第四話 ダンジョン攻略
鍛錬の洞窟内部は、最初一本道だったが、少し進むと道が二手に分かれた。
タクが、
「まずは左から行きましょう。左の方が先に行き止まるんで」と言った。
「このダンジョン、結構来てた?」
「何度か来ましたよ。そんなに広いダンジョンじゃないんで、道もすぐ覚えられますよ」
「そうなんだ」
「あ、敵です!」
二人の行く手にコウモリ型のモンスターが二匹現れた。
「大丈夫かな……」
敵が二匹いる事に、スミレは若干の不安を覚えた。最序盤で死にまくった記憶が蘇る。
「あれは弱いんで大丈夫ですよ」
タクの言葉に、スミレは少し安心した。
まずは、タクが剣で一匹を一撃で仕留める。
スミレも、もう一匹にダークレインで攻撃をした。少しHPが残ったが、攻撃力ダウンの効果が付き、タクが攻撃を受けてもほとんどダメージを受けなかった。
そして、タクがもう一撃加え、敵を倒した。
「ほんとに弱かったね」
「その分、経験値もそんなに入らないですけど。もう少し強い敵と戦いたいですね」
「ちょうど良く、ほどほどに強い敵がいいな」
「ですね。もう少し奥に行けばいますよ」
二人は敵を倒しながら奥へ進んで行った。
しばらく進むと、行き止まりの先に宝箱があった。スミレは、宝箱に遭遇したのは初めてだから、目を輝かせた。
「宝箱だ!」
「開けてみて下さい」
「でも、私が手に入れても死んだら落としちゃうでしょ? タクに持っといてもらった方がいいような気がする」
「分かりました。じゃあ、開けますね」
タクが宝箱を開けた。中から『薬草』が出てきた。薬草はHPを回復する事ができるアイテムだ。アイテム屋で普通に買う事ができる物だから、正直言ってしょぼい。
「大した物じゃないね……」
「レベルの低いダンジョンですから、こんなもんですよ。じゃ、行きますか」
スミレとタクは、ダンジョンを進んで行った。
タクが言っていたとおり、奥に進むほど敵が強くなっていった。それでも、二人なら死なずに進んで行くことができるレベルだ。
「この先にはこのダンジョンのボスがいます。でも多分倒せると思いますよ。スミレさんは攻撃されると結構ダメージくらうと思うんで、ダメージ受けたらすぐに回復して下さい」
スミレは課金しているから、回復アイテムを充分に持っている。
「分かった」
スミレはうなずいた。
二人は奥へ進んで行った。
向かった先に、大きな蜘蛛型のモンスターがいた。
スミレは敵と距離を取りながら、ダークレインで攻撃をした。
タクは素早い動きで連続攻撃を加える。
敵は八本の足で攻撃をしてきた。近距離の攻撃は近くにいるタクに向かって放たれたが、タクは攻撃をうまくかわすし、攻撃を受けてもそこまで大きなダメージを受けなかった。
しかし、敵は、時折蜘蛛の糸を放ち、遠距離かつ広範囲な攻撃を仕掛けてきた。
この攻撃はスミレの方まで及んで来るし、広範囲の攻撃なのでかわすのが難しい。この攻撃を受けると、スミレのHPは半分以下になるため、一度くらうと次のターンは回復が必須だ。
スミレが放つダークレインにはデバフ効果があるが、レベルが自分より高い相手の場合、デバフが掛かる確率が下がるため、なかなか掛からない。
それでも、少しずつ敵のHPを削っていき、やがて二人は戦いに勝利した。
外の敵に比べて遥かに多い経験値を得て、スミレは久しぶりにレベルアップした。
「やっとレベル上がった。長かった……」
「レベルが上がるごとにレベルアップが大変になりますからね。でも、スミレさんのレベルならまだ上げやすいと思いますよ」
「地道にやるしかないね……。初心者向けのダンジョン他にもあるんでしょ? 教えてもらえる?」
「いいですよ」
スミレはタクから、難易度の低いダンジョンをいくつか教えてもらい、タクの予定が空いている日は一緒にダンジョンに潜ってもらった。そして、タクと合流できない日も、一人でダンジョンに潜り、ボスと遭遇する手前まで行って戻るを繰り返して経験値を稼いだ。
そうして、レベル一五となったスミレは、改めて鍛錬の洞窟を訪れた。そろそろ、一人でボスを倒せるようになったのではないかと思ったからだ。
スミレは一人、ダンジョンの奥へと進んで行った。もうこのダンジョンの道はすべて覚えている。
最奥には、例の蜘蛛型の魔物がいた。
ダンジョンの敵は一度倒しても、一定時間を過ぎると復活する仕様になっている。
また、ポストアポカリプスは不特定多数のプレイヤーがプレイするゲームだから、他のプレイヤーに遭遇する事もあるし、同じ敵を同時にターゲットにしてしまう事もある。
ターゲットが被った場合は、自分がダメージを与えた分しか経験値が入らなくなるから厄介だ。
パーティーを組んでいる人とは均等割りになるが、赤の他人の場合は、与えたダメージの割合に応じた経験値配分になってしまう。
スミレはドキドキしながらここまで来たが、幸い他のプレイヤーはいなかった。
《途中で割り込まれないといいな》
スミレの戦いはどうしても長期戦になる。長い時間をかけても一人で敵を倒して、経験値を独り占めしたかった。
スミレはモンスターに近付いた。
音楽が変わり、戦闘モードに入る。
スミレは、ダークレインを放った。タクと共に初めて戦った時よりも、だいぶダメージを与える事ができるようになっている。
スミレは敵の攻撃を避けつつ、待機時間を凌いで、再びダークレインを放った。
それを数回繰り返すうちに、蜘蛛の糸の攻撃を喰らう事もあった。
受けるダメージの方も、初回よりだいぶ減り、HPが三分の二ぐらいは残るようになっている。だからすぐに回復しなくても、次のターンも攻撃をする事ができた。
《勝てる!》
スミレは夢中で戦い、だいぶ時間は掛かったが、一人でボスを倒す事に成功した。
「やった!」
スミレは初めて一人でボスを倒し、ガッツポーズをした。レベルアップするまでには至らなかったが、大量の経験値も獲得できた。
《よし。この調子で経験値稼ぐぞ》
スミレは俄然やる気を出した。
翌日、スミレは「鍛錬の森」を訪れた。
名前に「鍛錬の」と付くダンジョンは初心者向けの難易度の低いダンジョンだ。
洞窟は道があるが、森ははっきりした道がないため探索の難易度が高い。
道中の敵はスミレ一人でなんとかなったが、ボス戦は自信がなかった。
《死ぬかもな……》
スミレはある程度死を覚悟しつつ、ボスに近づいて行った。
鍛錬の森のボスは熊型のモンスターだ。
スミレはモンスターに向かってダークレインを放った。相変わらず、与えられるダメージは少なめだ。
魔法には射程範囲があるから、ある程度は敵に近づく必要がある。そして、敵に近づけば攻撃を受けるリスクが高まる。
スミレはできる限り敵の攻撃を避けたが、避けきれずに攻撃を何発かくらった。
アイテムで回復をしながら戦ったが、回復しきれていない間に再度攻撃をくらい、HPがゼロになってしまった。
《しまった!》
スミレはその場に倒れ、持っていたアイテムをその場にすべてドロップして、始まりの広場に戻された。
スミレはため息をついた。
「やっぱ死んだか……」
そのまま、アイテム屋へ向かい、失ってしまったのと同じぐらいの量の回復アイテムを購入した。
しかし、その日はもう一度ダンジョンへ向かう気力が無くなってしまい、そこでログアウトした。
翌日も鍛錬の森のボスに挑戦し、二度死んで、三度目でようやく倒す事ができた。
「経験値は鍛錬の洞窟とそんな変わらないからコスパ悪いな……。鍛錬の洞窟周回した方が効率いいか」
分かってはいても、一度は攻略しておきたいと思ってしまう。
スミレはその翌日からは「鍛錬の山」に挑戦し始めた。そこも初日はボスを攻略できず、何日かかけてやっとボスを倒す事ができた。
そうして、「鍛錬の」と名のつくダンジョンを一つずつ攻略しながら、鍛錬の洞窟も周回した。
それを繰り返すうちに、スミレのレベルは二〇まで上がった。レベル二〇になると、ダークレインが射程範囲内のすべての敵に攻撃できる全体攻撃魔法になった。これはザコ戦では大きい。
その後もダンジョンを周回し続け、スミレはついにレベル二五となり、タクのレベルに追いついた。
タクは驚いた様子を見せた。
「すごいですね。もう追いつかれちゃいました」
「毎日コツコツやってたから」
「でも、レベル上がりにくくなりましたよね?」
「うん。かなり。もっと難易度高いダンジョン行かなきゃダメかも」
「死ぬ確率高まりますけどね……」
「仕方ないよ。実は、『悪魔の洞窟』に行ってみようと思ってるんだ」
「ええ⁉」
タクはかなり驚いた様子だった。
それもそのはずで、悪魔の洞窟はスミレやタクのレベルからすると、かなり難易度の高いダンジョンだからだ。
「低層階ならいけるんじゃないかと思って。経験値ゲットして、逃げてを繰り返せば、結構稼げるでしょ?」
悪魔の洞窟には階層があり、一階から二十階までとなっている。階層が高くなるにつれ、出現する敵が強くなっていく。
「いや、いきなりあそこじゃなくて、もう少しレベルが低いところを周回した方が良くないですか?」
「なんか、ちまちま経験値稼ぐのが面倒になっちゃって。大丈夫。これからは私一人で行くから」
「ええ⁉ スミレさん一人でですか⁉ なおさら厳しいですよ!」
「まあ、死ぬだろうけど、何度かやってたらいつか行けるでしょ」
「普段はそんな事しなさそうなのに、ゲームだと結構攻めるんですね」
「ハハ。そうかもね。今までタクには結構付き合ってもらっちゃったからさ。もうこれからは無理にログインしなくても大丈夫だよ」
「ほんとに、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
こうして、スミレは一人で悪魔の洞窟に挑む事にした。タクの言うとおり、かなり無謀な挑戦ではあったが、全体攻撃ができるようになり、その辺のザコには負けなくなったスミレは、少し自信が付いてきていた。