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アリスティアの苦しみ

「きゃあぁぁぁ!」

「学園が!」

「またアリスティア・ローズの仕業か!」

「本当に忌々しい!」

アリスティアからの攻撃を防ぎながら、皆が口々に言う。

今どうしてこんな状態かと言うと、急に学園の校舎が爆破した。

訳が分からないかもしれない。

俺…

レイチェルも分かっていない。

学園が爆破したと思ったら、アリスティアが皆を攻撃し始めた。

だが、アリスティアの様子は明らかにおかしい。

前に魔力暴走を起こした時と違い、目に光が無く、魔力を制御しようともしていない。

それどころか、自主的に攻撃しているようにも見える。

さっきから、アリスティアがブツブツ何かを言っているが、距離が遠くて聞こえない。

「アリスティア!」

俺は風魔法でアリスティアの近くに行った。

「殺す殺す殺す」

彼女はとんでもない言葉を繰り返していた。

「邪魔しないで!」

アリスティアは俺に向かって氷魔法をぶつけた。

「うっ…」

俺はそのまま地面に落下した。

だが、その氷は本物の殺意で当てられたものではない。

そういえば、アリスティアは二属性持ちの筈…

水と光。

何故氷属性が使えるんだ?

「レイチェル!ポーションだ。飲め」

落下した俺の元に、エリックが走って来た。

彼とは少し前に仲良くなった。

「感謝する」

「しかし、一体何が起きているんだ…」

「分からない。アリスティアが前に魔力暴走を起こした時とは何か違う」

「俺にも分かる。原因は何だ…」

俺がそう言うと、精霊達が姿を現した。

『僕達』

『分カルヨ』

『原因ハ』

『心ノ闇!』

心の闇?

「…まさか!収納魔法発動。魔導書を取り出せ!」

心の闇というのは、聞いたことがある。

俺はとある魔導書を開いた。


[心の闇とは、この世や人間を酷く憎んだ時に飲み込まれるもの。心の闇に飲み込まれると、自我が無くなる。心の精霊と契約している者だけが、他人の心の世界に入れる。そして、心の闇を見る事が出来る。心の闇は縄のような形になり、魂に絡みついている。いや、正確には締め付けている。心の闇には様々な色があり、色が濃い程憎しみや闇が深い。そして、色が濃い程、解くのは難しい。最強の払い師と言われた私も解けなかった心の闇の色は黒色。恐らく、誰にも解けない。私には頑張ってくれとしか言えない。心の中の世界は薄暗く、光は対象者の魂だけ。魂の光は強く、すぐに見つけられるだろう。もし心の闇について詳しく知りたければ私の元に来てくれ。私が生きているかは分からないがな。


著 4245年 7の月 17の日

元セリューム王国闇払い師 クライブ・セバリス

在住 サリオン王国魔法学園東]


これが心の闇の詳細…?

セリューム王国にいた人か?


他にも色々説明が書いてあるが、じっくり読んでいる暇は無い。

確かに俺は心の精霊と契約している。

「俺は心の中に入れるのか?」

『出来ルヨ』

『行コウ』

「レイチェル」

エリックは真剣な顔で頷いた。

「行って来い」

「分かった。心の精霊よ。我をアリスティア・ローズの心の中に連れて行け!」

『イイヨ』

『目ヲ閉ジテ』


『レイチェル』

『目ヲ開ケテ』

「もういいのか?」

『イイヨ』

俺は目を開けた。

そこは真っ暗な場所だった。

俺の体は淡く光っていた。

『僕達ハココマデ』

『コレ以上ハ僕達消エチャウ』

「そうか。ありがとう」

『大丈夫』

『頑張ッテネ』

精霊はそう言って消えた。

恐らく現実世界に戻ったのだろう。

魂は見つけやすいと書いてあったが、全く光を感じない。

何故だろう。

「居た!レイチェルー!」

「え?ユリア嬢⁉」

「そんな堅苦しい呼び方しないでよ。ローズ領の庭に穴を開けた中じゃない」

少し前の出来事の筈なのに、すごく懐かしい気がする。

そんな事より、なんでユリアがここに居るのかが問題だ。

「何でここに?」

「心の精霊と契約したから」

「いつ⁉」

「今さっき」

「マジか」

一体いつ契約する時間があったのだろうか…

「私は何をすればいいの?」

「待て。お前はアリスティアから離れたんじゃないのか?」

俺の目の前で言い争っていた二人を、俺はまだしっかりと覚えている。

『そっか。アリスはそう思ってたんだ。少なくとも私はアリスの事親友だって思ってた。馬鹿みたい。もういいよ。貴方の事を親友だと思わなければ良かった。行こ』

そう言って彼女はアリスティアを突き放した。

確かにアリスティアも、酷いことを言っていた。

『貴方と話す時間が無駄だと言っているの。私が攻撃されているのを見て見ぬ振りをするのが親友だと言うの?そんなものを友達と言えるの?いつもいつも貴方が狙ったようなタイミングで来るのは私に見直して欲しいと思っているから?それとも、皆にいいところ見せたいから?』

『何が違うの?アリスを庇ったら私まで攻撃される〜って怖気づいてたんでしょう?貴方は良いわよね。色んな人から愛されて、慕われてさ。嫌われている私の事を見下しているんでしょう?もう良いでしょう?貴方はここから消えて』

あの時のアリスは様子がおかしかった。

俺には分かる。

あれはアリスティアの本心じゃない。

気づかなくてもおかしくない。

でも、『親友だと思わなければ良かった』は言い過ぎだ。

「……そうだね。あの時はカッとなってあんな事を言っちゃったんだよね。だからあれは、本心じゃな」

「だからといって、『親友だと思わなければ良かった』は無いだろ!」

「レイチェル…」

ユリアは悲しそうな顔でこちらを見つめている。

「♪〜…♪〜……」

弱々しく歌う声が聞こえてきた。

「アリスティア…?」

俺は走って、歌声のする方に向かった。

そこに居たのは、縄の様なものに締め付けられたアリスティアの姿があった。

アリスティアの瞳に光は無く、全てを諦めた様な表情をしていた。

縄は、アリスティアの手足、腰などに絡みついて、身動きが取れなくなっていた。

あれが心の闇…

色は…?

「黒…色…?」

[心の闇には様々な色があり、色が濃い程憎しみや闇が深い。そして、色が濃い程、解くのは難しい]

そんな…

「ユリア…一回現実に戻るぞ。クライブ・セバリスに会いに行く」

4245年 7の月17の日に書かれたのであれば、まだ彼は生きているかもしれない。

現在は、4295年2の月14の日だからだ。


俺達は学園の防御を他の生徒達に任せて、魔法学園の東にある一軒家の扉の前に転移してきた。

俺は扉をノックした。

中から出てきたのは70代くらいの男性だった。

「お初にお目にかかります。魔法学園一年留学クラス、ミネラル王国第一王子のレイチェル・ミネラルです」

「同じく魔法学園一年Aクラス、ベルナール侯爵家のユリア・ベルナールです」

「クライブ・セバリスさんでよろしいですか?」

魔法学園の生徒が来た事に驚いていたクライブさんは、名前を聞いた瞬間に納得したような表情をした。

「中へ」

クライブさんの家の中は広くも狭くもない感じだ。

家具も最低限しか無い。

クライブさんは机を囲っている四つの椅子の一つに座った。

「座りなさい」

俺達はクライブさんの向かいの席に座った。

「君達は私の書いた魔導書の読者か?」

「はい。黒色の心の闇についてお伺いしたいのですが…」

クライブさんは少し考えるような素振りをしてから、頷いた。

「少し昔話をしてもいいかい?」

「はい」

そんな時間は無いと思ったが、聞いた方がより詳しい情報を得られると思った。

「黒色の闇に締め付けられた少女の話だ。彼女は王太子の婚約者だった。王太子の婚約者というだけで、彼女は卑劣な嫌がらせをされていた。彼女は嫌がらせを我慢し続けた。相手が悪いのに、これは自分の問題だと言って周りが差し出した手を振り払った。私はそんな彼女に惹かれていた。想いを伝えられる筈も無く、時間だけが過ぎていった。彼女は、周りを巻き込みたくないが為に傷つき続けた。そして、彼女は心の闇に飲み込まれた。彼女は学園で、いきなり周りに居る人間を攻撃し始めた。私はもうその段階で払い師だったから、彼女の心の世界に入った。その時に見たのが黒色の心の闇だ。私は今まで使った心の闇の払い方をほとんど試し、最善を尽くした。だが、彼女の自我は最後まで戻って来る事は無かった。そして、彼女は一つの国を滅ぼした」

アリスティアと同じ様な状態になっている…

ユリアは、驚きで声が出ないのか、口に手を当てて首を振っている。

クライブさんが言っている人が滅ぼした国は、恐らくセリューム王国だろう。

これは本当にまずいかもしれない。

もし、アリスティアの自我が戻らなければ、レオナルド王国も滅びるかもしれない。

「その人は…その後どうなったのですか…?」

「私がこの手で…彼女を殺した。彼女は沢山の人を殺した上に一国を滅ぼした。自我が無いとは言え許される事ではない。それに、彼女を止める方法はそれしか無かった」

悲しそうに話すクライブさんを見ていると、胸が傷んだ。

「すみません…辛い事を思い出させて…」

「良い。もう過去の事だ。彼女は死の間際に自我を取り戻した」

「え?」

「彼女は周りを見た後に、私に向かって曇り無き笑顔で言った。『私を止めてくれてありがとう』と。彼女は元々察しが良かった。だから、自分の周りに転がっている死体と、国の惨状を見て、自分がやった事を察したのだろう。そして、彼女はそのまま息を引き取った」

「そ…そんな」

ユリアが震えた声でそう言った。

「アリスもそんな状態になるかもしないって事…?」

「落ち着けユリア」

ユリアをなだめていると、魔法学園方面から轟音が聞こえた。

「アリス!」

「クライブさん。貴重なお話をありがとうございました。俺達は学園に戻ります」

「まさか…心の闇に飲み込まれた者が近くに居るのか…?」

「はい。黒色です」

クライブさんの表情が険しくなって行った。

「そうか…君、これを使ってくれ」

クライブさんは棚の上に置いてあった小さな水晶のような物を俺の手に乗せた。

「これは?」

「それは私の相棒だ。これを心の縄に当てて、心の精霊に祈ればアルネーゼに会える筈だ。これが黒色の心の縄に効くかどうかは分からない。彼女が心の闇に飲み込まれた時は、生憎持っていなかったけど」

「アルネーゼって…」

聞こうとすると、またも轟音が鳴り響いた。

「行け。その子を救ってやれ」

「はい!」

クライブさんは真剣な顔でそう言った。


俺達は、クライブさんに水晶の使い方の説明を聞いてから、すぐに転移魔法を使って学園に戻った。

少しだけ残っていた校舎は完全に吹き飛び、生徒達が倒れていた。

倒れている生徒は、全員アリスティアを攻撃していた者だった。

「レイチェル!」

「エリック。何があった?」

「アリスが水と風魔法の混合魔法で生徒を全員吹き飛ばした。倒れている生徒達の混合魔法には水ではなく、氷の塊が含まれていたようだ」

三属性の混合魔法なんて聞いたことが無い。

アリスティアは魔法の事で、何かを隠していた。

「ユリア!危ない!」

「え?」

エリックが大きな声を出した。

何事かと見てみれば、ユリアに向かって氷魔法が飛んできていた。

「防御魔法発動!大丈夫か⁉」

「ギリギリ…」

俺が発動した防御魔法に守られて、ユリアは無傷だった。

「…立てる生徒はこれだけか?」

「はい。倒れている生徒は深手を負って動けないか、気を失っています」

まずい。

立てる生徒は二十人も居ない。

ここでユリアと俺が抜ければ全滅する。

「我が治療して、無能共を起こしてやろうか?」

「ゼノン!」

いつも通りいきなり現れたゼノンの表情は怒りに満ち溢れていた。

「せ…精霊王⁉」

エリックはびっくりした声を上げた。

「レイチェルよ。我は言った筈だ。時間がないから目を離すなと。寄り添ってやれと」

ゼノンから言われた事の内容はこう。

『我はもう時間が無いと思っておる。これから先、アリスは心の闇に飲み込まれる可能性が高い。アルネーぜはもう既にアリスティアに目を付けておる。だから目を離すな。少しでも良いから寄り添ってやれ』

あの時の言葉の意味はそのままだったのか。

「そうですけど、まさかこんな事になるなんて…」

「我もここまで早いとは思ってなかったな」

早くしないと本当に死人が出る。

「ゼノン。現実世界の事は任せてもいいですか?」

「勿論だ。この無能共をしごき倒してくれるわ」

「心強い。死人は出さないでくださいね。ユリア!行くぞ!」

ユリアは力強く頷いた。

俺達は目を閉じて、声を揃えて言った。

「「心の精霊よ。我らをアリスティア・ローズの心の中に連れて行け」」

そう言った時、正門の方から走って来る人達が見えた。

「ユリア嬢!レイチェル様!」

「あの子を…アリスティアを救ってください!」

「お願いします!」

アリスティアとよく似た容姿の青年とメイド、女性と男性だった。

あれは…

アリスティアの家族か…?

分かっている。

絶対に救ってみせるから。


「さっきより暗いね…」

「アリスティアの心境の変化だろう。行くぞ」

歩きだすと、右半身に温もりを感じた。

俺はポケットの中を探った。

「どうしたの?」

ユリアが心配そうに見ていた。

ポケットから出て来たのは、クライブさんに貸してもらった水晶だった。

それは、淡い光を発していた。

「何で光ってるの?」

「分からん。とにかく行くぞ」

「あ、待ってよ」

そんな事を気にしている場合じゃない。

一刻も早くアリスティアを救わなければ。

「悪化している…」

アリスティアに絡みついた縄は増えており、さっき聞こえた歌声も聞こえてこない。

歌う気力も無いのか…

「アリス…ごめんね…寄り添わなくて…言い訳して、逃げて、傷つけて…ごめんなさい」

ユリアは涙を流してそう言った。

「ユリア。そう言うのは本人が起きている時に言ってやれ。やるぞ」

「分かってる」

俺はアリスティアに絡みついている縄に水晶を当てた。

「心の精霊よ。アリスティアを囚えている者と合わせてくれ」

そういった瞬間、水晶が目が痛くなる程の光を発した。

光が収まってから、目を開けた。

そこには、眼の前に居た筈のアリスティアの魂が居なかった。

そして、ユリアの姿も無くなっていた。

あいつ…

どこ行ったんだよ。

「♪〜〜♪〜〜」

「この歌は…」

どこから聞こえるんだろう。

俺は歌が聞こえる方向に歩いて行った。

着いた所に居たのは、小さな黒髪ロングの女の子。

目を瞑って気持ち良さそうに歌う少女は、どこかで見たことがある気がした。

少女は俺に気付いて、目を開いた。

珍しい金色の瞳…

「だぁれ?何でこんな所に居るの?」

「友達を助ける為に来た」

「そうなの?勇者さんみたい。でも、早く帰ったほうが良いよ〜」

「いや、俺はアイツを助けるまで帰らない」

「好きな人のぉ?」

「なっ⁉」

思わず声を出してしまった。

図星だった。

虐めから助けてくれた時、優しく抱きしめてくれた時、泣かせてくれた時、皆で庭を駆け回った時。

いつ彼女に惹かれたのかは分からない。

でも、彼女の優しさに、勇敢さに惹かれた。

俺は、アリスティアが好きだ。

あの日からずっと。

…いや、待て。

俺はこの少女に、探し人が女性だと言っただろうか…?

俺は取りあえず、話題を変えることにした。

「そういえば君。名前は?」

「アル!アルネーゼ!」

「お兄ちゃんは?」

「レイチェルだ」

「ふふっ。知ってるよ。お兄ちゃんの探し人はティアでしょ?」

「ティアって?」

「アリスティアの事だよ」

何故…

この子がそれを知っているんだろう。

『アリスティアを囚えている者と合わせてくれ』

俺はそう願った。

「君が、アリスティアの魂を捕らえているのか?」

「そうだよ。ティアの闇は深かった」

そうだとしても、このままだとアリスティアは人を殺す可能性がある。

「頼む。アリスティアを返してくれ」

「無理」

「何故だ?」

「ティアは現実に帰る事を望んでないよ。無理やり連れ戻しても、現実は変わらないよ。大丈夫。ティアに酷い事はしてないから。ティアは今、幸せな夢を見ている。夢の中ではあの子は笑顔になれる。だから邪魔しないで」

確かに、現実にはサリオン殿下やセリーネ嬢が居る。

アリスティアにとっては地獄だろう。

「だとしても、アリスティアは人が死ぬ事を望んでいない!」

「じゃあさ、今ティアが殺そうとしているのは誰?」

アリスティアを虐めていた人達だと思う。

「アリスティアを攻撃した者達だ」

「でしょうね。今、ティアに自我は無い。つまりは自分の思いを制御するものが無いんだよ。例えば、心のどこかで『憎い』などの感情があれば、それは攻撃に繋がる。普段は自我が制御してるもん。それが無くなれば制御なんて出来ない」

確かにそうだ。

「ねぇ、レイチェル。おかしいと思わない?50年前にセリューム王国が滅ぼされた時に、ただ一人だけ生き残った人間が居たでしょう?他の人はレリアによって殺されたのに、クライブだけが生き残った。そして、クライブはレリアを殺せた。おかしいじゃん。クライブだって死んでも…殺されてもおかしく無かった。ここまで話せばわかるよね?憎んでる人以外は攻撃しない」

レリア…?

まさか、レリア・ミールナードか?

絶世の美女と呼ばれる、セリューム王国、王太子の婚約者…

クライブさんが言っていた彼女とは、レリアさんの事だったのか。

確かにレリアさんは、国民や学園の生徒、騎士や魔道士までも殺せた。

何故クライブさんだけ殺されなかったのかと聞かれたら、偶然なんて言えない。

払い師であったクライブさんに、戦闘力は無いに等しい筈だ。

レリアさんもまた、クライブさんに想いを寄せていたのか?

「ティアは返さないよ。じゃあね」

「待って!」


「レイチェル!無事だったの⁉」

現実に戻って来た瞬間に、ユリアが突進して来た。

「こっちの台詞だ!いつこっちに?」

「レイチェルが心の精霊に祈った時」

やはりその時か。

ゼノンのお陰で生徒に死人は出ていないらしいが、明らかに生徒の顔がやばい。

「何をやっておるのだ!この、のろま共!休むな!立て!これは貴様らが招いた事だぞ!」

ユリアの後ろには先程見えた人達が居た。

社交界の規則として、自分より位が高い者が話しかけない限り、自己紹介をする事は許されない。

「初めまして。ミネラル王国第一王子。レイチェル・ミネラルです」

「お初にお目にかかります。アリスティアの兄、アラン・ローズです」

「同じくアリスティアの父、ジーク・ローズです」

「アリスティアの母、マリア・ローズです」

オドオドしている後ろのメイドに命じなければ、身分的に名乗れないだろう。

「後ろのメイドは…」

「アリスティアの専属メイドのメアリーです」

イーリス様がそう言うと、メイドは会釈した。

「ティアは…」

アラン様は不安そうな瞳をしている。

「アリスティアを囚えている者と交渉はしました。ですが、本人が帰りたがらなければ、返せないと」

「そんな…」

そう言って肩を落としたアラン様に向かって、アリスティアは土魔法で岩を投げつけた。

「危ない!」

飛んでくるスピードが早すぎて、魔法の発動が間に合わない。

焦る俺はどうにも出来ない。

そう思っていたら、アラン様の目の前で岩が砕けた。

「反抗期にも程があるよ。ティア」

何が起きたんだ?

アラン様の手元を見ると、さっきまで何も握っていなかった手に剣が握られていた。

今の一瞬で剣を抜いて、岩を砕いたのか…?

「伊達に騎士修行しに他国に行った訳じゃないよ」

す…

すげぇ…

「ティアは現実世界に戻りたいと思ってないのか?」

俺は頷いた。

皆がアリスティアに願っただろう。

アリスティアに早く帰ってきてくれと。

逃げ道があるのであれば逃げて良い。誰かにそう教わりました。

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