#7・真実を告げる前の一時
−−−コンコンコン。
自分が思っていた以上に移動で疲れていたらしく、ソファに座って体を休めていたわたしは、ドアのノック音に背筋を伸ばす。
「はい」
「サイラスです。入っても?」
「あ、もちろんです」
律儀にノックして様子伺いまでするサイラス様。
ゆっくりとドアを開けて中に入ってきたサイラス様は、疲れているように見える。
「調子は、いかがですか?」
「はい、ゆっくりと休ませて頂きました・・・サイラス様の方がお疲れに見えます」
「そうかな?今日はそれほど仕事はしてないと思うけど・・・」
サイラス様は、ソファに座り息を吐く。
やっぱり、お疲れの様子だ。
そういえば、サイラス様が来る前にハンナがティーポットを乗せたワゴンを持ってきてくれていた。
わたしが注いでもいいかしら?
紅茶の注ぎ方は、サラに教えてもらっていたから自分でできる。
サラは、事あるごとにわたしに色々なことを教えてくれた。
ここで、成果が発揮できるとは思っていなかったけど。
サラがしてくれていたように、なるべく音を立てないように静かに紅茶の準備を始める。
「!貴女が淹れてくれるのですか?」
「あ、はい。お嫌じゃなければ・・・」
「ありがとうございます」
ふわりとした笑み。
この笑みに、惚れた人はきっと数しれないと思う。
(わたしが、本物のレジナだったら)
すぐにサイラス様に心を奪われて、嫁いできたことを幸せに感じていたことだろう。
「−−−お待たせいたしました」
ティーカップに注いだ紅茶をサイラス様の前に置く。
サイラス様は、カップを持ち、一口飲んでくれた。
誰かに飲んでもらうのはサラ以外初めて。こんなにドキドキするものなのね。
「−−−おいしい」
「良かったです・・・」
ホッと息を吐く。
口に合って良かった。
「とても上手ですね」
「ありがとうございます」
一口、また一口とサイラス様は気に入ってくれたみたい。
「疲れも吹き飛ぶようです」
「やっぱりお疲れではないですか」
「あ、いや、これは言葉の綾というか・・・」
しどろもどろになるサイラス様に、わたしは可愛らしく感じて小さく笑う。一瞬、サイラス様は目を丸くして、笑みを浮かべる。
「レジナ嬢、ここには貴女の両親はいないし、異国の地で頼りになる知人もいないと思います。でも、安心して心を開いて過ごしてもらえたら私も、皆も喜びます」
「サイラス様・・・」
「話があると、言っていましたね?」
サイラス様は、本当に優しい人だ。
こんなわたしまで気遣ってくれる。
だからこそ、こんな茶番は長続きさせてはいけない。
わたしに優しかった人たちを騙したくはないから。
−−−決意を、固めた。