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おいしいどくのはなし

 雪が溶け、

染み込んだ雪はやがて小川となり、

そして大きな川を作る。


 そんなことなど思いもせずに、

ただ、今日のご飯をどうするか、そればかり頭を巡らせた。


 草はまだ芽吹くこともなく、

魚や他の動物(ごはん)たちも居ない。


 僕は熊。

今の熊は冬眠なんかしない。

冬眠するほどの蓄えがないからだ。

冬の間もずっと食べ物のことばかり考えて、

その日その日を生きてきた。


 だけど、僕が住んでる山のまたずっと向こうの山には、

木の生えていないところがあるんだ。


 そこにはたまに食べたことのない美味しい動物(ごはん)がいて、

これは運なんだけど、そりゃもう美味しい。


 でも、あれは本当は食べちゃいけない、

毒みたいなものだったんだって今更気がついたよ。




「いいかい?決して山を降りてはいけないよ。

それに、カラフルな毛皮を着た猿を見たら逃げなさい。

あなたはその猿たちには勝てないんだからね」


 毎日母さんが口癖のように言う。

僕はカラフルな毛皮を着た猿なんていないと思う。

後ろ足だけで歩くちっぽけなやつだそうだ。

だけどとても怖いと母さんは言う。


 そんなやつは全然怖くない。


 それに僕は熊だ。


 この山じゃ僕に勝てるやつなんて、

母さんと隣の山のおじさんだけだ。


 ノシノシと僕が歩けばみんな逃げていく。

僕は熊だからね。


 だけど狐のやつを追いかけていく途中、急に木が生えていない剥げた道を見つけたんだ。

そこには僕よりも、

隣の山のおじさんよりも大きなカラフルなやつがたくさん追いかけっこをしていて、

僕の姿を見るとみんな追いかけっこをやめた。


 そのカラフルな大きなやつの中にはカラフルな猿がいて、

母さんが言っていたことは本当だったんだと、

とても怖くなったんだ。


 急いで家に帰り、頭を隠してとりあえず寝た。

母さんはそんな僕を気にする素振りも見せなかった。


 目を覚ますと母さんが傍に座って、

まるで僕が起きるのを待っているようだった。


「可愛い私の僕ちゃん。

降りてはいけないよって言ったのに、山から降りたのかい?」


 僕は昨日の様子が頭に浮かび、ドキリとした。


「山からは降りてはいないよ、

でも禿げた山の道で大きなやつらが追いかけっこをしていたんだ。

それで、そこにはカラフルな猿もいて、

怖くなって逃げて帰ってきたんだよ」


 母さんはそれを聞いて、

怒るどころかとても悲しそうな顔をした。


「もう決してカラフルな猿を見たところに行ってはいけないよ。

あなたのお父さんもカラフルな猿には勝てなかったんだからね」




 僕はとても怖くなったけど、

でも、とても気になってしまっていて、

遠くからその追いかけっこの様子を見ていたんだ。



 最初は山の一番上から見ていたけど、

少しづつ近づいていってその真ん中、

ついには禿げた道の近くの木の陰から、

僕はこっそりと見るようになってた。


 毎日毎日、母さんには内緒で。





 何度目かの冬が来る前、僕はとてもお腹が空いていた。

狐も居ないし鹿も見当たらない。


 どんぐりも今年は少なくて、

本当にどうしようかと考えていた。


 母さんはダメだと言っていたけど、

お腹が空いて我慢がもう限界だ。


 歩いて、

歩いて、歩いて、

山を一つ、また一つ、

他の熊の匂いがするけど、鉢合わせなければいい。


 それよりも、他の熊が居るなら、

ご飯にありつけるかもしれない。


 どこまで歩いたかわからない。

でも、凄く広く、禿げた山があった。


 そこには見たことのない、

鹿に似ている、でも鹿じゃない、

白と黒の動物が居た。とても大きな。



 その大きさは僕と同じか、

僕より少し小さいかもしれない、

そんな見たことのない動物に、

僕は正直いうと少し怖くて、様子をみていた。



 その動物は寝ているか、

その辺の草を食べているか、

夜になる前にどこかに行って、

朝になるとまたその辺で草を食べている。


 その辺の草を食べるだけでお腹いっぱいになるなら、

羨ましいなと思ってたけど、僕は決心した。


 その動物を食べたいと思った。


 お腹も減っているし、どうやらのんびりしてそうだから。


 僕は決心してからというもの、すぐにそいつを捕まえた。

思っていたよりも怖くなかった。


 簡単に捕まえられたし、狐みたいにすばしっこくない。

それに狐みたいに痩せぎすじゃないし、

鹿みたいに走り回らなくても良いし、

柔らかくてお腹いっぱいに食べられるし、

僕はすっかりこの動物の虜になってしまった。



 お腹いっぱいになった僕は、

カラフルな猿たちが居るのを見て、

少しだけ怖くなって、そこでご飯を食べるのをやめた。


 僕は白と黒の動物が居る場所が、なんとなくわかる。

白と黒の動物の匂いだ。


 山を一つ、また一つ、

歩いて歩いて、また歩いて、

白と黒の動物が居る禿げた山を見つけた。



 だけど、前に嗅いだことのある、

カラフルな猿たちの匂いがしたから、

僕はそこでご飯を食べるのをやめた。


 母さんは、父さんも勝てなかったと言うけど、

ちっぽけなやつらだ、僕から勝てるかもしれない。


 それに、僕は気がついた。

やつらが居るところは時々とても良い匂いがする。


 旨そうな匂いがする。


 お腹が減っている。

やつらのことなど構やしない。

だって僕はお腹が空いて仕方がないのだ。



 いつか見た禿げた道には、

前に追いかけっこをしていた大きなやつもいない。


 良い匂いがする箱がいくつもあって、

余計にお腹が空いてきた。


『いいかい?決して山を降りてはいけないよ。

それに、カラフルな毛皮を着た猿を見たら逃げなさい。

あなたはその猿たちには勝てないんだからね』


 母さんはそう言っていたけど、

夜だからか、カラフルな猿も見当たらない。


 ただ、とてもうるさい狐に似たやつがいた。

小さいくせに僕が怖くないのか、うるさかった。


 そいつは蔦みたいなもので捕まえられていて、

最初は怖くなって逃げたけど、

実はうるさく鳴くだけで何もできないのがわかった。


 小さいやつは腹の足しにはなったけど、

やっぱり大きなあの白黒のやつほどには旨くなかった。


 それに、旨そうな匂いはあの小さいやつじゃなかったし、

やっぱりあの箱から良い匂いがしてくる。


 僕は思い切って旨そうな箱を叩いてみた。

どうにも食えそうにない。

でも良い匂いがするのは箱の中だとわかった。


 箱を叩く、別のところを叩く、

中からはキイキイと鳴き声が聞こえる。

きっとあの鳴き声の主が旨そうなんだろう。


 やっと箱の中に入ったところで、

そこは木の生えていない、ツルツルの地面だった。

そして、目の前にはカラフルな猿たちが、

キイキイと鳴いている。


『いいかい?決して山を降りてはいけないよ。

それに、カラフルな毛皮を着た猿を見たら逃げなさい。

あなたはその猿たちには勝てないんだからね』


 ふと母さんの言ったことを思い出し、

それからちっぽけな猿のくせにとても騒ぐので、

怖くなって猿を叩いてみると、

猿たちは一気に静かになった。


 僕はこの時、きっと毒を食べたんだと思う。

母さんが食べてはいけないと言ったキノコも、

食べてしまった時はとても美味しく感じたんだ。


 そして、この猿を食べた時も、とても美味しく感じたんだ。




 だけど、おおきな音がして、

頭を殴られたような、

そんな気がしたんだけど、。なぜか、

からだがうごかなくなってしまった


 ぼくはただ、おなか。がすいて

おなかがす、。いていた、だけなんだ


 ああ、きっ、。とぼく。も、

このからふるな、。さるた、ちに

かてなかっ。たんだ、ろうなあ

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