8時ちょうどの、アズーッサ行き第2便で、私は貴方から、旅立ちます、、、のでしょうか?
「神父様、私の婚約者の様子がおかしいのです」
私の名前はジュリア、学園の高等部3年生で、男爵家令嬢です。
同級生の男爵家令息ヒサロ様と、恋をし、婚約しております。
今、神殿で神父様に、私の人生を相談しています。
神父様は、黒い祭服を着た、長身で、銀髪、銀の瞳のイケメンです。
「あの男爵家令嬢に声をかけられた令息たちは、婚約者の有無にかかわらず、金品を貢ぐようになってしまいました」
「さらに、あの男爵家令嬢は、素行の悪い人たちと、令嬢を食い物にし、、、令嬢が学園を辞めていきました」
「私は、あの男爵家令嬢が憎いのです」
神父様に、溜まっていた気持ちを吐き出しました。
「そうでしたか」
「まずは、貴女の寝不足を解消いたしましょう」
神父様は、私の健康を気づかってくれました。
「はい、私は、眠れない日が続いています」
「睡眠薬を渡します。1包で6時間眠りますので、決して用量を間違えないように」
「ありがとうございます」
「そして、この本を差し上げます」
神父様が差し出したのは、眠り続ける王子様にお姫様が口づけして目覚めさせる恋物語です。
神殿を出ようとした所で、学園を辞めていった令嬢の父親と、すれ違いました。
疲れた顔に、目の下のクマ、眠れない日が続いているようです。
「まるで、今の私を見ているよう、、、」
◇
今日は、16時から子爵家主催のパーティーです。
その前に、婚約者を屋敷に招き、応接室へ案内しました。
長身で黒髪、日焼けした肌、あの男爵家令嬢が狙いそうなイケメンです。
「ヒサロ様、今日は私をエスコートして頂けるのですか?」
赤いリップをつけ、勇気を奮い立たせて、訊ねます。
「出来ない」
やはりですか。
「パーティーの後、あの男爵家令嬢の夜会に行くのですか」
否定してくれることを願い、訊ねます。
「そうだ。今日、俺は、貴女との婚約を破棄する」
願いは、叶いませんでした。
「私への愛は、もう無いのですか」
目が虚ろな婚約者に訊ねますが、答える気持ちは無いようです。
「私は、パーティーには出ず、明日の朝、遠くの街へ旅立ちます」
決意を口にしました。
「それが、、、うぅ」
予定どおり、婚約者が眠り始めました。
彼が口にしたお茶には、睡眠薬を3包入れています。
「これで、パーティー、そして、あの男爵家令嬢の夜会は、欠席ですね」
「貴方が目覚める頃には、私は長距離馬車に乗っています」
眠る婚約者に顔を近づけて、唇に赤いリップをつけました。
「さようなら」
応接室を出て、外からカギをかけました。
「ヒサロ様は、一人でパーティー会場へ向かいました」
使用人に嘘を伝えます。
◇
翌朝、神殿前の停車場で、カバンひとつで、長距離馬車の到着を待ちます。
灰色の服を着た清掃ボランティアの女性たちが、噂話をしています。
「あの男爵家令嬢に、罰があたったらしいよ」
「ついに? ねぇ教えてよ!」
「素行の悪い令息たちと一緒に、逝ったらしいのよ」
「しかも、全員、衣服を着けていなかったのよ、驚きでしょ」
「あら〜、近頃の若者は、乱れてるんじゃない」
「ダメよね」
「私らの若い頃は、手もつなげなかったのにね」
「また、黒い影が、出たのかしら」
「最後は、すごく苦しんだ顔だったらしいのよ」
「うひゃー、自業自得よね」
昨晩、そんな事件があったのですね。
あの人は、眠らせて、応接室に閉じ込めたので、大丈夫だったはずですが、心配になります。
「朝8時発、アズーッサ行き第2便にお乗りの方、馬車が参ります」
停車場の係りの方が告げています。
あの人が目覚める時間です。
「きっと、あの人は来ないわね、、、」
何度も、屋敷の方角の道を、振り返ってしまいます。
「ジュリア様」
ふいに、清掃ボランティアの女性から、肩をたたかれました。
「馬車に乗るのを、あと1分、待って頂けませんか」
「え? 銀髪? まさか、フラン様!」
なぜか、体が動きません。
「そのまま、少し動かないでね」
「貴女の彼氏、あの方向音痴のおかげで、計画に少し遅れが出ました」
フラン様は、何を言っているのですか?
「神に、皆さんの願いが届きました」
「ジュリア!」
この声は!
あの人が、屋敷の方角とは違う道から、走って来ます。
「ヒサロ様!」
体が動き、カバンを落とします。
ヒサロ様が、抱きしめてくれました。
唇に、赤いリップがついたままです。
私は、赤の上に、淡いピンクを重ねます。
長距離馬車が、走り去って行きました。
「あら〜、近頃の若者は、乱れてるんじゃない」
「こうゆうのは、良いのよ!」
━━ FIN ━━
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この短編は独立していますが、フランが主人公の短編
「聖女は謙虚に成り上がる!婚約破棄の原因は、私が平民だから?あんたの浮気が原因でしょ?」
https://ncode.syosetu.com/n8552id/
と一緒に読まれますと、さらに面白いと思います。