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#42・我儘再来




ハーゲン国で用意された貴賓室は、思った以上に居心地が良かった。

煌びやかな部屋装飾、ふかふかの上質なソファ。宝石のように輝いているお茶菓子。

すべてが一級品だと見てわかるものばかり。



この全てがいずれ儂のものになる。

そう考えるだけでニヤケてしまう。



ーーーコンコンコン。



「?誰じゃ」


「私です」



ドア越しに聞こえてきたのは聞き慣れた部下の声だった。



「入れ」



部下には、こっそりとあの娘に会えるように接触してこいと指示を出していた。思ったよりも早く報告が聞けるようだ。有能な王には有能な部下がつくのが常だ。

有能な部下に儂はほくそ笑む。



ガチャ、と音を立ててドアが開けられる。

入ってきたのは、部下と・・・。



「っれ、レジナ」


「お父様」



そこにいたのは、馬車に一緒についてきて、今頃は自国に戻っているはずの娘の姿だった。



「なぜ、ここに、お前・・・おい!なんでこの子を連れてきた!与えていた仕事はどうした!」



儂は、有能なはずの部下を叱責すると、部下は困ったように眉を下げる。



「仕事をしようにも、姫様が私から王に会わせてくれるまで離れないと捕まってしまいまして・・・。支障が出てしまうので致し方なくお連れした次第です」


「ぅ、」



ため息まで聞こえてきそうな部下の言葉に、儂は何も言えなくなる。

レジナは、おずおずと前に出てくる。



「どうしても、お父様に話があって」


「馬車から出ないという約束は!国に帰っているはずだろう!」



思わず怒鳴り声を上げてしまった。

すぐにハッとして声を潜める。



レジナは、儂の側まで来ると少し目を潤ませながら両手を絡ませた。



儂は、嫌な予感がした。



「私、国には帰らないわ。いえ、帰れないわ。私、私。やっぱりサイラス様と結婚したいの」


「っ」



ガンッと鈍器で頭を叩かれたような衝撃が襲った。

頭痛がする。



「何を言っているんだ。お前が嫌だと言ったんじゃないか」


「だって、あんな素敵な人なんて聞いてなかったもの。サイラス様完璧なお人だったわ。あの人の奥さんになりたいの」


「ーーー無理だ。お前の代わりにレジナとして嫁がせた娘がいるんだ。お前が出ていったら国交問題になる」


「なんで!私の旦那様でしょう?理由なんてこじ付けて元に戻せば丸く収まるはずでしょう!本物のレジナはここにいるんだし、お父様も都合がいいはずよ?」



ーーー儂の娘にもかかわらず、どうしてこんなに我儘に育ってしまったのだろうか。



あの娘を身代わりに嫁がせる前であったなら、やっぱり行くと言われても自国の中で解決できるから何ら問題はない。しかし、時はもうすでに遅い。

身代わりを嫁がせた今、本物のレジナはこの子だから変えてくれ、なんてことを軽々しく言うことはできない。我が国は、ハーゲン国に比べると全てにおいて劣っている国だ。小国が大国を欺いたとされば、報復がくることはまず間違いないし、軍を向けられれば、我が国は跡形もなく消え去ってしまう。



「ーーー無理だ。諦めなさい」



儂は首を振った。

いくらなんでもこの我儘を聞くことはできなかった。



「どうして?」


「全てが遅いのだ。お前は大人しく国に帰りなさい」


「いや、いやよ!私はサイラス様のお嫁さんになるの!お父様もあんな半分しか王族の血が入っていない子より、私の方がいいはずよ」


「なら、初めからお前が行くと言えばよかったんだ」


「だって、姿も知らない人になんて嫁ぎたくなかったんだもの。もし、不男で丸々と太っている人だったら?私よりも何十も年上の人だったら?美しい私の隣に立つに相応しくない人だったら?考えただけでも無理だもの」



王族の娘として、育ててきたはずだった。

贅沢はさせてきたし、教養もそれなりにしてきたはずだった。娘のことはもちろん可愛いし、願いは何でも聞いてやりたい気持ちは変わらない。



しかし、これはダメだ。



「ーーーもう、無理だ。全てが遅過ぎる。お前の願いを聞くわけにはいかない」


「お、お父様?」


「初めの約束通り、お前は今から国に帰りなさい」



儂は、部下に目配せをした。

察した部下は、レジナの体を支えながら立ち上がらせる。



「後は任せた」


「え、お父様、いや、いやよ」



首を激しく振る娘に、儂は視線を逸らした。



「話は終わりだ」


「お父様、ねぇ、お願いよ」


「いけ」



部下は、動かない娘を引っ張りながら部屋を出ていった。



「はぁ・・・」



1人残った儂は、ズキズキと頭痛とため息が止まらなかった。






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