#49・賽は投げられた
同じ城にあの人がいるという事実は、思った以上にわたしにストレスを与えてくれた。
「ーーーごちそうさま」
おいしいはずの朝食が、とても味気ない。
父王がこの城に来てから数日、わたしは食欲が目に見えて減ってしまった。
お腹は減る。でも、すぐに食べたくなくなる。
その繰り返しだ。
スープを数口しか口にしなかったわたしに侍女たちが慌て始める。
「レジナ様。全然召し上がっていないではありませんか」
「あまりお腹空いていないの。ごめんなさい」
「昨日もそうだったではありませんか。今すぐお医者様をお呼びしなくては」
「大丈夫。そこまでではないわ」
「しかし・・・!!」
ここの侍女達は、わたしのことを心底心配してくれている。
「レジナ様、本当に診ていただかなくてもよろしいのですか?」
側に控えてくれていたハンナが伺ってくる。
「本当に、大丈夫よ」
わたしは、薄く笑ってから席を立つ。
「準備して貰ったのに、食べられなくてごめんなさいと伝えてくれる?」
「レジナ様・・・」
「少し、休むわ」
そう言って、ハンナ達に一人にしてほしいことを告げてから、わたしは、部屋に引っ込んだ。
一人で眠るにはとても広いベッドに飛び込み目を閉じる。
幸い、ではないけれどサイラス様は、今この城の中にいなかった。
隣国との交渉が相手国の事情で早まってしまったと愚痴を珍しくこぼしながら出かけていった。
式の前日までには絶対に戻ってくると言いながら行く直前までわたしの心配もしてくれていた。
今、サイラス様が近くに居なくて良かったと思う。
もし、今のわたしの状況を知ってしまったら、あの優しい人のことだ、医者だの祈祷師だの呼んで大騒ぎになってしまうに違いない。
(ーーーー早く、終わらないかな)
あと数日、数日の辛抱である。
少し休むとハンナには言ったが、結婚式を間近に控えている今、休んでいる時間なんてほとんどないのはわたしも分かっている。
でも、ドレスの準備や式の一連の流れ、儀式の練習・・・その他諸々大方頭の中にたたき込んでいる。
実際に体に染みこませてはいないけれど、きっとなんとかなるだろう。
だから、休むことを許して欲しい。
ーーーーーコンコン。
来訪を告げるノック。
聞こえたけれど、出たくなかったので居留守を決め込むことにした。
だって、起き上がりたくないもの。
ーーーーコンコン。
しかし、来訪者も諦めないみたいだ。
何度かノックを繰り返されると、仕方なく身を起こす。
「ーーーーはい」
「すみません。大至急レジナ様にとお手紙を預かりまして・・・」
申し訳なさそうな声に、わたしは瞬きを繰り返す。
「大至急?」
急がねばならない手紙がどうしてわたしに?
心当たりはないけれども。
「はい、直接手渡しするようにと言われてまして・・・」
不安そうな声に、わたしは仕方ないとため息をつく。
何処の誰だかわからないけれど、よほどの事情なのだろう。
持ってきたドア越しの人物もきっとキツく言われてきたのだろう。
一体誰がわたしになんて。
「ーーーー分かりました」
重たい体を引きずるようにベッドから抜け出して、わたしはドアを開ける。
「手紙とはいったーーー」
「ーーーー少しの間、辛抱してください」
「っ」
う、と口元に布のようなものをあてられたかと思った、その刹那、わたしの意識はぷつりと切れてしまった。




