#8・真実を伝える時
「話があると、言っていましたね?」
サイラス様からのその言葉に、わたしはドキッと心臓が跳ねた。カップソーサーに戻そうとしていたティーカップがカシャンと音を立てる。
幸いにもあまり入っていなかったので、溢れることはなかった。
いざ、話すとなると緊張する。
だって、楽しいことでもなんでもない。
すべてを壊し、怒らせ、破滅へと向かうだろう内容なのだから。
(あぁ、サラが側にいてくれたらな)
心強い味方だったのに、でも、サラがいたらわたしはこの話をすることは出来なかった。
こういうことを矛盾しているというのだろうか。
「−−−は、い」
声が掠れた。
喉がカラカラに乾いている。
思った以上に緊張しているみたいだ。
ルナ、なんでこんなに緊張しているの?
ただ真実を伝えるだけ。
なんのために素直にこの国に来たと思っているの?
わたしを今まで蔑ろにして、いないものとしてきたのに、姉のわがままで当たり前のように言うことを聞かせられて、嫁がされた。
サラ以外誰もわたしのことを見てくれなかった。
そのことに対する復讐をするんでしょう?
−−−その代償に、自分がどうなるかなんてもちろん承知の上で、むしろ、望んでいることなんだから。
自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、心臓は、心は落ち着いてくる。
口の中を潤すために紅茶を一口飲んだ。
「−−−今から、わたしがお話することは全て事実です」
ひと呼吸おいて、わたしは口を開いた。
「わたしは、わたしは−−−レジナ=ヴィ=ビクトールではありません」
「−−−−−−ほぅ」
サイラス様の声のトーンが、表情が変わった。
穏やかで笑みを浮かべていた表情が、冷たく無表情に。
威圧感すら感じるサイラス様は、やはり一国の皇太子だった。
「わたしは、本当はルナ=ヴィ=ビクトール。レジナ=ヴィ=ビクトールの異母妹です」
わたしは、すべてを話した。
レジナが嫁ぎたくないからとわがままを言ったので、わたしが身代わりにレジナになりすまして嫁ぐことになったこと、どこからバレるかわからないから誰一人と付き人を連れてきていないこと、妹ではあるが自分は、侍女の子で身分相応ではないことなどすべてを話した。
その間、サイラス様はただただ静かに聞いていた。
「−−−わたしが、伝えたいことは全てです」