#46・天使の名前
カサッカサッと音を立てながら出てきた"天使"は、草むらから出てくると、一つ息を吐く。
「ふぅ、やっと出られたわ」
服についた葉っぱをはたき落としながら、天使は呟く。
言葉にもできず、ただ天使を見ていると、私の視線に気付いた彼女は首を傾ける。
「貴方、誰?」
鈴のように可愛らしい声を持つ人がいるんだな。
ぼんやりと思う。
天使は、問いかけたのに中々答えない私に、ギュッと眉を寄せると、興味がなくなったかのようにひらりと背中を向けられてしまった。
「あ、待って!」
「?」
「あ、の・・・、私は、今日のパーティーに招待された者で・・・」
「?パーティー?」
パーティーという単語に反応した天使は、城の中の方に目をやり、ふーん、と鼻を鳴らす。
「だから、誰もあそこにいなかったのね」
「?」
それから、また興味がなさそうに歩き始めようとした彼女を慌てて止める。
「待って、君は誰?」
すると、彼女はギュッと眉を寄せたまま睨みように私を見た。
「貴方には関係ないわ」
「あ・・・」
そう言って、歩きだしてしまった。
よく見ると、城にいるのに着ているドレスはとても質素な物だ。
装飾品は無くて地味な色。
レースの少なくてまるで侍女が着ている服にも見える。
(きっと、私より年下だろうな・・・)
身長も低く、細くて小さい。
力を込めたら砕けてしまいそうだ。
そんなことを考えている間に、どんどん彼女は離れていってしまう。
私は、一度パーティー会場の方を見る。
あまり遠くに行かなかったらいいよね?
どうしようもなく、彼女のことが気になった。
私は、一つ頷いてから、小さな天使を追いかけることにした。
「待って、待ってよ」
「・・・・」
「ねぇ、聞こえてると思うんだけど?」
思った以上に、早歩きの背中を追いかけながら執拗に声をかける。聞こえているはずなのに完全に無視されてしまってなんだか哀しい気持ちになるが、めげない。
「ちょっと、いい加減止まってくれない?」
「・・・」
「ねぇ、天使さん!」
天使さん、と呼んだ瞬間に、ピタッと足を止めた。
今度は急に止まったので危うくぶつかってしまいそうになる。
「うわ、」
「天使さんってなに」
「やっと反応してくれたね」
しかめっ面で振り返ってくれた。
そんな顔でも可愛らしいな、と思ってしまった。
やっと、バッチリと目が合う。
綺麗な琥珀色の目をしている。
ずっと見ていたいな、と思っていると、ますますしかめっ面が深くなった。
「ねぇ、聞いてるの。天使ってなに」
「それは、君のことだよ?名前わかんないし」
「でも、天使はおかしいわ」
今度は、呆れられた。
コロコロ変わる表情に、私は嬉しくなった。
「じゃあ、君の名前を教えてよ」
「なんで?」
「知りたいから」
子ども同士だから、警戒が緩んでいく。
「名前を知りたいなら、まず自分の名前からじゃないの?」
「サイラスって言うんだ」
間髪いれずに答えると、彼女は目を丸くする。
「そんなにあっさり教えていいの?」
「だって、君の名前を教えてもらえないだろう?」
「・・・私は、ルナ」
ルナ。
響きのいい綺麗な名前だなと思った。




