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井101 爆誕!冬の新作コーデ


水槽でゴキブリ達が(うごめ)く音を聞きながら、早見恋歌(はやみ れんか)は、じっと考えていた。


闇の煉獄ちゃんの黒魔術コーデ。……もう一度思い出すんだ……私の本当の力を……。


恋歌は部屋いっぱいに敷いた、模造紙の上に四つん這いになり、油性ペンで巨大な魔法陣を描いていた。


途中、首に巻いたチョーカーの下が痒くなり、苛ついた恋歌は、一度部屋を出ていくと、巨大な達切(たちきり)バサミを持って戻ってきて、


《ジョキン》


と、鍵のついたチョーカーを首から切り落とした。

その拍子に、皮膚に刃の先が触れて、つーーーっと血が垂れる。


血を指先につけた恋歌は、それを使って魔法陣の続きを描き始めた。六芒星。惑星記号。分解した三角形。ヘブライ文字……。


……身体の下の痒みと共に、どんどんと苛立ちが増してきた恋歌は、ついにパジャマの下を脱ぎ捨て、

唐突に指を、自らの闇の口に突き刺し、獣のような唸り声と共に、黄色い色の細長い生物を、爪を食い込ませながら引き摺り出していた。


そして、それを魔法陣の隅にべちっと投げつけると、涙を流しながら、クックック……と笑う。

唇の端からは、涎が糸を引いて流れ落ち、

恋歌は再びそれを使って、魔法陣の続きを描き始めた。


闇の煉獄ちゃんを舐めるな……。


そして、恋歌はもどかそうに身体をよじりながら、パジャマを全て()ぎ取り、その他の物も全部脱ぎ捨てると、闇に浮かんだ肌色の姿を、完成した魔法陣の中央に横たえた。

そのまま恋歌は片手を天井に向かって高く(かか)げ、蓋を開けたファブリセッシュを逆さまにすると、

……原液のままにそれを身体中にぶち撒けた。


冷たい感触に、反射的に体がビクッと逃げるが、恋歌は残りの液体を、ボトルの口を直接身体に(こす)りつけるようにして、塗りつけていった。


やがて全部を出しきると、恋歌は、ぬるつく溶液を、膨らんだ胸、お腹、太ももへと満遍なく伸ばしていき、そして最後に、下にある闇の二つの口(▪▪▪▪▪▪)に直接塗り込んだ。

……刺激痛に驚き、恋歌は濡れたお腹を突っ張るようにして反らせ、魔法陣を描いた模造紙をぐちゃぐちゃにしながら暴れる。


夜は更けていき………、


しばらく意識を失っていた早見恋歌(はやみ れんか)は、

肌色の身体を立ち上げ、……学習机に置かれたスマホで時間を確認した。


3時……。

闇の脂蟲(ダークローチ)達が活発に動き出す時間。

……闇の煉獄ちゃんも、今からが活動の本番よ……。濃い眉毛とうなじの早見恋歌は、もう一つの濃いエリアを白い身体の中心に浮かび上がらせながら、

届いていた振琴深海(ふること ふみ)からのluinを(ひら)いた。


そこには事細かに、日中に起こったミコ☆ポチでの出来事が記されていた。


えせバンパイア、頑張ってくれたのね……。


て、言うかカルキ様…、



まだ生えてないの(▪▪▪▪▪▪▪▪)


まじ?


プッ…アッハッハッ…………。


早見恋歌は涙が出るまで笑い、ヒー、ヒー、と苦しそうに息を吸い、背中を丸めて呼吸を整えようとして、机に手を付いた。


それに、カルキ様ったら、いつもフワフワの服着てるから気付かなかったけど、水着(みずぎ)着たら、相当なpay-chat-π☆だったらしいじゃない。あらあら、随分と大人っぽいお顔して……きゃぁわいい♡

………てか、マジでふざけるな……。


私に偉そうな口をききやがって……。


闇の煉獄ちゃんの恐ろしさ……今度こそ思いしらせてやるわ……。

さすがにえんぴつは卒業したかもしんないけど……、まだ、シャーペン臭いガキじゃない……。私が大人のマン年筆を見せてあげようかしら?カルキちゃん?それとも、んゃちきルカ(▪▪▪▪▪▪)と呼ぼうかしら?


さてと……Naked Kingコーデね……。えせバンパイアも、なかなか面白いこと考えるじゃない……。


「あ、」


思わず声を上げた恋歌は、急いでパジャマを着込むと、部屋の窓を開け、

深夜の住宅街に降りしきる、白い雪を見上げた。

……雪は全ての汚れたものを、静謐なベールで覆い隠していく。恋歌は部屋を振り返り、水槽の中にいる、ヒーターで温められた子供達の姿を見て……、目を細めた。

「あら」今まさに大人になったばかりの脱皮を終えた白ゴキブリが、自分の皮を食べている姿が目に入る。

恋歌は再び夜空を見上げると、白い息を吐きながら、「…白の煉獄ちゃん」と呟き、ニッコリと笑い、そっと窓を閉めるのだった。


***************


……サリー・ホッパーの稽古の日。


久々に早見恋歌(はやみ れんか)は都内某スタジオに顔を出していた。

稽古の遅れから、演出家より緊急召集がかかり、今日は如月ひみこも夕方から来ると言われていた。


「あ、恋歌ちゃんお早うございます。」


真咲瑠香(まさき るか)がフワフワの白いスカートを揺らしながら駆け寄ってくる。


「あれえ?恋歌ちゃん?チョーカーはどうしたんですか?」


恋歌は、首すじにつけた絆創膏をさすりながら、「ああ、あれは切って捨てたわ。」と何でもなさそうに答えた。

「え?切って捨てたんですか……。そうですか。」チラッとこちらを見た瞳が(よど)む。

「なに、なんか文句ある?」と恋歌が言う。


「ちょっと……恋歌ちゃん?……あちらに行きませんか?」


「おはよー」と後ろから声がかかり、振琴深海(ふること ふみ)が、いつものバンパイアコーデで現れる。


「ちっ、邪魔が入ったか」と小声でカルキ様が(つぶや)く。


「瑠香ちゃん?」「ん、恋歌ちゃん、なあに?」「あなた、ミコ☆ポチの撮影したんですって?」

「え、ええ……。」と言って瑠香は、深海(ふみ)の顔を伺った。


「ねえ、瑠香ちゃん、私ね、久々にミコ☆ポチのお仕事入ったのよ。」「そ、そうなんですか?」「でね?私、あなたの赤ちゃんを堕ろしたわ。」「……は?」「ねえ、カルキ様?あっち言ってお話しません?」


「ちょっと待って。」と言って、瑠香は再び深海(ふみ)の顔を見た。


「なに?アタイに何か用?アタイは早く稽古場に入りたいから、……勝手にアンタ達2人でしけこみなさいよ。……全く。アンタ達、やる気あんの?

サリーの公演は4月16日よ?わかってる?遊んでる暇なんかないのよ?」


振琴さん(マリー)、ごめんなさい。」と恋歌(ラペル)は言った。「これが終わったら舞台に集中するから。」

「今日は、ひみこ姐さん(サリー・ホッパー)も来るんだからね。しっかりしてよ?…………あ、闇の煉獄ちゃん?ミコ☆ポチ復帰おめでとう。楽しみにしてるわ。」


「ありがとう。心配かけたわね。全部終わったらポテトおごるわ。」

「ちょっとあなた達?!なんか、いい感じにまとめてるけど、私を無視しないでよね?」

「 虫だけに?」と深海(ふみ)がすかさず口を挟むと、「あなた、永遠に如月ひみこにはなれないわね……。」と、半分瑠香のカルキ様が言った。


****************


「で?………どういうつもりなの?」と、休憩室に移動した真咲瑠香(まさき るか)はカルキ様に変化しながら、恋歌(れんか)を睨みつけた。だが恋歌は涼しい顔をしてカルキ様を見つめ返した。


「あなた……、私の命令に逆らって、どうなるかわかっているの?」「すみません、カルキ様。」

「前に私、言ったわよね?次はあなたに直接、産卵するって……。」「はい。」「覚悟はいい?」「はい。」「そう?じゃ、一緒に来なさい。」カルキ様は、恋歌の腕を掴むと、休憩室に備え付けられている、簡単な洗面所とユニットバスの方へ引っ張っていった。


「ときにカルキ様?」早見恋歌が何でもなさそうに声をかけてくる。


「なによ、闇の煉獄?」カルキ様はスカートからベルトを引き抜き、恋歌の首に巻き付けようとしながら言う。

「先に、妊娠チェックをしてくださいませんか?」「ん?」「ほら、前にチェックしてくださるって言ってませんでした?」「え?あ、そうね、念のため見ておきましょうか。」

妙に協力的な恋歌の態度に、若干首を(かし)げながら、「じゃ、ほら脱ぎなさい。」とカルキ様は言った。


「はい。」と言って、恋歌はまずはセーターから脱ぎ始めた。

……下だけでいいんだけど……とカルキ様は思ったが、敢えて黙っていた。


恋歌は下に着ていた『ミコ☆ポチ』と印刷された黒いTシャツを捲り上げ、無造作に脱ぎ捨てる。


…………。


………。


………早見恋歌は、それなりに、大人なぶらんど(▪▪▪▪)を身に付けていた……。


カルキ様は「………。」とそれを見つめ、「は、早くしなさい。」と怒ったように言った。


「はい。」と恋歌は言い、次に流行りのダボッとしたグレーのスエットパンツを下ろし、

ワインレッドに近い黒の、レース付きの三角巾姿になる。


「………。あなた、それ、ちゃんと洗わないで履いてる?」


「すみません。洗ってます。」「な!?」カルキ様は思わず手を振り上げ、恋歌の頬を叩こうとしたが、彼女が上半身の大人ぶらんどに手を掛けたのを見て、動作を途中でやめた。


恋歌は、背中のホックを外し……それなりに膨らんだものをporonと出し、それなりに大きな魔法陣を描いた二つの闇の煉獄を、数珠(じゅず)式展開させた。


お、おう………。エロイム……エッサイム……。

カルキ様は目を逸らして「は、早くなさい。」と早口で言った。


「はい。」と恋歌は言い、躊躇する様子もなく、三角巾を太ももから、ふくらはぎ、そして足首へと下ろしていった。


「ちょ、あ、」とカルキ様は何かを言いかけて、すぐに口をつむった。


カルキ様の目の前には、少女の白く柔らかい身体を侵食する、原初の獣の印が顕現しており、

そのうねるような剛毛の鈍い輝きが、仄暗いユニットバスの部屋の中においても、怪しげな光を放っていた。


「さ、カルキ様?どうぞ。そちらもお脱ぎください?……あなたのかわいい赤ちゃん(▪▪▪▪▪▪▪▪)を見せてくれるんですよね?それともキレイなつるんつるんのタマゴでしょうか?どうぞ、どうぞ、私の貧相な顔の前で、遠慮なく(ひら)いてみせてください?」


「え?あ、そうね?いや、ちょっと待って。えーと、その……、ワタシ、気が変わったわ。そう!今日はあんまり、お日柄が良くなかったというか……、と、とにかく、もういいわ!また今度にしましょ。ほら、バイオリズムとかあるじゃない?あれよ、月蝕の時を選ぶとか。あーー、ヤダヤダ……。ロマンがないわねえ、この子は……オホホホホホ………。」



………か、勝ったわ………。カルキ様を退(しりぞ)けたわ………。お尻だけに。(byひみこ)


脱皮した白の煉獄ちゃんは、

しっぽを巻いて逃げていく真咲瑠香(まさき るか)の背中を見送り、勝ち誇ったように、闇の衣をバサッと身に纏い直した。

その胸にはラメ入りのミコ☆ポチの文字が輝き、闇の煉獄は満足そうに微笑んでいるのだった。


**************


ミコ☆ポチ新春お正月特大号


年末に発売された、その雑誌は、闇の煉獄ちゃん復活のニュースと共に瞬く間に町の書店から売り切れていった。付録はキュートなゴキブリッ子ちゃんポシェット。


グラビアページには、闇の煉獄ちゃんの新作コーデ、『Naked Kingコーデ』が紹介されていた。


頭に燦然と輝くカチューシャ型の王冠。そして、その誇らしげな(かんばせ)の下には、首までをゴムで絞った円錐形のバスタオルが被さっていて、

肩から腕、そして身体全体、下は足首ぎりぎりまでを隠していた。


見開きには『冬でも楽しめる都内室内プール10選』の記事があり、大手企業コラボと、来年の夏に向けての水着撮影スポットのコネ作り、老舗バスタオルメーカーの紹介、と隙のない闇の煉獄ワールドを展開していた。


王の帰還。


振琴深海(ふること ふみ)は、自室でミコ☆ポチのページを捲りながら、

……ネタの提供料として、今度はポテトにナゲットも付けてもらおうかしらね…、と考えているのだった……。

次回、『舞踏会』

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