繋がる思い
残り二エピソードで完結です!
「起きて。ねぇってば」
「うぅん…ここは…私…」
目を開けた私の目に飛び込んだのは、見た事が無い物体だった。
長細い四角形の物体が光ってる。
シャンデリアじゃないあれは、何なんだろう。
そんなことより、私何でこんな所に居るんだっけ?
思い出せない。
「やっと起きた」
私の前には、黒髪黒目の綺麗な女性が居た。
その人が着てる服は、見た事が無い。
ドレスでも制服でもない、見た事が無い服だった。
下半身は、布を折って戻らないように加工した様な服。
上半身は、扇形を肩に乗せて、その下にリボンを付けている様な感じの服だ。
「全然起きないからビビったよ」
何故だろう。
この人の発している言葉は聞いた事が無い筈なのに、何を言っているか分かる。
「私はレリア」
「アリスティアです…」
レリア…
聞いた事がある。
何でだろう。
「アリスティアね。よろしく」
『アリス』
『ティア』
『アリスティア』
誰だろう。
思い出せない。
私の事をアリスと呼ぶ貴方は誰?
私の事をティアと呼ぶ貴方は誰?
私の事をアリスティアと呼ぶ貴方は誰?
笑顔でこっちに手を振る貴方達は誰?
「アリスティア。その服だとちょっと問題があるから、この服に着替えて」
今着ている服に問題は無いと思うけど…
魔法学園の制服で、露出も少ないし。
あれ?
魔法学園って何だっけ?
レリアは私に服を渡した。
レリアが着ているのと同じ服だ。
「着替えられたら呼んで。私はカーテンの向こう側に居るから」
「ま…待って!」
「ん?」
レリアは不思議そうに振り返った。
「こ…これ…着方が分からない…」
「じゃあ、一緒に着ようか」
レリアは曇り無き笑顔で言った。
それは、彼女の本物の笑顔なのか、作り笑顔なのかは分からない。
でも、久しぶりに向けられた優しい笑顔に、救われたような気がした。
「ねぇ、レリアってどう言う漢字を書くの?」
え?
私何を言ってるんだろう。
カンジって何?
そんな言葉は存在しないのに…
勝手に口が…
「貴方も、あの世界に帰りたく無いの?」
「ここは…」
「ここは心の闇に飲み込まれた人の自我が溜まる場所。元居た世界とは、全く違うよね。私も心の闇に飲み込まれて、ここに居る。貴方もそうでしょ?まぁ、聞いても分からないよね。ここに来た人達は、皆あの世界の事を忘れてしまう。ねぇ、アリスティア。貴方はまだ間に合うよ。元の世界に帰った方がいいよ。じゃないと誰かにー」
何だろう。
話を聞きたいのに、頭がボーッとして話が入って来ない。
アリスティア?
誰だっけそれ。
私かな…?
でも、私の名前は藤川アリスだよね?
間違ってないよね?
私の髪の毛は、金色から黒に変わった。
何で金髪だったんだっけ?
レリアは固まってしまった。
「この世界の事を完全に受け入れてしまったのね。髪色が黒色に変わるのはそういう意味があるのよ。まぁ、説明しても無意味か。貴方、名前は?」
「何言ってんの?私の事忘れたの?藤川アリスだよ」
さっきからレリアは何を言ってるんだろう。
私はアリスなのに。
「アリスティア…貴方はまだ間に合うわ。元の世界に帰りなさい。貴方はきっとまだ生きてる。あの世界で何が合ったのかは分からないけど、貴方は大切な記憶を失っている」
「…っ!」
頭が痛い。
大切な記憶…?
あの世界…?
私達の目の前に、金色の瞳の少女が現れた。
少女は私の頭に手を乗せた。
その瞬間、頭の痛みが無くなった。
「もぉ〜!レリア!邪魔ばっかしないでよ!ティアはこの世界で幸せになるんだから!」
「アルネーゼッ……!新たな犠牲者を出すつもり⁉もうやめなさいよ!アリスティアを現実に戻して!」
アリスティア…?
私ってそんな名前だっけ…?
今は何も考えたくない。
私は二人の会話を聞く事にした。
「前にも言ったでしょ?ここから出るには元の世界の記憶を取り戻して、ここから出たいと、現実に戻りたいと本人が思わないと無理だって。心の闇は、簡単に言ったら呪いだよ。呪いを簡単に解くことが出来る?無理でしょ?」
「貴方の所為でセリューム王国は滅んだのよ?」
「セリューム王国を滅ぼしたのは貴方じゃないレリア。貴方の罪を私に着せないで」
「確かにセリューム王国を滅ぼしたのは私よ…周りからの重圧に負けた私の責任よ。でも、心の闇に、貴方に囚われなければ、私も、魔法学園の生徒も、セリューム王国も、国民も、皆存在していた!」
「貴方が死んだのはクライブの所為でしょ?」
「違う!クライブは私を止める為に私を殺しただけ!」
「じゃあ何?皆が死んだのは全部私の所為だって言うの?」
「貴方の所為…でも、周りを憎んだ私の所為でもある」
「でしょう?私だけのせいじゃない。何はともあれ、邪魔はしないでね。この世界に来る事は、他の誰でもないティアが望んだ事。貴方だって願ったじゃない。幸せになりたいって。もういい?私も暇じゃないの。じゃあね」
「待って!」
少女はそう言って消えた。
去り際に私に笑いかけた顔は、とても寂しそうだった。
私はモヤモヤと頭痛が収まってスッキリした。
「レリア。授業行こう」
レリアは私の腕を掴んだ。
「アリスティア…もう…時間がない無いのよ…」
❅ ❅ ❅
「エリック!」
俺達は、アリスティアの攻撃を食らってしまったエリックを呼んでいた。
攻撃を食らった瞬間、エリックの意識は飛んだ。
エリックは浮遊魔法を使っていたから、少し高めの所から落下した。
治癒師がエリックに回復魔法をかけているが、傷が深すぎて中々塞がらない。
「ゼノンはまだか⁉」
「精霊王様は、他の方の治療に当たっています」
クソ。
エリックを助ける方法は無いのか…?
「わらわが手を貸してやっても良かろうぞ」
「貴方は…」
突然目の前に現れたのは女性だった。
喋り方も、現れ方もゼノンに似ている。
「わらわの名はレーナだ」
「うわっ!レーナ」
「何じゃ我が夫よ。居たのか」
「分かっておっただろう」
ん?
夫?
今この人夫って言った?
ゼノンがこの美人さんの夫?
「え…?えぇぇぇぇぇぇぇえ!」
思わず発狂してしまった。
「何じゃうるさいのぉ。それでも一国の王太子か?」
「言うたらあかんぞレーネ。こやつよりも常識がなっておらず、この学園の生徒を見捨てて逃げた王太子が居るのだからな」
辺りに居る者達全員が手を止めてゼノンを凝視した。
そして三泊空いてから
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
全員が怒りの声を上げた。
悲鳴を上げながらアリスティアの攻撃を防いでいた生徒も、教師も、アリスティアの家族も、メイドも、ユリアも、レーネ様も全員が声を上げた。
俺だけ無言で、ただ笑っている。
「貴様のその不敵な笑みは恐ろしいぞ」
俺の耳元でそう言うゼノンも、不敵な笑みを浮かべていた。
殿下とセレーネ様を信用してた人達は驚いただろうな。
「何考えてんのあの人!」
「居ないと思いましたわ!」
「待て、セレーネ嬢も居ないぞ!」
「嘘だろ⁉」
案の定、そんな声が蔓延っていた。
「殿下ぁぁぁぁぁぁ⁉」
「何だ皆知らなかったのか?」
「そういえばこの騒ぎが起きた数分しか立っておらんというのに、王宮に急いで向かう馬車を見かけたのう。中で二人の男女がイチャついておったが…まさかあれが王太子か?」
「殿下ぁぁぁぁぁ⁉」
あ、殿下。
ご愁傷様です。
生徒から溢れんばかりの殺気で、その場の空気は重くなった。
「殿下許さない」
「アリスティア嬢の噂は絶対嘘だろ」
「アリスティア様に謝罪しなくては」
「早く終わらせて謝罪しましょう」
皆がそう言って再びアリスティアとの戦闘を開始した。
これで殿下とセリーネ様の評判はかなり落ちた。
「ゼノン。ありがとう」
「良いってことよ。我も奴らに、あの王太子がどんだけ馬鹿なのか教えたかったしな」
ネタばらしをしよう。
まず、サリオン様とセリーネ様が騒ぎが始まってすぐにゼノンに従者の格好をして、サリオン様に『逃げてください』と言ってくれと頼んだ。
その後に『生徒達を置いて逃げれない』『また生徒を迎えに来る』と言った返事が帰って来れば、サリオン様は王太子としていい人材だと言える。
だが、本人が言った言葉はこれだ。
『早く俺をセリーネと一緒に王宮に帰らせろ。生徒なんてどうなっても知らん。俺の為に死ねるだけありがたく思え』と。
そんな奴に国を治める権利は無い。
ちなみに精霊に頼んで録音して置いてもらった。
後でこの国の陛下に見せる予定だ。
「早く…助けて…」
エリックが俺の足を掴んで、弱々しく言った。
俺はユリアと顔を見合わせた。
「あらエリック…生きてたの?」
「すまん。すっかり忘れてた」
俺達の辛辣な言葉にエリックは目を見開いている。
「回復魔法をかけようぞ。貴様はまだ生きれるぞ」
「まだ死んでないです…」
「回復魔法発動」
レーネ様が言うと、エリックの傷が光り輝いた。
「治ったぞ」
「ありがとうございます…」
「何じゃ。嬉しく無いのか?」
「あの台詞が無ければね!」
『ふふっ』
どこからか笑い声が聞こえた。
『面白い人達ね』
「レリア・ミールナード⁉」
あ、まずい。
呼び捨てにしてしまった。
『私の事を知っているのね。…あれが現実世界のアリスティアなのね』
この人はアリスティアを知っているのか?
『私はアリスティアのいる場所と行き来する事が出来るわ。私はアリスティアに死んで欲しくないし、あそこにずっと居て欲しくない。だから、私にアリスティアを現実世界に連れ戻す手伝いをさせて』
アリスティアの居る場所を行き来出来る?
「手伝ってくれるのか?」
エリックは不安そうに聞いた。
『えぇ。下手すれば、死人が出る。それだけじゃなく、国が滅びる可能性がある』
「国が滅びる⁉どういう事だ⁉」
アルネーゼが言っていた通りだな。
レリアさんは心の闇を知り過ぎてる。
やはり、セリューム王国を滅ぼしたのはレリアさんだ。
『そのまんまの意味よ。レオナルド王国の魔法学園の生徒が有能で良かった。一人も死人が出ていないのが幸いだわ。でも、時間の問題ね。あれでも、かなり無理をしている。まだ完全に自我が無くなっている訳ではない』
「お願い!アリスを助けて!」
ユリアがレリアさんに助けを求める。
『私はそのつもりだけど、アリスティアの気持ちが必要なの。アリスティア自身が帰りたいって思う事が、あの世界から連れ戻す鍵になる。今のアリスティアは、自暴自棄になってる。何があったのかは分からないけど、ここまで自暴自棄になる程苦しいことがあったって事でしょう?心当たりは?』
話を聞きながら戦っていた生徒達のほぼ全員が目を逸らした。
ほぼ全員がアリスティアを虐めていた証拠だ。
こんな中でアリスティアは過ごしていたのか…
俺はレリアさんに向き合って頼んだ。
「お願いしますレリアさん。アリスティアを助けたいんです。彼女を助けてください」
『分かってる。貴方達は外からアリスティアに気持ちを伝えて。後は私に任せて』
そう言って笑うレリアさんは寂しそうだった。
❅ ❅ ❅
「レリア〜!おまたせ!先生の話が長くってさ〜」
私は空き教室の扉を思い切り開けて叫んだ。
中ではレリアが窓から外を見ていた。
「急にこんな所呼び出してどうしたの?」
「この世界にはもうすっかり馴染んだのね」
また訳の分からないことを言ってる。
からかっているのかな。
「ねぇ、アリス。耳を澄まして」
「え?何で?」
「良いから」
私は不思議に思いながら耳を澄ました。
どうしたんだろう。
何も聞こえな…
『目を覚ませ!アリスティア!』
「っ…!」
誰の声…?
アリスティア…?
誰?
アリスティアって誰…?
貴方は誰…?
分からない。
頭が痛い。
苦しい。
苦しい。
「レ…リア…?」
「聞こえた?アリスティア。思い出して…ここではない世界の記憶を。貴方が居るべき世界はここじゃない。貴方には帰るべき場所がある。貴方の帰りを待ってくれている人達が居る。現実の世界で何があったかは分からないけど、貴方の事を心配してくれる人は絶対に居る。少なくとも貴方を貶めたいと思う人達だけでは無い筈よ。貴方は絶対に愛されている。愛してくれている人はちゃんと居る」
それを聞いて、私の中で溢れたのは、苦しい記憶ばかりだった。
誰もがノリノリで私を攻撃してくる。
私を貶めようとする人達。
笑いながら私を攻撃する人達。
それを見て笑う人達。
憐れむくせに、何もしてくれない人達。
好き勝手に、ありもしない噂を流す人達。
違うと言っているのに信じてくれない人達。
それらを見て見ぬ振りをする大人達。
「そ…んな…そんな人一人も居なかった!私を愛してくれた人なんて…助けようとしてくれた人なんて居なかった!今、現実で何が起きているかは分からない。だけど、あの人達は仕方無く私を現実に戻そうとしているって。またオモチャの様に…虫けらの様に扱う為に!現実に戻ったって、また皆のオモチャにされる。そんな事分かってる!結局私は誰からも愛されない!誰からも必要とされない!誰からも信用されない!もう、あの世界には戻りたくない!」
息苦しかった。
悲しかった。
虚しかった。
辛かった。
誰かに愛されたかった。
信じてもらいたかった。
手を差し伸べて欲しかった。
助けて欲しかった。
でも、私の願いは叶うことなんて無かった。
そんな現実に、何を期待するの?
「アリスティア…お願い。もう一度耳を澄まして。きっと貴方が本当に欲しかったものが貰えるから」
「……」
私はもう一度耳を澄ました。
やる意味なんて無いと思った。
でも、それが本当に貰えるのなら、どれだけ幸せなのだろうか。
もうどうでもいい。
『ティア!』
「…っ⁉」
『ティア!あんな誤解を生むような言い方して悪かった!お前を疑っていた訳では無い!兄様はお前と話がしたい!帰って来てくれ!』
『ごめんなさいアリス!貴方の苦しみに気づいてあげられなくて!貴方とちゃんと向き合おうとしなかったお母様を許して!』
『王家なんて信用するものか!私達の大切な娘をこんな姿にして!無理に婚約を継続しろとは言わん!戻って来てくれ!』
『お嬢様!私はお嬢様以外に仕えるつもりはありません!心の闇に負けないで、戻ってきてください!』
『アリス!ごめんね!私はアリスと昔みたいに仲良くしたかっただけなの!あんな事…「親友だと思わなければ良かった」なんて言いたかった訳じゃない!すれ違ったままお別れだなんて絶対に嫌!』
『アリスティア!俺はお前を疑っている訳では無い!絶対に守ってやると約束する!戻って来い!』
『アリスティア!お前は何も悪くない!だから帰って来い!お前に味方はちゃんと居る!居場所はある!俺達を信じてくれ!』
お兄様、お母様、お父様、メアリー、ユリア、エリック、レイ…
私の瞳から、大粒の涙が流れた。
ごめんなさい…
ごめんなさい…
自暴自棄になって、愛してくれている人達の事を忘れてしまってごめんなさい…
「聞こえた?彼らはアリスティアの事を、心から心配している。戻ってあげて。そして、誤解を解いて幸せになって。貴方が求める幸せは、ここに居て得る幸せじゃない。現実の世界で、皆と過ごして得る幸せだよ。さぁ、行って。アルネーゼと話して」
レリアは私を突き飛ばした。
私は帰りたい。
帰らないと。
私を待っていてくれる人達の元へ!
私は何かに思い切りぶつかった衝撃で目を覚ました。
「つっう…」
背中が痛い。
ここは初めてアルネーゼと話した場所か。
私は体を起こして立ち上がった。
「アルネーゼ…」
目の前には、悲しそうな顔をしているアルネーゼが居た。
「私を現実の世界に返して」
「っ…!」
「待って!」
アルネーゼは走って逃げ出した。
私も追いかけるが、全く追いつく気配が無い。
「アル!待って!アル!」
名前を呼んでも、振り返りも止まりもしない。
ふと私の中にとある名前が浮かんだ。
「アル!アルフィオナ!」
その名前を言った時、アルネーゼはやっと立ち止まった。
「な…何で…その名前を…」
「貴方の名前でしょう?貴方は200年前に現れれた、二属性持ちの人間」
「……」
彼女の顔には見覚えがあった。
彼女は200年前に書かれた本に似顔絵が書かれていた。
本に彼女の名前はアルネーゼではなく、アルフィオナと書かれていた。
私はアルフィオナに近づいた。
「ごめんね。アルフィオナ」
私はアルフィオナを抱きしめた。
「貴方の過去を見るね」
「……」
「記憶の精霊よ」
❅ ❅ ❅
私はとある国の男爵令嬢だった。
私には賢い父、厳しいけど優しい母、五歳離れた可愛い妹が居た。
妹の名前はアルネーぜ。
属性、精霊契約確認の日から私の人生は大きく変わった。
「フィオナ、アル。今日は契約精霊と属性を調べに行くわよ」
「二人はどんな精霊と契約しているのかな?」
「私は伝説の精霊と契約してるの!」
「アルも!」
「おぉ!それはでこそ俺の娘達だ!」
「ふふっ。楽しみね」
私達は幸せだった。
皆笑顔で楽しかった。
「アルフィオナ・カーナ嬢の属性は風と炎です」
「二属性だと⁉」
「やったじゃないフィオナ!」
「うん!」
両親は大喜びした。
「アルネーゼ嬢の属性は光です」
「希少属性だなんて!」
「二人共!俺はお前達を誇りに思うぞ!」
アルネーゼも希少属性で、私達はもっと笑顔になった。
そこからが悪夢の始まりだった。
私達は王宮に呼ばれた。
「アルフィオナ嬢には私の息子、第一王子と結婚してもらう」
「え…?」
第一王子って確か50代を超えている筈じゃ…
女遊びが激しいと噂のあの人と結婚なんて嫌!
「陛下!無理強いはお辞めください!」
「貴様は何様のつもりだ?立場を弁えろ」
お父様と陛下が言い合いをしている。
お母様とアルネーゼは怯えている。
「そうだ。貴様の嫁を私の20人目の側妃にしてやろう」
「ひぃ!」
お母様は怯えた声を上げた。
私は何も出来ないのかな。
「アルネーゼ嬢はルーナ王国に嫁げ」
「陛下!」
「うるさい!私の命令が聞けないと言うのか⁉衛兵!」
部屋に沢山の騎士が入って来た。
「そやつを捕らえよ!」
「お父様!」
「お父さん!」
「貴方!」
お父さんは残念ながら牢屋に入れられてしまった。
「そんな…」
「明日、アルネーゼ嬢は隣国へ。アルフィオナ嬢は一ヶ月後、息子と結婚をしろ。貴様は…ワシと寝室に行こうか」
「嫌ぁ!」
その後、お母様は自害した。
お父様は処刑され、亡くなった。
アルネーゼは隣国に行く際、盗賊に襲われて殺された。
残ったのは私一人だった。
王宮で与えられた部屋に籠って、ずっと泣いていた。
❅ ❅ ❅
辛かっただろう。
母や父、妹まで失い、50歳以上年上の人と無理やり婚約させられて…
「アルフィオナ。貴方の苦しみ…過去は分かった。でも、私は辛くてもいい。だから戻りたい。アルフィオナが私を守ろうとしてくれたって事は分かってる。でも、私は戻りたいお願い」
「アルネーゼ…いや、アルフィオナ。アリスティアを返してあげて」
この声は…
「レリア!」
「どうやってこの世界に…」
「アルフィオナ。アリスティアを一緒に見守りましょう。貴方がやたらとここに人を連れてきた理由が分かった。ここに来た人達は払い師によって現実に戻された。でも、皆は幸せそうな笑顔で現実に戻って行った。助けたかったんでしょ?幸せにしたかったんでしょ?アリスティアはもう大丈夫。帰らせてあげよう」
「本当?もう大丈夫なの」
不安そうな目で見てくるアルフィオナは本気で心配しているのだろう。
「うん。ありがとう」
「分かった…現実に帰らせてあげる」
安心した様に言うアルフィオナは、寂しそうな顔をしていた。
もしかして、レリアも現実世界に戻れるかも。
「レリアも現実に帰ろう」
「それは出来ないわ」
「何で…?」
「私はもう死んでいるからよ」
え?
レリアが死んでいる?
どう言う事?
今レリアは、目の前に居るじゃない。
今ちゃんと生きて、目の前に…
「私は自我が無い状態で死んだの。自我は魂の一部だから、私はあたかも生きている様に見える。だから、現実世界の私はもう存在していない」
「そんな…」
「セリューム王国は知っているでしょう?セリュームを滅ぼしたのは私。心の闇に飲み込まれた私が滅ぼしたの。私は恋い焦がれていた幼馴染に殺された。彼は私を止める為に殺したのだけれど、それでも悲しいものは悲しい。本当はもっと、生きていたかった。気楽に生きたかった。王太子の婚約者になんてなりたくなかった。彼と一緒に居たかった。彼と一緒に生きたかった…」
レリアは話している途中で泣き出してしまった。
レリアも王太子の婚約者だったんだ。
私と同じ様に皆に嫌がらせをされていたんだ。
いくら嫌がらせが幼稚でも、皆から嫌われるのは辛い。
誰もそんな事を考えずに嫌がらせをしてくる。
私も平気だと思っていたけど、本当は辛かった。
本当は王太子の婚約者なんて嫌だった。
陛下の命令でも、嫌なものは嫌だった。
でも、家族も皆喜んだから。
我慢すればいいと思っていた。
自分に嘘をついて。
「だからアリスティア。私は帰れない」
寂しそうに言うレリアは、本当に現実には居ないんだ。
「レリア…私がなんとかする」
「え…?」
「アルフィオナ。良いよ。私を現実に返して」
「ねぇ!アリスティア!今の…どう言う事⁉」
大丈夫だよ。
レリア。
きっとレリアを救ってあげるから。