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決意と目覚め

私は目を開けた。

真っ白で何も無い場所。

ここが現実な訳無いか。

アルフィオナが居た場所と違い、明るい場所。

私は寝転がっていた上半身を起こした。

立ち上がって見たものは、ありえないものだった。

私がもう一人、目の前に居たからだ。

『まだ現実に期待しているの?』

私の声は低く、冷たかった。

「そうだよ。私は現実に帰りたい。皆が心配しているから」

『戻れば、虫ケラ扱いされるだけだよ。暇な生徒のオモチャにされるのよ?』

確かに、戻ればそうなるかもしれない。

でも…

『ティア』

『アリス』

『アリスティア』

聞こえて来た皆の言葉は、嘘に聞こえなかった。

皆が私を呼ぶ声には、本物の不安が隠れていた。

きっと、仕方無くなんかじゃない。

皆はちゃんと心配している。

『どうして現実に帰ろうなんて愚かな事を考えるよ。あの世界にずっと留まっておけばよかったのに。勿体ない』

目の前の私はきっと、まだ皆を信用してなかった私だ。

「愚かな事…?現実に帰ろうとするよりも、あの世界に逃げて人と向き合わない方がよっぽど愚かな事だよ」

『……』

目の前の私は黙ってしまった。

「人と向き合わないから、愛されていないなんて勘違いをしたんでしょ?何で皆が全部悪いと思ったのよ!皆と向き合わなかった私が一番悪いのよ!傷つけられた名誉も挽回しようとしないで諦めたのがいけないのよ」

目の前の私は、今にも泣きそうな顔をしながら震えていた。

そして、瞳から大粒の涙を流した。

『じゃあどうすれば良かったのよ!あんな事されて人を簡単に信じられると思う?人と向き合えると思う?人と向き合おうなんて思える?思えないでしょ!』

これが私の本心なんだ。

私は私が思っていた以上に追い詰められていたんだ。

『あんたなんて誰からも愛されない。帰ったって意味なんて無い!』

「あるよ」

私は私に近づいた。

『こっちに来ないで!』

私はその言葉を無視した。

そして、私は私を抱きしめた。

「怖かったんだよね。人に嫌われるのが。貶められるのが。疎まれるのが」

『あんたに何が分かるの?』

「分かるよ。貴方は私だもん。私は怖かったよ。きっと、貴方と同じ様に」

『……』

この子を生み出したのは、私。

私が皆を恨まなければ、この子は生まれなかった。

「ごめんね。もう一度やり直そう。今度こそ、皆と一緒に話し合おう。向き合おうよ。私を信じてくれる人と。帰ろう、アリスティア。帰って幸せになろう」

『な…なれるかなぁ…』

「なれるよ。きっと」

私に足りなかったのは勇気だ。

怖いから、人と向き合うこともしなかった。

でも、もう大丈夫。

次こそ…

今度こそ上手くやる。

向き合うよ。

だから…

ありがとう、アルフィオナ。

ありがとう、レリア。

ありがとう、皆。

もう大丈夫だよ。


❅ ❅ ❅


私達、魔法学園の生徒はただ呆然と立ち尽くしていた。

いきなりアリスからの攻撃が止んだからだ。

空に居るアリスの体が傾き、アリスが落ちて来た。

「アリス!」

私は支えに行こうとした。

「アリス!」

レイチェルが、アリスを抱き止めた。

レイチェルに横抱きにされながら眠るアリスの頬には、涙の跡があった。

「レイチェル。アリスは…?」

「ユリア。無事だよ。今は眠っているみたいだ」

『良かった。無事に戻ってこられたんだね』

目の前に現れたのは、レリアさんだった。

『無事に、自分と向き合えたのね』

「向き合えたとは…?」

エリックが聞いた事は、私も気になっていた。

『あの世界から出るのに必要な条件は、四つあるの。一つ、現実世界の記憶を取り戻す。二つ、アルフィオナに現実に返してとお願いする。三つ、自分と向き合う。四つ、心の闇を振り払う。この条件が満たされれば、あの世界から出る事が可能になる。アリスティアは無事にそれを達成した。だから、貴方達への攻撃も止み、眠っている。でも、アリスティアがいつ目覚めるかは分からない。心の闇に飲み込まれて現実に戻ってきた人達の中に、すぐに目を覚ました人は居ない。稀に、ずっと目覚めない人も居る。この子がいつ目覚めるかは私には分からないけど、いい夢を見てると良いな』

そう言って、レリアさんはアリスの頭をそっと撫でた。

アリスはいつ目覚めるか分からないんだ…

私はアリスを見た。

「あれ?」

「どうした?」

レイチェルがこちらを見て聞いて来た。

「な…何でも無い」

今、アリスが少し微笑んだ気がする。

『アリスティアはどうするの?こんな荒地に寝転ばせるのはちょっと…』

確かにそれは可哀想だ。

「ユリア!」

私の元に走ってきたのは、私の婚約者であるジョン様だった。

私の近くに来るなり、私を抱き寄せた。

「何してるんだ!」

「ジョン様?何がですか?」

「何故アリスティア譲と関わっている!」

「何故って…アリスの友達だもん。関わっちゃだめな理由なんて無いでしょ?」

ジョン様が何故アリスをそこまで敵視しているか分からない。

「アリスティア嬢はお前を突き飛ばしたんだぞ⁉」

「だから何よ。あれは私が悪いじゃない」

「違う!アリスティアはお前を殺そうとした!」

ジョン様がおかしい。

「憎い。俺の婚約者を殺そうとしたアリスティアが。そうだ、アリスティアを殺そう」

あ、これ本気のやつだ。

「はぁ」

レイチェルは大きくため息をついた。

「ゼノン」

「精霊王使いが荒いな」

ゼノン様がジョン様に手を向けた。

何が起きたのか分からないが、ジョン様は倒れた。

「何が…」

「睡眠魔法をかけた」

「ジョン様の行動は、セリーネ様のせいじゃないの?」

「違う。こやつは、自分の意志で動いてる」

そんな…

これは……

婚約破棄するしか無い。

「他の人達は魔力の質的に、セリーネ様だろうな」

セリーネ様…

陛下に報告すれば爵位を取り上げられそうな事ばかりしているから、そろそろ足をすくわれそう。

レイチェルはいつでも行動を起こせる筈だ。

でも、レイチェルはアリスが起きてから行動をするのだろう。

レイチェルはさっきからずっと、怒りのこもった表情をしていた。


気持ち良さそうに眠るアリスは、ローズ領の自室に送られた。

学園は、一年間の停学となった。

レイチェルはアリスが攻撃されていたことだけを陛下に報告し、学園の復旧と生徒の反省の為に、全学年の生徒の停学を促した。

あれから半年たったが、アリスは目覚めない。

私とエリックとレイチェルはローズ領に滞在させてもらっている。

アリスは眠っている為、食事などはいらない。

たまに日光浴の為に、車椅子にアリスを座らせて外に出ている。

アリスは孤児院の人達とも関係が深かった様で、アリスを連れて行ったら、泣きながらアリスに話しかける子が多かった。

アリスに意識があるかは分からないが、早く戻って来て欲しい。

ちゃんと話し合いたい。

「ユリア」

レイチェルが部屋に入って来た。

「そろそろ散歩に行こう」

「そうだね。エリックは?」

「疲れ果てて寝てる」

「やっと寝たんだ」

エリックはここ最近ずっと心の闇について調べていた。

寝る間も惜しんでずっと本を読んでいた。

レイチェルが車椅子にアリスを座らせていた。

「手伝おうか?」

「大丈夫だ。行くぞ」


「花冠できた」

「何してんだよ」

「アリスにあげようと思って」

私は作った花冠をアリスの頭に乗せた。

アリスは相変わらず、ずっと眠っているが、穏やかな顔をしていた。

「今日はあの丘に行こう」

「あそこ懐かしいね。初めてレイチェルと遊んだ丘だね」

アリス…

『レイ!ユリア!こっちこっち!見て!花冠!初めて作った!ユリアにあげる!レイにも作ったよ!ほら!』

また、ああやって過ごしたい。

また、アリスの笑顔が見たいよ。

丘についた私達は、地面にシートを敷き、アリスを座らせた。

アリスは、丘にある一本の木にもたれかかった状態で座っている。

アリス。

私達は、アリスに伝えたい事や言いたい事が沢山ある。

ごめんなさいとか、


❅ ❅ ❅


温かくて、暗い…

ここはどこだろう。

現実では無い筈。

まだ帰れてないんだ。

皆心配してるだろうな。

『アリス』

ユリア…?

『アリスティア』

レイ…?

皆が待ってる。

帰らないと。

私は暗闇の中で立ち上がった。

そして、辺りを見渡して小さな光を見つけた。

私は光に近づき、触れた。

そして、私の視界には緑色の景色が広がった。

やっと色が見えた。

灰色だった世界が色づいた。

帰ろう。

現実に。

もう、逃げたりしないから。

もう、諦めたりしないから。

もう、大丈夫。

皆の所へ帰ろう。


「幽霊……少女……」

「アリス!」

「目が覚めたのか⁉」

二人が私の顔を覗き込んでいた。

帰ってこれたんだ。

二人共心配してくれたんだ…

そう思うと、嬉しくて涙がこぼれた。

「二人共…心配かけて…ごめんね…もう…大丈夫だよ…」

私は出来る限り笑顔を作った。

「ア…アリスゥ!」

ユリアが泣きながら私に抱きついて来た。

「ごめんね!親友だと思わなければ良かったなんて言って!」

「私もごめんね。酷いこと言って」

私達はやっと仲直りをした。

「本当に目が覚めて良かった」

「ねぇ、レイ。私ってどれくらい眠ってたの?」

学園がどうなったかも、私が何日眠っていたかも分からない。

「半年だ」

「えぇ⁉嘘⁉」

半年?

そんなに寝てたの?

「学園は?」

「全学年停学だ」

「マジかぁ…」

『おはよう。アリスティア』

私の耳に入ってきた声は、聞き慣れた声だ。

あの世界で聞いた声。

「レリア!何でここに⁉」

『アルフィオナに頼んでここに飛ばしてもらっているの』

アルフィオナはそんな事も出来るのか…

『ねぇ、アリスティア。貴方が去り際に言っていた言葉は何?』

「あー。あれね。取りあえず、セリューム王国に行こう」

残り一エピソードで完結……!

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