#60・サイラスの悩み
ドサッとソファに勢いよく座り、体を沈ませる。
天井を見ながら深く深く息を吐いた。
腹の辺りから沸々と怒りの感情がこみ上げてくる。
さっき爆発しなくて良かった。よく堪えた自分を褒めてやりたい。
ーーールナが5日も眠ったままであったのは、本当に生きた心地がしなかった。
レジナに酷く傷つけられた体は限界を迎えてしまったのではないか。
このまま目を開けることはないのではないか。
そんな恐怖に捕らわれながら過ごした5日間だった。
だから、ルナが目を覚ましたと聞いた瞬間に、やっていた仕事をほっぽり出してルナの部屋に急いだ。
幸いにも言葉の受け答えもしっかりとしていたので、後遺症などの心配はいらないようであったが、ルナの口からは、ビクトール国王のことばかりであった。
隠すことなく真実のみを伝えた。
ここで偽る必要もない。
それに、ルナがビクトール国王やレジナから解放されるならば安心だ。
ルナの願いは形を変えたが現実となったのだから。
これからは、レジナと偽ることなく本名であるルナで過ごすことができる。
これで、しがらみも何も無くなったので穏やかに側にいてくれるだろうと思っていたのに、彼女の口からは「自分の死刑はいつになるか」だった。
思わず舌打ちをしたくなった。
初めからあの手この手でその話題を避けてきていた。
願わくば忘れてくれたり思い直してくれていたら良かったのだが、存外彼女の自分の死に対する願いは強固なものだったらしい。
話を変えようとしても話を戻すし、体調が良くなってからと言っても反論してくる。
「ーーーー怒鳴らなかっただけ、許して欲しい」
本当は、怒りたかった。
まだ、そんなふざけたことを言っているのか、と。
そして、ルナが死ぬ必要はないだろう、と。
現にそうだ。全ての元凶はビクトール国王やレジナ、そして周りの環境だった。
ルナは被害者なのだ。
ーーーーそれに、始まり、結果がどうであれ、課程がどうであれ、この国に嫁ぐことになったのはレジナではなく、ルナに変わりは無かったのだ。
そう、自分があらゆる手を使って仕向けた。あちら側にこちらの手の者を潜ませ秘密裏に。
このことをルナに話すことは一生ないだろう。
知る必要もないことだから。
「ーーー中々、思い通りにいかないものだな」
はぁ、とまたため息。
とりあえず、ルナとの先ほどの会話で分かったことは、死刑を望む彼女を今度は生きていたいと考えを改めて貰えるように自分は尽力を尽くさなければいけないことだった。




