういえば、あれがあったじゃない…。ひみこはパソコンデスクに付いた小さな引き出しを開け、視聴者プレゼント用の、
ひみつのひみこちゃんシールを取り出していた。
ひみこは、その中から、ひみこ自身の顔が印刷された丸いシールを、上側の二つのひみつのひみこちゃんに、
縦向きに『ひみこ大好き♡』と印刷されたシールを、下側のひみつのひみこちゃんにそれぞれペトッと貼り付けると、
ジャジャーン!と腕を、前へならえの先頭の人のポーズにしたまま脚を開き、
全身鏡の前で
「みんなぁ?こん、ばん、わ~!ひみつのひみこの、え~っと、にっぽん、いっぽん、すっぽんぽん、にっぷる、にっぽん、しょっきんぐ?略して、ひみこの日本書記~?」と言って、ウィンクしながら、唇の端に舌をペロっと出して、ピースサインを片目に被せてみせた。
……ぺろん、と身体に貼られたシールが、下に向かって半分捲れ落ち、ひみこは最後にしたポーズのまま固まって、
思わず脳内でカメラのシャッターを連写すると、かあぁぁぁっと一気に赤面していた。
……完全に迷走しているわ……。ひみこは、ギュッと身体のシールを強く押し付けて貼り直すと、ゲーミングチェアに座り、パソコンに向かった。
おもむろに、カタカタカタカタカタカタカタカタ、と『天埜衣巫 素顔』と検索する。
あの子、学業優先とか言って、ちっともアイドル活動していないみたいだけど、
なんもしないで、トレンド入り出来るのって……ズルくない??
だいたい……ほんとにあんた可愛いの?ネット上に、あんたの素顔どっかに出てないの?
私の素顔、見てごらんなさい!ひみこは頭に被った白いハンカチをふわさっと外すと、長い髪をわさわさっと左右に散らして、シャンプーのコマーシャルのように目を閉じて、一人スローモーションをした。
……まあ、ひみつのひみこちゃんの方は、まあ、あれだけど……なによ!天埜衣巫だって大したことないんでしょ??
……だ、だれよ?小学生と競ってる、とか言ったやつは?……許さないわよ……ぐすん。
う~ん、それらしき画像はどこにも出てないわね……て、言うかお面被った公式画像すらないじゃない。全部非公式の画像ばかりね。それも、1、2、……たった3枚だけ?え?こ、この情報化社会で、たった3枚だけ??ヤバくない?
……でも、この盗み撮り風写真、怪しいわね?
社長がばらまいた可能性大ね……。どう考えても可愛く撮れ過ぎてるわ…。
ファーストライブがすでに伝説化しているし……。100人のパンドリータ達は、『使徒』と名乗って、誰に強要されたわけでもなく布教活動を行っている……。もう違法ファンも含めて、いまや何倍のファン数よ?
う~ん、天埜衣巫に人気が集中し過ぎて、パンプロ内の他のアイドルにも、悪い影響が出ちゃってるじゃない。プロダクションの稼ぎ頭を潰してどうすんのよ?
……それとも、あの社長のことだから、何か企んでいることがあるのかしら。
あ”ーー、モヤモヤする!
だいたいお面を付けているってことは、イヴの顔になんか欠点があるからってことでしょ?うん、そうに違いない!
よぉ~し、今度会ったら、化けの皮をひんむいてやるわ!それで、どっちが美少女かってことをハッキリさせてやるの。
ふ、ふ、ふ、ふ。首を洗って待っていなさいよ……天埜衣巫……、次に会う時が楽しみだわ……。興奮したせいで、じんわりとかいてきた汗により、身体に貼ったシールを再び捲れさせながら、
ひみこはディスプレイのライトに照らされた顔をにやりと歪ませていた。
……今度、強粘着シールも作ってもらおうかしら…………て、あなた、なに考えてるの??こ、こ、この格好で配信なんかしないからね?!もう、勘違いしないでよね??ほんと、これだから男の人って………まったくいやらしいんだから……、へんたい!!
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5年生の教室で、斉藤水穂 と井上咲愛が向かい合ってお喋りをしていた。
「パンプロの新しい子、知ってる?」「ああ、知ってる。天埜衣巫でしょ?なんか、謎のアイドルってやつでしょ?」
近くの席に座る赤城衣埜莉の耳がぴくりと動く。
まずいわ…よく考えたら、名前のうち、2文字も一緒というのは被り過ぎだったかしら。バレたら、それこそ契約違反ね。絶対に勘づかれないようにしなきゃ……。
「水穂ちゃんはどう思う?天埜衣巫のこと。」咲愛がカールした髪の毛先をぽんぽんと弾きながら言う。
「う~ん、まだわかんないかなあ…。わたし、どっちかって言うと、如月ひみこちゃんの方が好き。」「あー、わかる!ひみこちゃん可愛いし、面白いよね?年もわたしたちと同じか、ちょっと下くらいだし?あの子、可愛いよね。」
先輩……こんな身近にもファンがいましたよ。……少しディスられていましたが、まあ、可愛いという評価なので、概ねよいのでは。
「でもさ、」水穂が耳の上のリボンを触りながらこそっと言う。「わたしたちには、衣埜莉ちゃんがいるじゃない?」
「そうだよね、 マジでパンプロのアイドルより、衣埜莉ちゃんの方が可愛くない?」「そう考えるとヤバいよね。衣埜莉ちゃんがアイドルやった方が良くない?」「マジでそれ。ホントにやんないのかな?」「聞いてみる?」「聞いてみよっか。」
……こそこそ喋っているようだけど、地獄耳のわたしには全部聞こえていたわ。……ありがとう。でも、まあ、当然の意見でしたけどね。
「「衣埜莉ちゃん」」水穂と咲愛が同時に声をかける。
「なあに?」「あのさー、ちょっと聞いていい?」「うーん、咲愛ちゃん、水穂ちゃん、次、漢字のテストだよね?ちゃんと準備してる?」と衣埜莉が氷のように言い放つと、
二人は「やばっ」と言って慌てて自分の席に戻っていった。
二人を見送った後、衣埜莉はポーチから素早くマスクを取り出し、耳にかける。最近わたし、学校でも御手洗いに行かないよう生活のリズムを改善しているけど……、
…ちらりと宍戸さやかの席を見る。さやか嬢には少し悪いことをしちゃったかも。日常生活で水分を控えている身としては、
授業中に水筒が飲みたくなったあなたの気持ち……、今ならよくわかるわ。
まあ、ジュースを飲むというのはいただけないけどね。
一瞬、ファーストライブでの天埜衣巫の身に起こったことがフラッシュバックし、
衣埜莉はマスクの中で、気付かれないように、ゴクリと唾を飲み込んだ。
……いけない。いけない。こういうのは、気にすると余計ダメだと思うから……。平常心、平常心。まだ、一度も中にしたことはないけど、いざとなったら、このマスクもあるわけだし。大丈夫、大丈夫。
衣埜莉は背すじをピンと伸ばし、髪の後ろにあるリボンもまったく傾きのないように、首を真っ直ぐに保ちながら前を向くと、頭の中で漢字の復習を始めていた。
次回、『橘家の令嬢』




