#51・古屋の中
ズキッと頭が痛んで意識が浮上する。
体がヒンヤリと冷たい。
指すら動かすのが億劫で、ぼんやりとする視界の中、何度も瞬きをゆっくり繰り返すと、見慣れない天井がはっきりと目に映った。
(ここ、どこ・・・?)
目だけ動かして確認すると、どうやら古屋のような場所みたいだ。
薄汚れた床に家具などは何もなく。ドア以外窓すらない。壁の板と板の間は僅かに隙間があるのか風が入ってくる。
どうして、わたしはこんな場所にいるのか。
記憶を辿ると、最後の記憶は部屋にいて手紙を持ってきたと来訪者が訪ねてきた所まで。
ということは、来訪者がわたしをここに連れてきたということだろうか。
(一体、何のために?)
両手、両足と縛られてはいない。
頭痛と体の気だるさ以外自由を奪われているわけでもない。
(どうしよう・・・)
状況把握がイマイチ出来ていない。
わたしがここに連れてこられてどのくらいの時間が経ったのか、わたしが部屋からいなくなったことに誰か気付いたのだろうか。
グルグルと思考を巡らせていると、古屋のドアが突然開いた。
ビクッと体を大きく震わせる。
誰、と体が警戒して強張る中、姿を見せたのは、思いもよらぬ人だった。
「---あら、もう目が覚めたの?」
「え、」
「ふふっ、こんな薄汚れた床に座り込んで貴女にとってもお似合いだわ」
フード付きの外套を身に纏い、いやに赤い唇でにっこりと微笑む女性ーーレジナがそこにいた。
「な、んで貴女が・・・」
「なんで?なにもおかしなことはないわよ?私は本来ここにいるべき人間なんだから」
微笑んだままレジナは、わたしの前に立つと屈んで目線を合わせてきた。
「気分はどう?薬の影響はあるかしら?」
鋭利に伸びた爪がわたしの頬をなぞる。
言葉を紡ごうとして、喉がカラカラに渇いて声が掠れそうだったので、生唾を飲んでから口を開く。
「ど、うしてこんなことを・・・」
「ちょーっとお願いしたくてね。でも、貴女は部屋から出てこないし私はまだこの国にいるはずのない存在だから・・・貴女とお話しするためにここに来てもらったのよ」
「お願い・・?」
「お願い、というか、そこまでする理由なんてないんだけど・・・きっと貴女なら私が言いたいことなんてわかると思うけど」
匂わせるような言い方にわたしはすぐにピンときた。
「ーーーあの話なら、お断りしたはずですが」
「ふふ、私、思ったのだけど」
「っ」
ガッと伸びた爪を持つ手で頭を掴まれた。
鋭い爪が頭皮に刺さり、痛みが走る。
「お前に、断る資格なんてないのよ?」
にっこりと、しかし、レジナの目は笑っていなかった。




