0.──は、初めまして……栄零ミヤです……
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「──は、初めまして……栄零ミヤです……よ、よろしくお願いします……」
次の日。何故かもう既に入学手続きは済ませてあり、俺こと栄零ミヤ(偽名)は馴染みあるはずのクラスメイト達の前で挨拶をしていた。
これもミヤの仕業なのか、クラスも一緒にさせられている。まぁ何かあった時に対処しやすいからありがたいんだけど。
しかしながら朝起きた時俺は驚いた。そりゃそうだ。だって夢のはずだもんこれ。なのに目が覚めたのにまだ女の姿だったんだ。ありえないよなこれ……アハハ……。
朝起きてすぐ、ミヤに「早く夢から覚ませてくれ」って懇願したが、「現実から目を背けるな」ってなんかカッコイイ風に言われた。全然状況的にも何もカッコよくないし、これに関しては目を背けてもいいと思うんだよ俺は。
「はいはーい!ミヤちゃんに質問したいでーす!」
女の子大好きハク。てかそんな場じゃないから。早く席に座らせてくれ。てか元に戻してくれ。
「いいぞなんだ言ってみろ」
先生いいのかよ!?
すると、ハクの雰囲気がガラッと変わり──
「──神様って信じる?」
それを言い終わった瞬間、雰囲気が元に戻り。
「キラーン」と音を立てた。自分の口で。
……こいつ本当に頭イカれてるんじゃねぇのかおい……なんだその質問殺していいか……?
しかしそう質問されると……。
神様か……いるんだったらこの状況になってないからな……。それにいるんだったら早く俺を助けて欲しい救って欲しい!!今まではいるかもしれないって思ったこともあったけど、今回の件ではっきりした。
「──神様はいません」
俺はそう答えた。
「プッ」
と、その回答にミヤが吹き出す。
あいつ殺してやろうか。
まぁ確かにミヤからすると、神様的な存在はいるらしいのでそういう反応になるのか。
「──おい上瑠」
先生……?雰囲気なんか急にピリピリしたけど??
「そんなくだらない質問で時間使うなよ……朝のHRが長くなって、私の休み時間減るじゃねぇか!!!!」
てめぇは仕事しろ!
ハクは納得いかないような顔をしていた。ミヤ(緋彩)の返答に対してなのか、独り身仕事しない先生に対してなのか──。
そして席に着くわけだが。
ありがたいのかありがたくないのか、ミヤとは隣同士。つまりは俺の席の隣。魔凛ちゃんとは線対称の席だ。
なんだろう、ミヤが囲まれているはずなのに身体のせいで俺が囲まれてるみたい……。しかしこの後このゲス共に囲まれなきゃいいが──
──案の定、ミヤこと俺は男共に囲まれていた。
「栄零さんどこから来たの!?」「栄零さんどこ出身!?」「ミヤさん可愛いね!!」「今度お茶しようよ!」「胸のサイズいくつ!?」「2人でどこかでかけない!?」
等々。このゲス共、まだ最初の方はいいが最後の方はセクハラだぞ。てか何故こんな……。
確かに美少女だし、胸もまぁまぁあるし、洋風な名前と顔立ちで珍しいのもわかるが……ここまでなるか普通!?
てか嫌だ。俺はこいつらのこと知ってるから尚更嫌だ。知ってる男共に言い寄られるのが1番嫌だ。BLの人だったらこの状況喜ぶだろうが、俺は女性が恋愛対象だからちょいとキツい……!こういう時俺がBLだったら……!!
女性の人はこんな気持ちなのか!?女の転校生のヒトの気持ちが痛いほどわかるかもしれない……!あぁ……女の人ごめんなさい……っ!
──ミヤ助けてくれ!!男だろお前!!
──ニコッ
──ガーーーーーーーーーーーン
助けを求め、ミヤの方を向いたが笑顔を向けられただけだった。
いやそうじゃないいいいいいい!てか俺の笑顔気持ち悪いいいいいいい!……俺の笑顔ってこんな気持ち悪いのか……元に戻ったら笑顔の練習しよう……。
クソぅ……この状況はマズイ……何かマズイ気が──
「──ミヤちゃん!」
この男共の声を遮るように放たれた高い可愛らしい声。普通に考えたら嬉しいはず。だがしかし。
なんかその、オーラが怖いんだよねなんか。俺の知ってる魔凛ちゃんではない。明らかに。とんでもない威圧感を感じる。
男共もそう感じたのか一瞬で静まり返る。
「──屋上行こ♡」
そしてとんでもないイベントが発生するフラグが立つようなセリフを放った。
……うん、怖いよ魔凛ちゃん。
で、屋上来たんだけど。
魔凛ちゃんニコニコ笑ってるだけで何も話してくれない。
「ま、魔凛ちゃん、も、うすぐ授業始まっちゃうよ……?」
なんだろう、早くこの状況抜けさせていただいてよろしいでしょうか。ちょっと胃が痛くなってきた……。
「あれミヤちゃん?私名前教えてないんだけど?」
しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
自己紹介したのこっちだけで、クラスの誰も自己紹介していない。ハクは自動的に名前知れたくらいで、他の人の名前等知るはずがない。
これはやってしまった。
「こ、これはその……刈野、刈野緋彩……緋彩から聞いたんだよ!!」
「緋彩……?」
え?なんで逆に雰囲気怖くなったの?あれ?もしかして魔凛ちゃんに俺って嫌われてる?あれれ?
「へぇ……転校初日で『緋彩』君と仲良くなったんだね〜」
なんか緋彩というところだけ強調されたような……。
てか魔凛ちゃんって俺の事『緋彩君』だなんて呼んでたっけ……。
それにしてもマズイな……緋彩とミヤが同じ屋根の下で暮らしているなんて知られたら俺の学園生活が終わってしまう。考えなければ……。
「……じ、実は朝学校までの道に迷って。『刈野緋彩君』が教えてくれたんだよ」
「……」
なんだろうこの疑われているような目は。なんだ。
「──『緋彩』君は優しいもんね!そりゃあ困っている人がいたら命掛けてでも助けちゃう子だもんね!」
……へ?
……ほ?
──なんかめっちゃ嬉しいんですけど?え?魔凛ちゃんってそんなふうに俺のこと思ってくれてたのおおおおおおおお!!!???やべええええええええ!俺、生きてて良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
っと危ない。ここで喜んではダメだ。冷静になれ俺。今の俺はミヤ。俺は女。俺は可愛い女の子なんだ。ここは。
「そ、そうなんですようふ……『緋彩』ってめっちゃ良い子で優しいんですよねぇうふ」
─────
な、なんか一気に空気悪くなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
マズイ!調子に乗ってしまったか俺!?!?!?
魔凛ちゃん笑ってるのに怖いよ!!!!!その笑顔がなんかさっきの可愛らしい笑みじゃない!!怖い笑み!!
どうしようどうしよう!何も喋らない!!喋れない!!この沈黙がキツいよ!!!
彼女はその笑みを浮かべながら微動だにしない。
「ミヤちゃん……♡」
あ、ヤバいこれは殺される。
やっと口を開いたと思ったが、これは確実にダメなパターンである。
「私はあなたのことし──」
──キーン↑コーン↓カーン↑コーン↓。ギーン→ゴーン→ガーン→ゴーン→。
──予鈴が鳴った。
「ま、魔凛ちゃん!チャイム鳴ったよ!早く行かなきゃっ!」
「まだ予鈴だから5分くらいあるy──」
「──初回から遅刻は行けないよおおおおおおおおおおお!」
そう言いながらミヤこと緋彩は全速力で教室に戻った。
「──どうした?何かあったのか?」
「──ぜぇ…ぜぇ…いや…なんでも…ぜぇ…ない…ぜぇぜぇ」
こいつの体こんなにも体力ないのか!?それとも俺がこんな体力無かったのか!?いや違う俺もこいつもそんな体力が無かったわけではないはず……そんな息切れするほど焦っていたのか俺は……。
遅れて開始チャイムギリギリに入ってきた魔凛ちゃんの顔はどことなく不満そうな顔をしていた。
やばい。今日は魔凛ちゃんに近付かないようにしよう……そのうち殺されるよ絶対……あの目つきはやばい……。
俺は魔凛ちゃんからの視線を見ないように反対側を向いた。
☆☆☆
何の変哲もない授業が終わり。
そして昼休み。
俺はとんでもない試練に挑んでしまっていた。
扉の外から聞こえる男達の話し声。
今日の授業のことやゲームの話、ドラマの話など様々だ。俺はその声に怯えていた。なぜならここは──
──男子トイレである。
もう一度言う。
──男子トイレである。
いや、緋彩こと俺は間違いなく男である。だから普通なら問題無いのである。ただ用を足しに来た男子高校生だ。
しかしどうだろう。忘れては無いだろうか。今俺の身体は──
──女である。
もう一度言う。俺は今、
──女である。
そう、ひょんなことからエレミヤと魂が入れ替わってしまったのである。つまりは今この状況。とてつもなくヤバいのである。さて、冷静な分析はここまでにして。
誰か助けてえええええええええええ!!!しくったよ!やばい!普通に男子トイレ来ちまった!!!やばいやばいやばい。この状況は非常にマズイ。こんなん男共に見つかったら──犯される……!やばい!それだけは嫌だ!助けてミヤ!!!
俺は持っていたスマホでミヤにメールを送る。
『間違えて男子トイレに来てしまった!』『なんでもするからここから助けて欲しい!』『お願いしますエレミヤ様!』
だが既読は全然つかない。
なんで既読付かないんだ!?助けて……誰か……!
そうこうしているうちにも次々と男達が入れ替わる。ついには知っている声まで。
「緋彩の奴どうしたんやろ……俺と飯食ってくれないなんていつ以来だ……」
ハクだ。相当マズイ。クラスの奴に見つかるのが1番マズイ!しかもよりによってハクだ。クラスの中でも1番見つかりたくない相手だ!頼むから見つからないでくれ……。鍵かかってるから大丈夫とはいえ何が起こるかわからんからな……。
「さて……ささっと済ませて飯食うか……だ、誰d──」
瞬間、ドタドタと人が倒れる音がした。
そして数秒して、
──トントン
俺のいる個室のドアがノックされた。背筋が凍る。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!何かわからんけど外でとんでもないことが起きた気がする……!!!しかもドアノックされて待ち構えられてる……!!!これどうするこれどうする!
「──刈野緋彩」
突如女の声で名前を呼ばれた。
「──私はあなたのことを知っている。だから信じて」
立て続けに言われたセリフはこの状況下においてはよくわからなかった。
それにしてもこの状況がよく分からない。先程まで男達が話をしていたはずなのにその声は一切聞こえない。女の声も聞こえなくなり今は静寂に包まれている。
これはどういうことなんだ?さっきの女の声も聞こえなくなったし……。それにしても聞いた事あるようなないような声だったな。いや、今は女の声の主は誰でもいい。ここを抜け出さなければ。
現在物音や声が聞こえないということはトイレ内には誰もいない、ということだ。抜け出すなら今のうちだ──
ドアをゆっくりと開ける。恐る恐るドアの隙間から覗く。
すると、先程喋っていたであろう男達が床に倒れていた。
「うぉっ!?」
思わず大声を出してしまった。
「だ、大丈夫か!?」
しかも見つかったらやばいのにも関わらず倒れている男達に声をかけてしまった。だが男達の反応はない。息はしているので恐らく意識を失っているのであろう。
それにしても先程の女の姿はない。この仕業はさっきの声の主なのだろうか。
いや考えていても仕方が無い。この男達を保健室に運ばなければ。
緋彩は男手と先生を呼ぶことにした。
☆☆☆
「──てなことがあってよ。なんでお前メール見てないんだ」
屋上にて昼食を既に済ませたミヤに対して俺は怒っていた。そりゃそうだ。せっかくSOSメールを送ったのに見てもいないのだ。お陰で散々な目にあった。
まずあの後先生を呼びに行ったのだが、何故か俺が事情聴取。無理もない。身体は女なのだ。女の俺が何故トイレ内で倒れている男達を見つけたのか。抜け目ない俺は、「トイレの前通った時に人が倒れるような音を聞いたから」と答えておいた。これで怪しまれることはないだろう。
結局男達は無事で意識を失っていただけみたいだ。しかしそれをしたあの謎の女の声は誰だったのであろうか。
「あーあのメールか。すまんお昼食べるのに夢中で無視したわ」
「なんだとゴルァ!」
思わず手に持っていたお弁当箱を床に投げつけてしまった。せっかく母が作ってくれたお弁当なのに。
「てめぇ知ってて無視したのかよ!」
「あぁ。別に私には関係無いしな」
「大ありだ!おめぇの身体たぞ!」
「あぁそういえばそうだったな。まぁ今無事なのだからそれでいいだろう」
なんなんだこいつ。急に対応冷たいな。昨日までなら「その身体に何かあったらぶち殺す!!」みたいな感じなのに。
俺は言い返す言葉も無く、苛立ちながらその場を離れた──
「──何の用だ」
緋色が屋上を去ってすぐ。ミヤは隠れていたその人に声を掛ける。
呼ばれてすぐにミヤの前に跪く形で現れる男。銀色の長髪に顔には数々の痛々しい傷。まるで執事かのような服装に鋼色の剣を腰にぶら下げている。年齢的にはかなり老けている。
「わざわざ学校に来るということは、何か問題が起こったのか?シュヴァリエ」
シュヴァリエと呼ばれた男。名前を呼ばれ返事をしそのまま話し始める。
「──エレミヤ様。このようなところで失礼します」
「えぇそうよ。もうすぐお昼休み終わっちゃうじゃない!私の休憩時間をなんだと思ってるの!?」
急な女口調。そして雰囲気も……と言いたいところだが、身体は緋色なのでオネェ感が出ただけである。
「……エレミヤ様そのお身体でその口調はやめた方がよろしいかと……」
「っ──」
気付いたのか我に返る。
そして咳払いののち。
「──それで何の用だ?」
「はっ──異世界No.5《ゴースティア》にて不審な動きがあるようです」
「《ゴースティア》でか?またゴースト共が暴れてるだけではないのか?」
「いえ……ファントム様に不審な動きがあるとの報告を受けております」
「ファントムさんが?」
異世界No.5《ゴースティア》。
幽霊・亡霊と呼ばれるものが集う世界。各異世界で成仏出来なかった魂がこの世界にやってくるという異世界逸話がある。現に《ゴースティア》の住人、ゴースト達は各異世界人のような姿形をしている。姿形とは言っても、それは目に見えているだけでそこに実態は無い。その名の通りゴーストである。
この《ゴースティア》にも統治や秩序があり、1つの巨大な王国として《ゴースティア》が存在している。世界の規模は異世界No.4《地球》とは比べ物にならないくらい巨大である。そしてこの《ゴースティア》を統治し、王として君臨しているのがファントムという人物である。
実は最近まで《ゴースティア》は統べる者がおらず無法地帯であった。元々は死者の溜まり場であったのだ。だからこそ他の異世界にちょっかいをかけに出るゴーストが多く、《レハブアム》も常に手を焼いていた。《地球》で出る幽霊等の原因は基本この《ゴースティア》のファントムである。
このファントムという人物の登場により《ゴースティア》は統一され、ちょっかいをかけるゴーストは減り《レハブアム》としてはこの上ない喜ばしい出来事である。
ただ《レハブアム》としては逆の懸念もあった。この《地球》ですら幾重もの国が存在し、それぞれに統治する者がいる。《地球》全体を統治している者は表にはいないのである。
この《地球》の何倍もの巨大さを誇る《ゴースティア》が、たった1人のゴーストにより統一されるとは思えないのである。もはや《ゴースティア》はファントムの独裁世界である。
「まだ調査中ではありますが、現在《地球》で起きているゴーストの暴動もファントム様が何かしら関係していると睨んでおります」
「《地球》での事についてはあの人達に任せておけばいいとして……こちらは事実確認をしなければならないな」
「はい。ファントム様につきましてはわかり次第ご報告させていただきます」
「頼む……といきたいところだが、《ゴースティア》には近々行こうと思っていた」
「《ゴースティア》にですか……?」
「あぁ。あそこはゴーストの世界、魂だけの世界だからな。この入れ替わりを解決するヒントが得られるかもしれん」
「その件でイザヤ様より言伝を預かっております」
「イザヤさんから?」
この異世界には、異世界同士を繋ぐ電波等は存在しない。古来でいう飛脚みたいなもので情報を伝えている。
「──『狼』の監視引き続き頼みます、とのことです」
『狼』の監視──そう私は──
「──抜かりは無い……そう伝えろ」