#6・素敵な部屋、素敵な人たち
サイラス様は、わたしのお願いを快く受け入れてくれた。
荷を解き、ひと息ついた頃と言うことでサイラス様と何人かの侍女たちがわたしを部屋へと連れて行ってくれた。
「ここが、これから貴女が使う部屋です」
見せられた部屋は、とてもきれいで豪華な部屋だった。使われている調度品はきっと一級品で、輝いている。派手すぎず落ち着いた色合い。
ビクトール国でわたしが使っていた部屋とは真逆だった。
隣はサイラス様の部屋。
主に執務室として利用されているらしい。
なので、生活の半分はわたしと過ごすことになる、とのことだった。
(父王と、違うんだ)
サラから聞いたことがある話には、父王は基本一人の部屋で過ごし、気が向いたときにだけ王妃の部屋に行っていたらしい。
食事の時は顔を合わせるらしいが、それ以外一緒に過ごすことは稀だとも聞いたことがある。
(でも、ここでは違うんだ・・・)
一緒の部屋で過ごして、離れるといっても隣の部屋で執務を行うから会おうと思えば会える。きっとそれは、夫婦として当たり前のことなのだと思う。
「気に入ってくれましたか?」
様子を窺ってくるサイラス様にわたしは頷いた。
「とても、素敵です」
わたしの言葉にサイラス様は笑みを深め、侍女たちも安堵しているようだ。
それだけで、わたしのことをよく考えてくれたことが分かる。
いや、『わたしのこと』ではなく『レジナのこと』をだけれど。
「旅の疲れもあるでしょう。話は執務の後でもいいですか?」
「あ、はい」
「こんな日に申し訳ない」
サイラス様は皇太子だ。
忙しいに決まっている。
時間が惜しいだろうに、わたしをわざわざ出迎えてくださるなんて。
「こちらこそ、お忙しい中迎えてくださりありがとうございます」
「気にしないでください。そうしたかっただけなので」
では、後ほど。とサイラス様は執務室の方に行ってしまった。
部屋に残ったのはわたしと数人の侍女たち。
「−−−レジナ様。改めてご挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか?」
少し年嵩の侍女が申し出てきたので、わたしは頷いた。
「ありがとうございます。本日よりレジナ様にお仕えさせて頂くことになりました。ハンナと申します」
ハキハキと自己紹介をするハンナからは、自信が満ち溢れているように感じる。
ハンナから、残りの3人の説明を受ける。
「基本、私を含む4人でお世話を致します。何か不都合などがございましたらすぐにお知らせください」
「はい、ありがとう」
わたしも自己紹介したほうがいいかな、と思ったけれど、どうせ長くはここにはいない。最低限名前だけで十分だろうと思う。
「何か気になることなどはございますか?」
「特にはないわ・・・少し疲れてしまったので、一人になっても?」
「かしこまりました。では、ゆっくりとお寛ぎください」
侍女たちは一礼して部屋から出ていく。
一人になったわたしは、ふぅ、と息を吐いてから改めて部屋を見渡す。
本当、素敵な部屋だ。こんなものたちに触れる機会なんて一生ないと思っていた。
サラが見たら大喜びだっただろうな。ビクトール国のわたしの何もない部屋をいつも嘆いていたから。
「ソファに座ってみてもいいかしら」
恐る恐るソファに腰掛けてみる。
ふかぁと体がソファに吸い込まれていく位に柔らかい。
「ふふ、気持ちいい」
ソファに見を預けて感触を楽しむ。
最初で最後になるだろう今だけを甘受しよう。
それくらいは罰が当たることはないよね。