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一年経って






「けいとさん、お茶しない? みやびも一緒なのだけれど」

「はい、マリさん」

 わたしが承諾すると、善波マリさんはにっこりした。


 測定から一年が経ち、わたしは高等部の生徒会に所属していた。あれから何度も戦闘にかりだされた。バッファーとして、デコイとして。

 わたしは長谷先輩に重宝されているらしく、今では戦闘の度にほぼ確実に編成されている。

 ほんの数パーセントの強化でも、それが迅速に戦場にあらわれるという点で、わたしにかなうバッファーは居なかった。ほかのバッファー達は、強化率は高いがコストがかかる。スキルが発動するまでに一分以上かかったり、資材を相当な量消費したりと、文字通りにコストがかかりすぎるのだ。

 その点でわたしは他の追随を許さない性能なのだった。勾玉の成長を繰り返した為、強化値は高くなり、かわりにコストは前にも増して軽くなっている。スキルの発動までの時間は二十秒、なのだが、この学園都市に結界を張っている宇枝先輩、もしくは一緒に討伐に行くことの多い長谷先輩のスキルとの兼ね合いで、実際には約十七.二秒前後で推移していた。視察に来た討伐軍のお歴々から、アンコモン詐欺、と皮肉っぽく誉められることも多々、ある。

 スキル発動までに時間がかかるバッファーも一緒に配備し、わたしが先にスキルを発動して味方を強化、敵の先陣をくじいたあと、ほかのバッファー達がスキルを発動させていき、わたしはデコイとして敵の標的になる。そんな戦術がとられることが多かった。わたしは初手ブースターであり、それ以降は攻撃型スキル持ちを庇う為の囮なのだ。




 この一年で、マリさんとは何度も一緒に戦った。

 彼女の武器は銃なのだが、それが拳銃だろうとライフルだろうと機関銃だろうと、第一のスキルの効果範囲内であればファニイに確実に命中させることができ、第二のスキル発動時間内であれば雑魚ファニイはほぼ一撃で倒せる。ボスファニイでも、数発あてれば戦闘不能にできた。バッファーを多数配備するという長谷先輩の戦術はうまくいっていて、ほかの場所の討伐軍よりも來多伎の討伐部隊のほうが多くのボスファニイを倒している。今では、ここでの戦術を真似して、バッファーを多く置く戦術がはやっているそうだ。

 その戦術には幾つかの利点があった。

 戦闘に負けても、失うものが少なくてすむ。多くの攻撃型スキル持ちを失うのではなく、多くのバッファーと少数の攻撃型スキル持ちを失うほうが、損害は少ないと云えるのだ。何故って、レアやスペシャルレアでくすぶっているバッファーは少なくない。そういうひとを補充すればすむ話である。

 多くのバッファーを配備しておけば、時間が経てば勝手に能力値を底上げしてくれる、というのも、()()()()ところだった。勿論、スキルが発動していない状態だけれどすでに狙われやすいバッファーをまもる普通人の部隊が必要になるが、そちらもやはりかえはきく。

 仮にバッファーが狙われてファニイがそちらへ行くなら、それはそれで、攻撃型スキル持ちがその分安全になる。バッファーのスキルが発動すれば儲けもの、のような考えが多くなっている。




 マリさんのコストは勾玉と時間と体で、第一のスキルは発動中常に勾玉が目減りし続ける。このスキルが、銃と名のつくものであれば射程内の敵に確実に命中させられる、というものだ。

 第二のスキルは、発動するまでに三十五秒かかる。更に、発動している時間は二十五秒なのだが、その間はファニイに与えられるダメージが三倍される。かわりに、引き金を一回ひくごとに、体のどこかに裂傷を負う。一発撃つごとにぱっと血が飛び散るのだ。飛距離を稼げるのでライフルを持っていることが多い彼女だが、銃を撃つ姿勢を保てないことも多々あった。それでも、第一のスキルがあるので、撃てば確実にファニイにあたる。

 怪我が致命的なものになるのを防ぐ為に、彼女はいつも、治療型スキル持ちと一緒に編成されていた。効果が大きく効果範囲もひろいみやびちゃん……乙津さんが、いつも一緒に居る。

 彼女の大きな攻撃力を更に底上げする為に、わたしを含めたバッファーも、同じ隊に編成されることが多かった。

 わたし達バッファーが底上げする「攻撃力」は、治癒型スキルにも関わっている。攻撃力にバフをかけると、治癒スキルの効果も上がるのだ。という訳で、わたし達はマリさんの攻撃力を上げると同時に、みやびちゃんの治癒スキルの効果も上げている。わたしが居ることで、ふたりの為になっている……と、思いたい。




 マリさんは、今ではわたしを「けいとさん」と呼んでくれるようになった。わたしも、「マリさん」と呼んでいる。みやびちゃんとも親しくなった。

「この間の防衛戦は問題があったわ」

 マリさんは憂えたように目を伏せる。彼女はきりっとした、きつめの美人なのだが、外見と違って性格はとてもやわらかい。古風な「よき女性」といった感じだ。孔雀門さんは、自分はがさつだから善波先輩のようになりたい、とたまに云う。彼女は彼女で、とても素敵なひとだ。外れアブソリュートと云われながら、勾玉がなくてもファニイと戦えるまでに自分をたかめているのだから。


 わたしは肌身離さず持っているヴァイオリンケースを、ひょいと抱えなおした。髪にはきちんと、リボンを結んでいる。高等部の制服はしっかりしたものだが、わたし達討伐部隊には、特別に丈夫な生地のものが支給されていた。大きな襟の後ろ側には、討伐部隊であることをあらわすランプシェードのようなマークが刺繍されている。


 來多伎の都市内は、宇枝先輩が結界を張ってくれているから大丈夫な筈だが、スキル効果が途切れる瞬間があってもおかしくない。六月にも、勾玉の供給が追いつかずに結界が縮小し、都市の外縁に大きな被害が出た。さいわい、死人は出なかったが、怪我人は多かった。

「孔雀門さんが頑張ってくれたから、助かりました」

「彼女達は勇敢ね」

 頷く。勾玉の供給ミスという些細なきっかけから、結界が縮小してしまって、突然始まった防衛戦だった。けれど、孔雀門さんや古府さんが即座にファニイに対応し、バフの為に配備されたわたし達バッファーもまもってくれた。バッファーは攻撃型スキルを持っていないことが多く、更に武器も「リボン」だの「脚立」だのだから、戦いようがないのだ。


 勾玉持ちであれば、攻撃型スキルがなくとも武器さえあればファニイを攻撃できる。普通人が銃で撃つよりも、勾玉持ちが棒きれで叩くほうがファニイにはダメージを与えられる、というのが定説だ。実際、武器種に合致しない武器を持って戦っても、まともなダメージが出ないらしい。

 それならランクがコモンでもみんなが勾玉を持っていればいいようなものだが、ファニイに狙われる危険とファニイに与えられるダメージとが釣り合わないので、コモンやアンコモンだと勾玉を捨てて機関銃を持ったほうが安全なのだ。

 孔雀門さんは武器が「ブローチ」だったので、勾玉を諦め、銃に持ち替えた。デコイをすることも考えたが、バッファーがデコイをしているからまもるほうも必死でまもるのだそうだ。外れスキルでまともに戦えないひとが、しかも居るからと云ってなにかになる訳でもないひとがデコイになっても、まもるほうの意欲が低下する。だから、孔雀門さんはそれも辞めた。

 彼女は、もし鼓舞型のスキル持ちだったら、コモンでもアンコモンでもそのままデコイとして動いた、といっていた。だからわたしが羨ましいと。その気持ちはわからない。わたしは、戦わないですむのなら戦わないでいたい。

 でも、マリさんやみやびちゃんや、一緒に戦っているひと達を見ると、助けたい、と思う。戦いはこわいけれど、わたしが居てみんなが助かるのなら、戦いの場に立っていたい。






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