エピローグ
この思いは、どうしたって止められない――。
カスミは走っていた。
どんなに、みじめな思いをしようとも――。
思い通りにいかず、打ちひしがれることになろうとも――。
――あの場所に戻って……。
あの日、口にできなかった言葉を伝えなければならない――。
誰にどう思われるとか、どう見られるとか――。
――そんなことは、私の外の世界の話だ。
大事なのは、私がどうしたいか――。
――だから、あの場所に戻るのよ……。
そして、伝えるの……ずっと言えなかった、あの日の言葉を……。
街中をカスミと同じ制服を着た女子生徒たちが歩いていた。ふと、ひとりの女生徒が足を止め、車が行き交う車道の向かい側を見つめる。
「どうしたの、トモコ?」
話しかけられ、トモコは友達の方に顔を向けた。だが、すぐにまた視線を車道の反対側に戻し、今度は探るように、きょろきょろと辺りを見回す。
「ううん……何でもない……」
トモコは小走りで友人たちに追いついていった。走りながら、思う――。
――どうしてだろう……。
わたし……ずっと、あの子のことを……。
誰かに呼ばれたみたいに、トモコはもう一度、後ろを振り返った。
カスミはドアを叩いた。
ドンドンと、何度も叩いた。
「はいはい、ちょっと待ってね……」
ぱたぱたと足音が近づいてきて、玄関の扉が開く。母親が立っていた。
言葉を失ったように、母親は扉の外を見つめていた。
カスミは、母親の目をまっすぐに見つめる。もう顔を逸らしたりなんかしない。
そして――。
ずっと言えなかった、あの言葉を口にする……。
「ただいま……お母さん……」
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
「ヘイジーワールド」完結です……と言いたいのですが、まだ物語は続きます。
当初、中編三部作で考えていて、書き始めた後、第一部と第二部、カスミとアキラの物語を合体しました。
ですので、第三部、トモコの物語はまだ語られていません。
トモコと、ある青年との物語。カスミとアキラも登場します。
いつ頃になるか分かりませんが、必ず書きたいなと思っています。
ご期待ください。




