#9・望むことは1つです
話しきったわたしは、手のひらにじっとりと汗をかいていることに気づいた。
(言った・・・言ってしまった)
元からすべてを告白することは決めていた。
騙すことは本当に嫌だった。
しかも、わたしに優しくしてくれた人たちだったから。
ほんの短い時間だったけど、こんなに優しくしてもらったのはサラ以外では初めてたったから。
「−−−貴女は、その話がどんなに重いものか理解しているのか?」
低い声に、口調も鋭い。
さっきまでのサイラス様はいない。
当たり前だ、わたしは今皇太子の妻から罪人へと変わったのだから。
「もちろん、理解しております」
「貴女の両親は、王族不敬罪にあたる。しかも、王族だ。報復として戦争になるとは考えなかった?」
「いいえ、戦争になるだろうと思っていました」
「国民が巻き込まれると分かっていてもですか」
わたしは、ソファから立ち上がって、反対側に座るサイラス様の側まで行く。
そして、その場に膝をつく。
「−−−わたしは、先に話したとおり、望まれず生まれた私生児です。両親はもちろん姉もわたしを愛してはくれませんでした。また、国民もわたしの存在をもちろん知らない−−−」
よくよく考えてみると、国民は関係ないのかもしれない。
でも、わたしは、両親が憎い。姉が憎い。
そして、国民も−−−憎いのだ。
「わたしは、わたしの国の全てが嫌いなのです。憎いのです。−−−この世に生まれた自分ですら、憎いのです」
「レジナ嬢、いや、ルナ嬢」
「この先の判断は全てサイラス様に委ねます。どうか、どうか−−−わたしを死刑にしてくださいませ」
わたしは、深く深く床に膝をついたまま頭を下げた。
「−−−はぁ」
小さなため息が聞こえる。
「ルナ嬢。顔を上げてください」
「はい」
顔を上げると、なぜか呆れたようなサイラス様の表情だった。
「貴女が話したいことはわかりました。とりあえず、今日はお休み下さい」
口調が、話す前に戻っている。
あれ、と思いながらわたしは言葉を紡ぐ。
「わたしの死刑はいつ頃になりますか」
「・・・この話は、私しか知らない・・・一度話し合いを持ってから決めさせていただく」
それは、もちろんだろう。
家族、家臣と話していつ父王を討ちに行くかなど計画をたてねばならないだろうから。
「わかりました」
「・・・貴女は、自分が死ぬことが怖くないのか」
「死が怖いという感覚は昔に捨てました」
すると、また、サイラス様はため息をついたかと思うと、立ち上がる。
「いいですか、この話は私が最終決定を話すまでは黙っていること・・・いいですね?余計な不安を侍女たちに感じさせないように」
「わかりました」
「それでは」
サイラス様が部屋を出ていく。
一人部屋に残ったわたしは、その場にへたり込む。
「ふぅ・・・言ってしまった。」
自分の手を見れば、小刻みに震えている。
真実を告白することは緊張した。
でも、わたしは間違ったことをしたとは思っていない。
「これで、やっと・・・わたしは死ねるんだ」
フッとわたしは鼻で笑う。
父王は、今頃おとなしく言うことを聞いて嫁いだわたしのことを肴に酒を呑んでいるに違いない。
わがままな姉もほくそ笑んでるだろう。
「−−−ざまぁみろ」
あなた達の思い通りに全てが進むわけないじゃない。
さぁ、今からが破滅の始まりよ。
一緒に地獄に堕ちましょう。