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第六話 協力者

 翌日は月曜日で、司がポストアポカリプスにログインしたのは夜の九時過ぎだった。

 スミレはメニュー画面のフレンドのタブを開いた。

 フレンド欄にはタクとヤシャの二人の名前が表示されている。タクの名前はグレーアウトしており、ログインしていない事を示していた。一方、ヤシャはログインしているようだ。

 スミレはヤシャに『こんばんは』とメッセージを送った。するとすぐに、『こんばんは』と返事があった。

――今日は何をしてるの?――

――ダンジョン潜ってた。スミレは今入ったとこ?――

――うん――

――じゃあ、一緒にダンジョン行こうよ――

――でも、ヤシャはもう入ってるんでしょ?――

――別に、大したダンジョンじゃないからいいよ――

――じゃあ、お願いします――

 少しして、ヤシャからパーティー申請が届いた。スミレはそれを承諾し、『申請者の元へワープする』というボタンを押した。

 スミレはヤシャがいる場所へワープした。そこはフィールドエリアだ。ヤシャは、入っていたダンジョンから出てくれたようだ。

「こんばんは」

「こんばんは」

 二人は改めて挨拶を交わした。

「どこ行くの?」

 スミレはヤシャに尋ねた。

「せっかくだから、また悪魔の洞窟行ってみようよ」

「悪魔の洞窟かあ……。今日はあまり時間かけられないから、二時間ぐらいで行けるところまでになっちゃうかも」

 昨日は六時間を費やしている。明日も仕事だから、今日はそこまでの時間をかけるわけにはいかなかった。

 しかし、次にヤシャが口にしたのは、スミレが思ってもいなかった言葉だった。

「二時間あれば、昨日よりももっと深いところまで行けるよ」

 その言葉に、スミレは驚いた。

「え?」

「昨日もあそこまで行くのに一時間ぐらいだったし」

 スミレは、改めて高レベル者との実力の差に愕然とした。

「一時間⁉ 一時間であそこまで行けるんだ……。全然違うじゃん……。なんか落ち込むかも」

「逆にスミレが今のレベルであそこまで行けた事のがすごいと思うけどな。普通、心折れるでしょ。そこまで時間かけて、あそこまでたどり着いたのがすごいよ。スミレって、結構根性あるタイプ?」

「まあ、根気強い方ではあるかな……」

「俺と真逆だね。俺は全然頑張らないタイプだから」

「その割に、レベル高いじゃん」

「遊びながら少しずつやってここまでになったんだよ。結構古参だし」

「そうなんだ。ポスアポ始めてどれぐらい?」

「三年ぐらいかな」

「そんなに……」

 改めて、このゲームでレベルを上げるのは大変なのだと、スミレは実感した。

 すると、スミレの気持ちを察してか、ヤシャが言った。

「大丈夫。スミレはもっと早くレベルアップできるよ。なんせ、俺がいるからね」

 ヤシャはスミレに協力してくれるつもりのようだ。なぜなのだろうと、スミレは思った。ヤシャにとってはなんのメリットもないはずだ。

「なんで私に協力してくれるの?」

 スミレは素直にヤシャに尋ねた。

「なんでって、そっちが頼んできたんじゃん」

「それは頼んだけど……。わたしたち会ったばかりだし、どうして協力してくれるのかなって思って」

「俺、このゲームは結構やり尽くしてて、最近は惰性っていうか、作業っていうか、とにかく、なんか楽しくなくなって来てたんだよね。だから、スミレと一緒にいたら、初心を思い出すかなって思って。まだポンポンレベル上がるでしょ? なんか、それ見てるだけでも楽しそうじゃん」

「そうなんだ……」

 その気持ちは分かるかもしれないとスミレは思った。

「そういうわけだから、一緒に楽しく遊ぼうよ」

「うん」

「じゃあ、行こう」

 そうして、二人は悪魔の洞窟に向かった。

 悪魔の洞窟の第一階層に入ってすぐに、二人は敵と遭遇した。コウモリ型の魔物三体だ。同じ見た目でも、試練の洞窟のコウモリとは強さが格段に違う。

 敵の姿を確認すると、敵が近づいて来る前にヤシャが素早く敵に近づき、あっという間に一体を一撃で倒した。そして、立て続けに残る二体も斬り捨てた。

「すごい……」

 スミレは、ヤシャの強さを目の当たりにし、呆然とした。

「行こう」

「うん」

 第一階層、第二階層は、ボスですらヤシャの敵ではなかった。

 戦士タイプには必殺技がある。通常攻撃をする度にゲージが貯まり、ゲージが一杯になると発動する事ができる技だ。しかし、ヤシャはこの必殺技を使わずに、第二階層のボスまで倒した。

 第三階層のボス戦で、ヤシャは初めて必殺技を繰り出した。それは、闇の剣技『暗黒殺法』という技で、黒い衝撃波を放ちながらの広範囲攻撃だった。第三階層のボスはこれで一撃だった。スミレ一人なら、このボスを倒すのに十分はかかる。

 第四階層に入ったところで、スミレはヤシャに言った。

「強すぎて、びっくりなんだけど……」

「まあ、そこそこのレベルだからね」

「あの時、私の助けなんていらなかったよね」

 スミレは、ヤシャと初めて会った時の事を思い出し、なんだか恥ずかしくなった。

「あの時、スミレは純粋に俺を助けようとしてくれたんでしょ?」

「うん」

「それなら、その気持ちがうれしいよ」

 スミレは、

《やさしい……》と思った。

 第四階層でも、ヤシャの戦いは全く危なげがなかった。

 スミレも、もちろん加勢したが、敵を倒しているのはほとんどヤシャだった。

 ヤシャの言っていたとおり、前回スミレとヤシャが出会った第八階層のボスまで一時間でたどり着いた。この辺りまで来ると、敵を一撃で倒すという事はなく、しっかりと戦闘をしなければならない。

 ヤシャは半身半獣のボスに向かい、剣で何度も斬りつけた。ヤシャは闇属性だから、敵に攻撃力と防御力がダウンするデバフがかかった。

 スミレも、微力ながらダークレインで加勢する。

 攻撃を続けるうちに、ヤシャの必殺技ゲージが貯まり、暗黒殺法を放った。黒い衝撃波を伴う攻撃を受け、ボスは力尽き、その場から姿を消した。

 二人は第九階層に入った。

 ヤシャがスミレに、

「あと二階層行ったら、今日はやめようか」と言った。

「うん」

「十一階層から敵が強くなるから、時間ある時に行こう」

「敵が強くなってもまだ行けるの?」

「十五階層までなら行けるよ。無理すればその先も行けるけど、死ぬ危険が出てくるから」

「十五階層まで一人で行けるの⁉」

「うん」

「すごい……」

 スミレは感心すると同時に、ヤシャに申し訳なく思った。本来なら一人で全部受け取れるはずの経験値が、スミレとパーティーを組んでいる事で二分の一になってしまう。

《ちょっと図々し過ぎるよな。今後は遠慮しないと……》

 スミレはそんな風に思った。

 二人は第十階層のボスを倒すと、悪魔の洞窟から脱出した。

 ヤシャがスミレに、

「まだ二時間は経ってないけど、今日はもうやめる?」と尋ねてきた。

「うん。今日はもうやめとく」

「そっか。じゃあ、また明日ね」

 それを聞いたスミレは驚いた。

「え? まさか、明日も付き合ってくれるの?」

「うん。毎日ログインしてるんでしょ?」

「いや、そうだけど……、さすがに毎日付き合ってもらうのは申し訳ないから、いいよ」

 スミレは遠慮して言ったが、ヤシャは気にしていない様子だ。

「用事がある日は付き合えないけど、それ以外はヒマしてるし、逆に一緒に遊んでくれた方がうれしいんだけど。さっきも言ったでしょ? もちろん、スミレが嫌なら仕方ないけど」

「嫌って事はなくて、むしろ私的にはうれしいけど……」

「じゃあ、いいよね? お互いログインしてる時は連絡し合おう?」

「うん。分かった。ありがとう」

 スミレは恐縮しつつも、ヤシャの申し出をありがたく思った。

 それからほとんど毎日、スミレはヤシャとパーティーを組んで、悪魔の洞窟を周回した。土日は十一階層より下にも進み、ヤシャの言っていたとおり、第十五階層まで到達した。

 こうして、獲得経験値が倍増したスミレは、順調にレベルアップしていった。

 ある日、スミレは改めてヤシャに礼を言った。

「いつもありがとう。ヤシャのおかげで、レベルが上がるスピードがすごく早くなったよ。本当に助かってる」

「スミレ、だいぶ強くなったよね。でも、油断は禁物だからね? 攻撃を受けたら危ないから、敵に近付き過ぎないように気を付けて。ボス戦は俺に任せて、スミレは無理して戦わなくても大丈夫だよ」

 スミレは、

《やさしいなあ……》と改めて思った。

「私の力じゃ全然役には立たないと思うけど、さすがに全部ヤシャに任せて見てるなんてできないよ」

「そっか。でも無理しないでね。俺に任せてもらって、全然大丈夫だから」

「ありがとう。こうやって一緒にパーティー組んでもらって、本当に感謝してる。なんだか、申し訳ないと思ってるし……」

「申し訳ないとか、全然そんな風に思う事ないよ。前も言ったけど、俺、楽しいし」

「ありがとう」

 スミレはヤシャに感謝した。

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